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コラム

経営戦略コンサルティングサービスの市場規模とは?需給分析による試算と洞察

2022年9月16日 公開 / 2022年10月21日更新

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 経営戦略リスク管理マーケティング戦略

最新のお知らせ:
読みやすくなるよう、所々の言い回しを修正しました。

それと、本コラムでもお伝えしておりました『【講座】戦略コンサルティングサービスに関する市場分析の詳しい解説 』をホームページの方に掲載いたしました。専門家向けの内容となります。


皆さま、こんにちは

経営戦略コンサルタントにご興味ある読者の方へ、コンサルティングに関する包括的な情報をご紹介するコラムシリーズ、第5-1回目です。

今回のキークエスチョンは『経営戦略コンサルティングサービスの市場規模とは?需給分析による試算と洞察』となります。

経営戦略コンサルタントに興味ある人のためのコラム紹介概要チャート-戦略コンサルティングの市場規模とは?需給分析による試算と洞察
上のツリー構造をご覧いただきますと分かるように、当初は一つのコラムでまとめて公開する予定でしたが、最終的には三つのコラムに分けることといたしました。

その理由は二つありまして、一つは市場規模を試算・洞察する今回のトピックが今までで一番長い文章量となってしまったという事と、二つ目はマイベストプロ様のサイトでは、画像掲載数が一つのコラム当たり最大20枚までと定められているためです。

したがいまして、ここでは経営戦略コンサルティングサービスの市場分析とそこから導き出される洞察のみをご紹介します。そして次回はビジネス戦略コーチングサービスについて論じ、次々回はデジタル化が進む現代社会において、中小戦略ファームや個人の経営コンサルタントは今後どうすべきか、私からの提案を述べます。

キークエスチョン5、5-1、5-2、5-3は内容的に繋がっておりますので、順番にお読みいただく事をお勧めします。その他、分析プロセスやパラメータの具体的な設定方法などは、後日ホームページで解説する予定です。

本題に入る前に、今回の主題に含まれているキーワード『市場規模』や『試算』について少しお話したいと思います。

よくテレビ・新聞・書籍を読んでいると、「市場規模の試算がいくら」、または「経済効果の推計はいくら」、などと書かれているのを目にした事がないでしょうか?その際、どのようにしてその数値が計算されたかまでは、普通詳しくは解説されません。

多くの場合はそれで問題ないのですが、ただ、ここで気を付けなくてはならないのは、その試算結果はあくまで推測値だということです。何らかの根拠に基づいてはいますが、それが何なのかは視聴者や読者の立場では窺い知ることはできません。そのため、私のような戦略コンサルタントの立場ですと、金額や数値だけ記載されている場合、妥当性を自身で検証できないため、その情報・データを引用すべきかどうかで迷うことがあります。

また、昔クライアントの立場でコンサルタントの方と一緒にお仕事をしていた時、先方からいただいたとある課題解決への提案に対し、私はその妥当性を判断するため、情報の共有をお願いしたことがあります。しかし、一貫して消極的な姿勢でしたので、クライアントとして提案内容の是非を判断できず、困ったことがあります。人を信じたいという思いはありますけれど、ビジネスではそれが裏目に出る事もありますので、今は出来るだけ論理的に判断するように心掛けています。

以上の経験から、漸コンサルティングのミッション(使命)にも明記しているのですが、クライアントの守秘義務に抵触しない限り、私は経営戦略・財務の専門家として常に情報共有には努めます。ですので、今回実施した分析や得られた洞察は全てお見せします。

前回のコラム『経営戦略コンサルティングサービスの市場需要とは?初期仮説を構築』で定めた仮説を基にお話が進みます。仮説の検証については暗黙的に行っています。なぜかと言いますと、あまり詳しい説明を文章中に入れてしまうと、本来の主旨から外れてしまうと考えたためです。それに、あえてコラムとして書くほどの内容ではない気もいたしますので、もしやるとすれば、ホームページの方で検証してみようと思います。

最後に、文章が長いのでお時間の無い方はまず、段落1の『要約ダッシュボードの紹介』からご覧ください。それでもしご興味のある内容となっておりましたら、そのまま段落2の『初めに』から順番に読んでいただけたらと思います。

それでは始めます。


1.要約ダッシュボードの紹介(経営戦略コンサルティングのみ)

最初に、経営戦略コンサルティングサービスの推計による市場分析結果を、要約ダッシュボードとしてまとめましたのでご紹介しておきます。通常、プレゼン時に私がお客様にお渡しするものです。

