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労働時間と割増賃金のお話(4)

竹下勇夫

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テーマ:労働時間と割増賃金のお話

~労働時間の通算~


 前回、1日8時間、週40時間の法定労働時間のことについてお話ししました。ところで、この法定時間の計算方法に関して、労働基準法38条という規定があります。その1項には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と記載しています。甲社のA事業場で5時間働いた後、同じ日に同社の別の事業場Bで働いた場合、その労働時間は通算します、ということですから、この場合1日9時間労働したことになり、法定労働時間を1時間超過したことになります。ここだけ見れば常識的な規定ですよね。

 ところが、行政解釈はこの条文の意味について、「『事業場を異にする場合』とは事業主を異にする場合を含む。」としています(昭23.5.14基発769号)。ずいぶんと古い通達ですが、平成30年1月に策定され、令和2年9月に改定された厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においても、「労働者が、事業主を異にする複数の事業場において、『労基法に定められた労働時間規制が適用される労働者』に該当する場合に、労基法第38条第1項の規定により、それらの複数の事業場における労働時間が通算される。」と明記していますので、上記行政解釈は現在も生きていることになります。

 従って、前記の事例で、仮にA事業場の事業主が甲社、B事業場の事後主が乙社であったとしても、その労働時間は通算されることになり、法定労働時間を1時間超過していることになります。

 後に述べますが、使用者は法定労働時間を超過して労働者を働かせた場合、時間外割増賃金を支払わなければなりませんが、上記の様な事例の場合、超過した1時間の割増賃金を支払う義務のあるのは甲社でしょうか。それとも乙社でしょうか。

 このような場合、上記ガイドラインは、「自らの事業場における所定労働時間と他の使用者の事業場における所定労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となる」、としています。従って、このガイドラインに従えば、上記の例の場合には、乙社の方が甲社よりも後から労働契約を締結していれば乙社が割増賃金を負担することになり、逆に甲社の方が乙社よりも後から労働契約を締結していれば甲社が割増賃金を負担することになります。

 筆者個人としては、どうにも釈然としかねる解釈ですが、行政解釈はそうなっているということを確認しておいてください。                     —続—

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専門家

竹下勇夫(弁護士)

弁護士法人ACLOGOS

検察官として10年、弁護士として30年超のキャリアを有し、高い専門性が求められる企業法務を得意とする。沖縄弁護士会会長等の公職を歴任する傍ら、琉球大学大学院法務研究科(現在は学部)講師の顔を持つ。

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