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経営戦略コンサルティングサービスの市場需要とは?初期仮説を構築

2022年8月14日 公開 / 2022年9月24日更新

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 経営戦略

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読みやすくなるよう、所々の言い回しを修正、一部内容を追加してみました。

皆さま、こんにちは

経営戦略コンサルタントにご興味ある読者の方へ、コンサルティングに関する包括的な情報をご紹介するコラムシリーズ、第5回目です。

前回のコラムから約1か月間空きましたが、ホームページの内容を充実させておりました。おかげさまで、本テーマ最終話で書く予定の、キークエスチョン6『経営戦略コンサルタントに必要なスキルとは?』の内容も充実する見込みです。

今回のキークエスチョンは『経営戦略コンサルティングサービスの市場需要とは?初期仮説を構築』となります。今までのお話の流れから、コンサルティングとビジネスコーチング両方の市場について言及していきます。

経営戦略コンサルタントに興味ある人のためのコラム紹介概要チャート-市場需要とは?
それと、市場規模の試算および仮説の検証については、次回のコラムにまとめることにいたしました。戦略コンサルティングの市場について、ここまで詳細な需給分析を行ったことが過去に無かったので、今回当事者として楽しみながらかつ妥協なく書いています。結果、文章が長くなり、前後編と相成りました。いろんな洞察が得られそうなので、お楽しみにしてください。


初めに

今までのコラムでは、経営者やビジネスパーソンが抱えている問題を洗い出し、顧客ニーズについて考察いたしました。そこで今回は、優先度の高い問題に絞り込み、顧客ニーズを具体的に抽出します。そして想定される市場需要に基づいて、仮説を構築していきます。

なぜ仮説を構築するのかと言いますと、私の経験上では二つ理由があります。

一つ目は、仮説を立てる事によって因果関係が明確になる事です。自らの考えを整理できますし、人にも説明しやすくなります。特にコンサルタントの場合、事業分析などを通して最後に提案を行いますので、なぜそのような結論に至ったかを論理的に説明できなくてはなりません。レポートの提出時やプレゼン発表時などに、ストーリーとして効果的に仕事の付加価値を相手に伝えられるようになります。

そして二つ目は、クライアントの抱えている問題や課題に対し、自分の現状認識が正確かどうか、または将来予測が妥当かどうかを検証・確認しやすくするためです。次回のコラムで市場需要および規模を実際に計算しますが、それは私が立てた仮説の妥当性を検証するために行います。もし、仮説にある程度の妥当性があると証明されれば、通常はそこから課題解決の選択肢をいくつか考案してみます。もしその仮説がクライアントの課題解決に直接繋がっていなければ、そのようになるよう修正した上で、再度検証します。仮に正しくない仮説をベースに解決策を導き出しますと、その提案は間違っている可能性が高くなります。

以上の二つ、『仮説の構築力・検証力』と『論理的なストーリー構成力』は、一般的にクライアントが経営戦略コンサルタントに期待する、基本的スキルと言えるかもしれません。

注:
本コラムはあくまで経営戦略コンサルタントの紹介が目的なので、仮説の再修正や、課題解決のオプション考案などは行いません。どんな市場需要があるかを推定し、それらに関する初期仮説を構築、そして市場分析、検証すれば、ここでの目的は達成した事とします。

イントロはこれくらいで十分と思いますので、本題に入ります。

1.優先度の高い問題への絞り込み

まず、以前のコラムで論じた、キークエスチョン『企業・個人事業主・会社員が抱えているビジネス上の問題(悩み)とは?』から経営戦略に関する問題を洗い出しましたので、それぞれの顧客ニーズとその解決アプローチを以下にまとめたいと思います。

顧客ニーズと解決アプローチ:
問題1:『必要なスキルを持った人材の不足』
● 高度な専門技能・知識の提供 ⇒ コンサルティング
● 情報提供 ⇒ コンサルティング、ビジネスコーチング
● 人材育成 ⇒ コンサルティング、ビジネスコーチング、社員研修
● 組織改革 ⇒ コンサルティング

問題2:『離職率の高さ』
● 人材の定着促進 ⇒ コンサルティング、カウンセリング
● 人材育成 ⇒ コンサルティング、ビジネスコーチング、社員研修
● 組織改革 ⇒ コンサルティング

問題3:『低い労働生産性』
● 第三者による改善アドバイス ⇒ コンサルティング
● 人材育成 ⇒ コンサルティング、ビジネスコーチング、社員研修
● 組織改革 ⇒ コンサルティング

問題4:『創造性・独創性の欠如』
● 高度な専門技能・知識の提供 ⇒ コンサルティング
● 情報提供 ⇒ コンサルティング
● 人材育成 ⇒ コンサルティング、ビジネスコーチング、社員研修
● 組織改革 ⇒ コンサルティング

問題5:『実行力の欠如』
● 人材育成 ⇒ コンサルティング、ビジネスコーチング、社員研修
● 組織改革 ⇒ コンサルティング

上記リストを見る限り、それぞれの問題への解決アプローチとして、コンサルティング・ビジネスコーチング・社員研修・カウンセリングのいずれかを実施する事で対処は可能なようです。

ただ、全ての問題に対して仮説の構築や市場需要の推定を行っていては、時間がいくらあっても足りませんので、どれを優先課題とするかは、各企業の経営判断によって異なります。

本コラムでは、メディアでも取り上げられることの多い、問題1の『必要なスキルを持った人材の不足』について考察していきたいと思います。

ちなみに、私が仕事を請け負うケースでは、経営戦略・財務分析・国際ビジネスのいずれかの分野で、かつ組織改革以外の顧客ニーズでしたら、多くの場合で対応可能かと思います。