なぜお渡しするかと言いますと、分析や提案内容が長くなる場合があるので、これからどのようなお話をするかの全体像を最初に知っておいてもらいたいからです。ダッシュボードの代わりに、パワーポイントスライドを全て印刷しても良いのですが、大抵膨大なページ数となりますし、エコの観点から使用するペーパーはなるべく少なくするようにしています。プレゼンした資料は内容を追加・修正した上で、後日成果物としてお客様にお渡しします。

まずは、経営戦略コンサルティングサービスの市場分析ダッシュボード1ページ目からご紹介します。

こちらのチャート&グラフでは、事業者別による推定の『年間市場シェア』、『年間市場規模額と事業者数』、そして『1事業者当たりの年間平均売上と従業員数』を示しています。

1. 経営戦略コンサルティング需給分析ダッシュボード ページ1
2ページ目のダッシュボードは、経営戦略コンサルティングサービスにおける、『需要分析に基づく顧客ニーズおよび顧客需要の割合』、そして『需要と供給別の推定年間市場規模額』を示したグラフとなります。

2. 経営戦略コンサルティング需給分析ダッシュボード ページ2
以上の分析結果を前提として、試算内容や洞察を論じていきます。

2.初めに

今回は今までのコラム執筆とは趣向を変え、前段落1の『要約ダッシュボードの紹介』で掲載されているグラフやチャートを使用しながら、市場分析の結果をレポートする形で書いています。本コラムでは経営戦略コンサルティングの市場全体、そして次回はビジネス戦略コーチングの市場一部を考察する、野心的な試みとなっています。

エクセル表およびグラフなどは一から作成いたしました。行った市場分析の一例を以下にご紹介します。これはクライアントが大手企業の場合の、大手戦略コンサルティングファームの年間市場規模推定を行った際の試算表となります。

1. クライアントが大手企業の場合の、大手戦略コンサルティングファーム年間市場規模推定

補足:
一つの市場規模を試算するだけであれば、このように大体パワーポイントスライド1枚に収まる程度の計算量で十分です。これ以上複雑にしてしまうと、推計・予測をするだけで多くの時間がかかってしまいますし、他の人が容易に理解できなくなってしまいます。実務に堪えられるよう、推計・予測分析はシンプルに行うのが一番です。


出来るだけ要点を絞るように書きますが、業界全体の市場を把握するために、今後三つのコラム掲載を通して一通りの分析(つまり9つの市場分析)および洞察を行います。文章が長くなってしまう事はご容赦いただければと思います。

もしロジック的に誤りと思われる内容を発見されましたら、お手数となりますがご指摘いただけますと幸いです。

それと、(本コラムを含め)今後掲載する三つのコラムについて、注意点を初めにお知らせしておきます。

市場分析に使用したパラメータや仮定値、そして計算方法などその多くは、私の頭の中で生み出しています。市場のリサーチおよびデータの引用などは、今回ほとんど行っておりません。その理由は三つあります。

一つは、最初からデータ入手を前提に分析を行いますと、クリエイティブな思考が制約されると感じたからです。想像力や感受性の鋭さという、自分の生まれ持った資質を十分に活かせるよう、初期仮説を立てた段階で何らかの分析が必要であると分かれば、情報が見つかるかどうかには関係なく、今回のようにまずは試算してみます。

二つ目の理由は、検証に使える市場データが現実には中々手に入らないからです。今回は分析の正確さを要求されているわけではないですし、あまりリサーチに時間をかけるのはもったいないと感じました。それと、コンサルティング現場の事情もあります。私が想定しているお客様は、中小企業経営者や個人事業主の方々です。経営資源の限られる多くの中小事業者にとって、経営戦略を策定するためにゆっくりと時間をかけて、リサーチ・検証している暇はありません。論点となりそうな仮説を何回か検証してみて、その結果一定程度の妥当性があると分かれば、後は実行可能な範囲で事業計画を立て、試験を行い、PDCAサイクルを回しながら現場で実証・改善していくことが、現実解となる場合が多いです。時・場所・置かれている状況を考えて、何を優先とすべきかを決める事が成功へのカギとなります。

そして三つ目の理由は、私が戦略コンサルティングの業界について、事前に多少の知識を持っていたからという事もあります。論理性を重視する今回のコラム執筆では、既存の知識で十分対応可能と判断しました。昔学んだことを思い出しながら、今までの人生経験を交えて、仮定値などを設定しています。なので、もし全く知らない業界について分析するのであれば、十分な事前リサーチは当然のことながら必須となります。

以上が、今回市場リサーチをほとんど行わず、データを引用せずに市場分析を行った理由となります。ただし、その代わりとして、各パラメータでの妥当性チェックは入念に行うようにしました。

自分の頭の中から導き出したこの分析および洞察にどこまでの意味があるか、そのご判断は読者の方々にお任せします。

後、今回は実際に役立つ分析内容となるよう、規模別に九つの事業者カテゴリーに分け、それらの定義を以下の通りとしました。経営戦略コンサルティングのカテゴリーは五つ、そしてビジネス戦略コーチングのカテゴリーは四つに分けました。これにより、実態により近い需給分析を行うことができると思います。しかしながら欠点として、一見分かりづらい内容となってしまいました。申し訳ございません。

経営戦略コンサルティング規模別事業者カテゴリー:
一.企業法人の『大手戦略コンサルティングファーム
 ● 顧客は大企業で、従業員数は300人以上を目安
二.企業法人の『中小戦略コンサルティングファーム(大)
 ● 顧客は大規模な中小企業で、従業員数は150人以上299人以下を目安
三.企業法人の『中小戦略コンサルティングファーム(中)
 ● 顧客は中規模な中小企業で、従業員数は30人以上149人以下を目安
四.個人事業の『経営戦略コンサルタント(中)
 ● 顧客は中規模な中小企業で、従業員数は30人以上149人以下を目安
五.個人事業の『経営戦略コンサルタント(小)
 ● 顧客は小規模な中小企業で、従業員数は29人以下を目安

ビジネス戦略コーチング規模別事業者カテゴリー:
一.個人事業の『経営戦略コーチ(中)
 ● 顧客は中規模な中小企業で、従業員数は30人以上149人以下を目安
二.個人事業の『経営戦略コーチ(小)
 ● 顧客は小規模な中小企業で、従業員数は29人以下を目安
三.個人事業の『経営戦略コーチ(個)
 ● 顧客は個人事業主で、従業員数は数人ほどを目安
四.個人事業の『ビジネス戦略コーチ(会)
 ● 顧客は会社員個人で、支払いは自費

本文中では、『戦略コンサルティングファーム』という呼称は長いので、省略して『戦略ファーム』と呼ぶ箇所がありますが、同じ意味となります。

最後に、私はこの漸コンサルティング事業を立ち上げる時に、自分が属する業界に関してここまで詳しい市場規模の試算は行っておりませんでした。本コラムでも、当初仮説検証の一環として、手書きの簡易的な分析に留めておくつもりだったのですが、計算していく内に当事者として興味が湧いてきましたので、実際に意味のある洞察が得られるよう、時間が許す限りで考察しました。結論から言えば、それだけの価値はあったと思います。それを今回ご紹介していければと思います。

3.経営戦略コンサルティングサービスの市場規模を試算

この段落では、経営戦略コンサルティングサービスの需給分析を五つの事業者カテゴリーに分けて行い、それら試算結果をまとめたチャートやグラフ(段落1でご紹介したダッシュボード)を、一つ一つ詳しく解説していきます。

3-1.推定の年間市場シェアを示したパイチャート

最初に、経営戦略コンサルティングサービスの事業者別による、推定の年間市場シェア(年間市場規模割合)を示したパイチャートです。

1. 経営戦略コンサルティング:推定年間市場規模割合
ご覧いただきますと分かるように、やはり大企業向けにサービスを提供する大手戦略ファームの市場シェアが圧倒的に大きいです。全体の68%(約7割)を占めます。次が大規模な中小企業を顧客対象とする、中小の戦略ファームです。全体の19%(約2割)となります。3番目が中規模な中小企業が顧客の中小戦略ファームで、8%を占めます。そして、同じく中規模な中小企業を顧客とする個人の経営戦略コンサルタントの市場シェアが3%。最後に、小規模な中小企業向けにサービスを提供する個人の経営戦略コンサルタントの市場シェアが2%となります。

このデータを見て感じた事は二つあります。
● 上位二つの戦略ファームカテゴリー(大手と中小戦略ファーム)だけで、全体の9割近い市場を占めること
● 個人の戦略コンサルタントの市場シェアは、全体の5%しかないこと
 ⇒ つまり、法人ファームが市場規模全体の95%を占める

私の直感では当初、大手の戦略コンサルティングファームの市場規模割合は、全体の6割程度と想像していましたが、分析によると7割近いという結果になりました。大手と中小、上位二つの戦略ファームカテゴリーだけで9割近い市場を占め、その一方で、私のような個人の経営戦略コンサルタントの市場規模が全体の5%しかないのは、何となく予想はしていましたが、数字として見るとちょっとショックです。

このチャートが正しいと仮定した場合、私個人の事業戦略も多少見直しが必要となるかもしれません。

3-2.推定の年間市場規模額(年間市場売上高)と事業者数を示したグラフ

次に、推定の年間市場規模額(年間市場売上高)と事業者数を示したグラフについて考えてみます。前段落3-1との違いは、前者は割合表示だったものが、こちらでは金額表示となっている点です。

注:ここからは、事業者カテゴリーの呼称は短く省略して記載します。


2. 経営戦略コンサルティング:推定年間市場規模と事業者数
市場分析から、大手戦略ファームの市場規模額は1,764億円、中小戦略ファーム(大)は478億円、中小戦略ファーム(中)は193億円、経営戦略コンサルタント(中)は85億円、そして経営戦略コンサルタント(小)は61億円という試算結果になりました。

そして、次の段落でご説明する、1事業者当たりの推定年間平均売上を算出するために、カテゴリー別にそれぞれ事業者数を仮定いたしました。例えば、大手戦略ファームは日本国内に30ファームあるとします。同様に、中小戦略ファーム(大)が100ファーム、中小戦略ファーム(中)が200ファーム、経営戦略コンサルタント(中)が1,200人、そして経営戦略コンサルタント(小)が1,800人いると仮定した上で分析を進めています。

グラフからの傾向として、各カテゴリーの事業者数が多くなるほど、市場規模額は逆に少なくなる事が分かります。事前に予測は出来ていましたが、グラフで改めて確認できました。

それと、たまたま気づいたのですが、市場規模額の減少傾向が対数関数(0<α<1のとき)のグラフ形と似ていますね。やった事はないですけれど、以下のラインチャートのように、例えば市場規模の傾向を数式logで表現できますと、一つの既存データから他の事業者カテゴリーの市場規模額をざっくり予測できるようになるかもしれません。

対数関数の事例

3-3.1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数を示したグラフ

そして三つ目のグラフは、1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数を示しています。

3. 経営戦略コンサルティング:1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数
分析によると、大手戦略ファームは従業員数が1ファーム当たり平均で176人いて、年間平均売上は約59億円となります。中小戦略ファーム(大)の場合は、従業員数が1ファーム当たり平均で30人おり、年間平均売上は約5億円、そして中小戦略ファーム(中)は従業員数が1ファーム当たり平均で10人となり、年間平均売上は約1億円となります。

一方、個人の経営戦略コンサルタント(中)の場合は、一人当たり年間平均売上が707万円、そして個人の経営戦略コンサルタント(小)の場合は、一人当たり年間平均売上が340万円となります。

以上のデータから、1事業者当たりの従業員数および平均売上額共に、大手戦略ファームが突出している事が分かります。2番目の中小戦略ファーム(大)との間には約12倍の開きがありますが、なぜここまで差が開いたかと言いますと、市場規模の比較段階では4倍の差だったのですが、事業者数で見ますとさらに3倍の開きがありますので、掛け算で1ファーム当たりの年間平均売上に12倍もの差が出来てしまいました。売上次第で人材育成や設備投資などにかけられるコストも変わってきますので、どんな業界でも大手企業が競争で有利となる理由は、この掛け算にあるのかもしれません。

注意事項といたしまして、本分析では、従業員数が30人以上149人以下の中規模な中小企業を顧客対象とする事業者カテゴリーが二つあります。『中小の戦略ファーム(中)』と『個人の経営戦略コンサルタント(中)』です。この顧客セグメントだけ二つある理由は、それら事業者カテゴリーの顧客対象は重なっているので、ビジネスで競合していると考えたからです。

重なっている顧客セグメントは競合している
個人の経営戦略コンサルタント(中)にとっては、販売単価の高い顧客セグメントとなるため魅力的な市場となりますし、一方の中小戦略ファーム(中)にとっては最も顧客を獲得しやすいセグメントとなるので、売上を安定的に確保するためにも注力すべき市場となります。どちらにとっても重要な市場と考えられます。

市場で競合するということは、市場需要も二つの事業者カテゴリーの間で配分されるので、それぞれの受注数はその分減る事になります。したがいまして、法人の中小戦略ファーム(中)は約1億円、そして個人の経営戦略コンサルタント(中)は707万円と、どちらも年間平均売上が少なめに見積もられていることに留意してください。

それと、分析結果を見て個人的に気になったのが、小規模な中小企業を顧客対象とする、経営戦略コンサルタント(小)の年間平均売上です。経費も考慮しますと、340万円の年収では生涯の職業とするにはかなり厳しいと言わざるを得ません。あくまでこの試算が正しければの話となりますが、このカテゴリーに属する経営戦略コンサルタントは、毎年赤字の方も多いのでは?と考えられます。

3-4.需要分析による顧客ニーズ&顧客需要の割合

次に、需要分析に基づく顧客ニーズと顧客需要のお話に移ります。

顧客ニーズ割合の求め方は、“経営戦略の技能を必要としている企業数”から、“その顧客セグメントの総企業数”で割って導き出します。

顧客ニーズ計算式
そして、顧客需要の割合は、“仕事を依頼する企業数”から、“経営戦略の技能を必要としている企業数”で割って算出します。分母については、必要に応じて代わりに“その顧客セグメントの総企業数”を使用しても良いと思います。

顧客需要計算式

例えば、大手戦略ファームの試算表(段落2『初めに』で掲載)で説明しますと、経営戦略の技能を必要としている企業数が73,500あり、そして大手企業の数が420,000あるので、顧客ニーズの割合は17.5%という事になります。

同様に、仕事を依頼する企業数が5,880あり、経営戦略の技能を必要としている企業数が73,500あるので、顧客需要の割合は8.0%という事になります。

以下のラインチャートは、そのようにして導き出した顧客ニーズと顧客需要の割合(%)を、事業者カテゴリー別に示したものです。

4. 経営戦略コンサルティング:需要分析による顧客ニーズ&顧客需要の割合
大手戦略ファームは他の事業者カテゴリーに比べ、顧客ニーズおよび顧客需要の割合がダントツに高いことが分かります。それぞれ17.5%と8.0%です。これはつまり、クライアントが大企業ほど、経営戦略のスキルを重視している事を示唆しています。

逆に一番右側、従業員数が29人以下の小規模な中小企業ですと、ニーズ(9.0%)も需要(4.0%)も大手戦略ファームの半分ほどになってしまいます。これは、小規模な中小企業にとって、経営戦略の知識やノウハウをあまり求めていないという事を示唆しています。なぜかと言いますと、以前のコラムでも言及した通り、人材不足も問題ではありますが、それ以上に人手不足の方が深刻と考えられるためです。経営戦略のスキルはただちに売上増に反映されるわけではないので、クライアントにとっても必要性が低く、それゆえサービスを求める割合も低くなった可能性があります。

そして真ん中の、中小戦略ファーム(大&中)や経営戦略コンサルタント(中)の場合は、サービスを受けるクライアント企業の規模に関係なく、ニーズも需要もあまり変わらないようです。経営戦略のスキルを比較的重視しているという事でしょうか。

前段落3-3の分析で、個人の経営戦略コンサルタント(小)の年収が340万円とかなり低くなったのも、この顧客ニーズと需要の少なさに原因があるように見えます。そうしますと、売上を増やしたければ、まずはこの顧客ニーズと需要が改善可能かどうかを見ていけば良いことになります。ニーズの喚起は現実的に難しいので、需要喚起を優先して検討していく事になるでしょう。

詳細な分析プロセスを見ていきますと、どのパラメータが売上にインパクトを与えているかも分かりますので、参考までに試算表を以下に載せます。

5. クライアントが小規模な中小企業の場合の、経営戦略コンサルタント年間市場規模推定
計算内容についてはHPで詳しく説明する予定なので、ここでは結論だけ言いますと、需要を増やす事で売上増を目指すのであれば、以下の4つのパラメータ割合を増やせれば良い事になります。

売上に影響のあるパラメータ:
一.経営戦略コンサルティングサービスの活用を検討する企業の割合
二.仕事をコンサルタントに依頼する企業の割合
三.1企業当たりの個人コンサルタントへの発注数
四.1注文当たりの案件依頼数

このように改善点の糸口は見つかりましたので、深い考察に入る前に次の分析項目に移ります。

3-5.需給別の推定年間市場規模データ

経営戦略コンサルティングサービス最後のグラフは、需給別の推定年間市場規模データについて解説します。

5. 経営戦略コンサルティング:需給別の推定年間市場規模データ
グラフの下半分をご覧いただきますと、事業者カテゴリー別に三種類のデータが記載されている事が分かります。

需要ベース市場規模』とは、トップダウン分析によって導き出された、需要サイドの最大売上高となります。市場需要の観点から達成可能な、最大の市場規模額です。商品やサービスの販売価格が変わらず、顧客ニーズや需要が増えない限り、これ以上需要ベースの市場規模額も増える事はありません。

一方の『供給ベース市場規模』とは、ボトムアップ分析によって導き出された、供給サイドの最大売上高となります。供給の観点から達成可能な、最大の市場規模額です。商品やサービスの販売価格が変わらず、供給量が増えない限り、これ以上供給ベースの市場規模額も増える事はありません。

最後に『現実的市場規模』についてですが、供給量が需要量を上回っている(供給≧需要)場合は、需要量分しか売上を達成できないので、現実的市場規模額は需要量をベースに記載します。グラフで示しますと、3番・4番・5番の事業者カテゴリーが該当します。逆に供給量が需要量を下回っている(供給<需要)場合は、供給分しか売上を達成できないので、現実的市場規模額は供給量をベースに記載します。グラフで示しますと、1番と2番の事業者カテゴリーが該当します。

このグラフから、大手戦略ファームや中小戦略ファーム(大)など、規模が大きい事業者は需要が供給を上回っています(供給<需要)ので、顧客から人気があるサービスという事が読み取れます。一方の、中小戦略ファーム(中)や個人の経営戦略コンサルタントなど、規模の小さい事業者は、供給が需要を上回っている(供給≧需要)状況なので、マーケットではあまり認識も関心も持たれていないか、または、限られた市場パイを巡って、ライバル間の競争が激しく起きている可能性があります。

4.経営戦略コンサルティング事業の現状と今後の仮説

この段落では、今までの経営戦略コンサルティングサービスの市場分析を基に、業界の現状と今後について考察してみたいと思います。自分の想像力・洞察力を駆使して、様々な仮説を立てていきます。

この仮説がどこまで正しいかは私自身では証明出来ないので、直接当事者に聞いてみるしかありません。ただ、4番や5番の中小企業に向けた個人の経営戦略コンサルティングサービスであれば、仮説の正誤を自らの行動で実証していく事は可能です。もし間違った仮説を立てていると分かれば、速やかに修正し、自身の事業戦略に反映させます。

4-1.大手戦略コンサルティングファームの仮説

1. クライアントが大手企業の場合の、大手戦略コンサルティングファーム年間市場規模推定
1番の大手戦略ファームのケースは、上記の試算表を見る限り、沢山の市場需要(4,704案件/年)に対してサービス供給量(3,528案件/年)が追い付いていない状況を示しています。しかしながら、現状ではその市場需要を満たすために、サービス供給量を(従来の方法で)大幅に増やす計画は、大手戦略ファームにはないと思います。その理由は三つあります。

一つ目は、人材を確保し、育成するのにお金も時間もかかるためです。どのような職業でも同じだと思いますが、スキルを学ぶだけなら2~3年で十分でしょうが、そのスキルを臨機応変に活用できるレベルにまで達するには、知識だけではなく経験も必要なので、一人前となるのに最低5~10年くらいは見ておくのが普通だと思います。

二つ目は、もし経済環境が悪化し、市場需要が大きく減少したとしても、長い年月をかけて大事に育成した優秀なコンサルタントを雇い続けられるよう、余裕のある事業体制とするためと考えられます。仮に需要に合わせて人材をこれ以上増やせば、その需要が無くなった時点で人を減らさなくてはなりません。これはコンサルタントにとっても、そしてファームにとっても好ましい事ではありません。

そして三つ目は、企業ブランドの維持です。例えば、クライアントが相談すればいつでも依頼に応じるような、来るもの拒まず状態では、コンサルティングサービスにお手軽感が出てしまいます。大手戦略ファームにとっては、ブランドイメージの維持・向上の観点で逆効果と考えられます。

つまり、費用対効果および企業ブランドの面から、あえて売上の最大化を目指すのではなく、一定の供給不足の状態を甘受する事で、ブランドイメージを維持しつつ不測の事態にも柔軟に対応できる経営体制を取っていると考えられます。

しかしながら、現状の規模の経済を活かしづらい労働集約型の業態は、売上増のボトルネックとなっている事には変わりないため、近い将来大手戦略ファームはIoT・ビッグデータ・AI技術などを導入して、効率的な事業運営およびコンサルティングサービスが提供できるよう、その体制づくりを検討している最中と思います。そしてもし、サービスのAI化が近い将来一部でも実現すれば、大手戦略ファームの市場シェアはさらに増加すると私は予測します。

留意事項:
ここで行われている全ての供給分析は簡易的なものであり、需要分析の結果を活用しています。なぜ簡易的な手法を今回選択したかと言いますと、詳細な供給分析を実施するためには、現場を熟知していないといけないからです。私は大手戦略ファームや中小戦略ファームで過去に仕事をした経験がないので、推計に大きなズレが生じないよう、簡易分析に妥当性チェックを適宜組み入れることで対処しました。実際に供給分析を行う場合は、現場社員の方と一緒にチームとして仕事を進めるのが普通です。

4-2.中小戦略コンサルティングファーム(大)の仮説

次に、2番の中小戦略ファーム(大)のケースについて考察してみます。

2. クライアントが大規模な中小企業の場合の、中小戦略コンサルティングファーム年間市場規模推定
1番と同様に、こちらも多くの市場需要(3,402案件/年)に対し、サービス供給量(3,189案件/年)が追い付いていない状況を示唆しています。ただし、供給量はすぐに増やせなくても、このカテゴリーのほとんどの事業者は、売上をさらに増やしたいと考えているはずです。少なくとも現状において、コスト削減を優先しようとするファームは少ないと思います。

なぜかと言いますと、戦略コンサルティング事業において、優秀な人材を確保・育成・維持していくためには、まとまったお金が必要だからです。大手の戦略ファームと比べ、中小戦略ファーム(大)のサービスは市場需要も少なく、販売単価も低いので、売上には大きな差(12倍の差)が生まれてしまいます。

積極的な売上増対策を行わなければ、まとまった人材・設備投資が出来ず、いつまで経っても中小戦略ファーム(大)は大手戦略ファームに追いつくことができません。それどころか、今はまだ需要があるのですぐに仕事に困ることはなくても、対策を怠れば、変化が激しくなりつつある世の中において、いずれ売上減少に直面するリスクがあります。そうならないよう、継続的に市場需要を喚起しつつ、並行して常連客(リピーター客)を増やしていかなくてはなりません。

ではどうやって売上を増やすかと言うと、供給側の制約により販売量そのものは増やせないので、それを逆手に取ってさらに需要を喚起する事で、サービスに対するプレミアム感(不足感・希少性)、そして割安感(大手と比べ)を生み出し、社会的信用のあるクライアントからの仕事を確実にこなす事で実績を積み重ね、中・長期的にはブランド力を付けて販売単価の向上を目指します

「そんなにうまくいくわけがない」と思われるかもしれませんが、どのような形であれ単価を上げられないと、大手の戦略ファームに追いつくことは一生困難となります。さらに需要変動が起きた際、ビジネスの潮目が大きく変わってしまうと、取れる対策が限られてしまうリスクにさらされますので、そうならないよう余裕のある内に常連客を増やし、想定外の事態にも耐えられる事業体制としておく事が肝心です。

補足:
戦略家にとっても、負け戦を勝ち戦に転換させるのは容易な事ではありません。経営者の心身や経営資源に余裕のある内に、負けない条件、勝つ条件を整えておくことが重要です。


後は、大手戦略ファームはこれからほぼ確実に、AIなどを導入した中小企業向けコンサルティングサービスを開発・提供してくると思いますので、中小の戦略ファーム(や個人の経営戦略コンサルタント)はその大波に対し、どのように対応するかを今から考えておく必要があります。

よって、中小戦略ファーム(大)の主な論点は、サービス単価が向上可能かどうかと、リピーター客をどれだけ増やせるかにあると思います。

4-3.中小戦略コンサルティングファーム(中)の仮説


3. クライアントが中規模な中小企業の場合の、中小戦略コンサルティングファーム年間市場規模推定
3番の中小戦略ファーム(中)のケースは、サービス供給量に余裕がある(3,084案件/年)ので、設備投資や社員の年収アップ(モチベーションアップ)のために売上をもっと増やしたいが、市場需要が少なくて(2,410案件/年)売上が伸び悩んでいる状況が想定されます。

そのため、需要喚起が必須となりますけれど、経営リソースに相当な制約があるので、取れる対策は限られます。高度な専門性・独自性による差別化が可能かどうか、そして効果的なマーケティングが出来るかどうかが、成功のカギとなりそうです。

後、前段落の4-2と同様、近い将来大手戦略ファームが中小事業者向けのAIコンサルティングサービスを提供してくると思いますので、それに対する生き残り戦略を考えておかなくてはなりません。

よって、中小戦略ファーム(中)の主な論点は、サービス単価を維持しつつ(安売りせずに)、いかに市場需要を喚起するかにあると思います。

4-4.経営戦略コンサルタント(中)の仮説


4. クライアントが中規模な中小企業の場合の、経営戦略コンサルタント年間市場規模推定
4番の経営戦略コンサルタント(中)の場合は、サービス供給可能量に大きな余裕がある(3,600案件/年)一方で、市場需要は少ない(2,121案件/年)ので、これ以上の売上増は見込めませんが、注目すべき点はコンサルタント一人当たりの年収が707万円という事です。これくらいの売上があれば、経費を考慮しても比較的余裕のある持続可能なビジネスおよび日常生活を送ることができると思います。

ただし、社会環境が大きく変わり、市場需要が減少した際は、それに合わせて年収も大きく減少するという、外的要因による経済リスクをはらんでいます。高度な専門性・独自性による差別化はすでに出来ていると思うので、後は想定外の事態にも対応できるよう、マーケティング・サービス内容・顧客対応のさらなる洗練化によって市場需要を喚起しつつ、仕事の傍ら個人のスキル向上にも主体的に経営リソースを割いていく必要があります。そう考えますと、一人では時間がいくらあっても足りませんね。このレベルまで事業が成長したら、人件費との兼ね合いになりますが、アシスタントを雇った方が良さそうです。

それと前段の4-2同様、将来大手戦略ファームが中小事業者向けのAIサービスを展開する可能性がありますので、この事業者カテゴリーも個人としてどんな対策ができるかを真剣に考える必要があります。

したがいまして、経営戦略コンサルタント(中)の主な論点は、サービス単価を維持しつつ(安売りせずに)、いかに市場需要を喚起するか、そして、時代に付いていくためのスキル向上にどれだけのお金と時間を割けるかにあると思います。

4-5.経営戦略コンサルタント(小)の仮説


5. クライアントが小規模な中小企業の場合の、経営戦略コンサルタント年間市場規模推定
最後の5番の経営戦略コンサルタント(小)の場合は、サービス供給可能量に十分な余裕がある(5,400案件/年)一方で、市場需要は少ない(2,449案件/年)ので、これ以上の売上増はすぐには見込めません。そのような状況の中、コンサルタントの数が1,800人いるのに、市場規模が61億円と少ないので、一人当たりの平均年収が340万円となってしまい、生活の維持すら困難な状況の人が多い、というのが私の分析結果となります。

基本的な対策としては、売上を増やすために、幅広い潜在顧客にアピール可能なマーケティングチャネルの選定魅力的なサービスの提供、そして丁寧な顧客対応によって、市場需要を喚起しつつ、仕事の傍ら個人のスキルアップにも積極的に経営リソースを割いていく必要があります。

しかし、前段落4-4の場合とは異なり、売上が伸びない理由として、高度な専門性・独自性による差別化が十分出来ていない可能性がありますので、その場合は、一度自身のビジネスを根本から見直す必要があるかもしれません。

一度に全ては出来ないので、優先度を決めて一つ一つ取り組んでいく事になると思います。

それと、将来大手戦略ファームが中小事業者向けのAIサービスを展開する可能性がありますので、個人としてどんな対策ができるかを考える必要があります。

よって、個人の経営戦略コンサルタント(小)の主な論点は、サービス単価を維持しつつ、いかに市場需要を喚起するか、そして、時代に付いていくためのスキル向上にどれだけのお金と時間を割けるかにあります。もし事業を初めて数年経っても状況が好転しない場合は、高度な専門性・独自性による差別化が出来ているかどうかを、一度時間をかけて見直した方が良いかもしれません。

5.まとめ

以上が、経営戦略コンサルティングサービスの需給分析による市場規模の試算、そして、知識や経験に基づく私の洞察をまとめたものとなります。

掲載できる画像数が最大20枚と限られているため、当初一つだったコラムを三つに分けて公開することにしました。これで内容全体の4割ほどかと思います。それと、「どのように計算したのか?」、「なぜこの値にしたのか?」などの詳細は、専門的なお話となりますので、後日ホームページで掲載する予定です。

次回のコラムでは、今回と同じような形で、ビジネス戦略コーチングサービスの市場規模を試算・洞察してみます。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

ホームページでは本コラムの小話もご紹介していますので、よろしければそちらもご覧ください。

この記事を書いたプロ

味水隆廣

財務分析を経営戦略につなげる国際ビジネスのプロ

味水隆廣(漸コンサルティング)

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