なぜ組織改革というニーズに自分が対応しづらいかと言いますと、例えばクライアントから「生産性を向上させるために組織改革を検討したい」というご相談があった場合、戦略コンサルタントとしてその計画を策定するだけでは済まない事があるからです。相談内容に実行支援(インプリメンテーション)も含みますと、人間関係の機微(社内政治や利害関係者同士の調整)も考慮しなくてはなりませんので、自分一人では荷が重い案件となります。実行支援を考慮する必要が無ければ、戦略家として私でも対応できるかもしれません。

2.顧客ニーズを抽出

次に、前の段落で優先度の高い問題を絞り込みましたので、ここでは対象となるクライアント別に顧客ニーズを具体的に抽出していきたいと思います。なぜ顧客ニーズを抽出するかと言いますと、後でそれに基づいて市場需要を想定するからです。

まず、クライアントが大手企業の場合は、以前にも書きましたが、経営リソースが潤沢なので、様々な人材がすでに揃っていると考えられます。しかし、例えば昨今急激に増えたDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の需要には対応しきれていないようです。よって、特定のスキルを持った人材が不足している現状から、試しに顧客の視点で『多くの大手企業にとって、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材・サービスには顧客ニーズがある』と考えてみます。後で検証しますので、ここでこのニーズが正しいかどうかを今気にする必要はありません。

そして、クライアントが中小企業の場合ですが、DX人材に限らずスキルを持った人材の不足は全般的に深刻と思われます。前段の大手企業と同様、顧客の視点で『多くの中小企業にとって、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材・サービスには顧客ニーズがある』と考えてみます。

後、クライアントが個人事業主のケースですが、ほとんどの場合、少人数でビジネスを運営されているため、慢性的に人手・人材・資金不足という状況が想定されます。問題解決のために経営コンサルタントへ依頼するよりも、事業のことを一番よく分かっているご自身で必要なビジネススキルを習得し、迅速に事業を分析、そして経営戦略を策定したいと思いますので、クライアントが大手企業および中小企業の場合とは提供するサービス内容が異なってきます。よって、スキルを持った人材が慢性的に不足しているという仮定から、試しに顧客の視点で『多くの個人事業主にとって、経営戦略の専門スキルを習得するための学習(または人材育成)サービスには顧客ニーズがある』と考えてみます。

最後に、お客様が会社員の場合ですと、所属している企業がスキルを持った人材の不足に悩まされているケースが考えられます。そうなりますと、会社からスキルアップを求められる事もあるでしょう。巷では『リスキリング』や『学び直し』という言葉をよく耳にしますね。そこで、会社員の方は事業者向けの経営戦略コンサルティングや企業研修サービスを自ら必要としない代わりに、個人向けの学習支援サービスには一定程度の顧客ニーズがありそうと判断できます。したがって、企業ではスキルを持った人材が不足しているという前提条件の下、顧客の視点で『多くの会社員にとって、企業が必要としている経営戦略の専門スキルを学べる学習(または人材育成)サービスには顧客ニーズがある』と考えてみます。

以上、対象となるクライアント別に、それぞれ考えられる顧客ニーズを抽出してみました。

3.想定される市場需要に基づいて仮説を構築

ここまでで、ビジネス上の問題を優先度の高さで絞り込み、顧客ニーズも具体的に見えてきたので、実際にどんな市場需要が想定されるかの仮説を立ててみます。

ただその前に、仮説構築の基本的な考え方について述べておきたいと思います。

3-1.仮説の構築方法

仮説を立てると言うと難しく聞こえますが、普段皆さまも意識せずに行っていると思います。

例えば経営者の方であれば、あるテレビ番組を見た際「うちもこんな商品を販売すれば売れるんじゃないか?」と考えた事はあると思います。その際、「なぜ売れるのか?」と疑問を感じ、「おそらくこういう理由で、お客様は欲しくなってその商品を購入するのだろうな」と自然にストーリーを考えるのではないでしょうか?これが仮説です。

ただ戦略コンサルタントの場合は、そこからさらに踏み込んで、仮説の因果関係に基づく妥当性の検証を試みますので、その点が異なります。

例えば、「○○という問題があるので、△△の対策を今行えば、売上は10%伸びるだろう」という仮説を立てたとします。これに対し、まず○○問題に対して△△の対策がベターな解決策かどうかを検証してみる必要があります。そして、△△の解決策を採用した場合、本当に売上が10%増えるかどうかの検証も必要になります。全体で調査・分析・洞察を繰り返すことで、経営戦略コンサルタントは課題解決に向けて、より実現可能性が高いと思われる提案を行います。

3-1-1.仮説を立てるアプローチはツリー構造化と直接法の二つ

仮説を立てるアプローチとしては、キークエスチョンをツリー構造化してから行う方法と、直接行う方法があります。

おそらく、専門分野のスペシャリストの方であれば、後者の方法、つまり無意識の内に仮説を頭の中で立てて、検証しながら仕事を進めていると思います。これの大きなメリットとして、ツリー構造化の方法に比べ、はるかにスピーディに仕事を進める事ができる、という点が挙げられます。しかしながら、専門知識やノウハウが豊富な方でなければ、効果的に実践できないというデメリットもあります。もし知識や経験の浅い方が、このやり方でお客様の問題を解決しようとしますと、例えば見当違いのサービスを提供してしまったり、追加の作業が必要になったりする場合があります。よく納期が延びる原因の一つとして、この仮説構築の時点で焦点がずれている可能性が考えられます。

一方、ジェネラリストである経営戦略コンサルタントの場合、幅広い顧客ニーズに対応できるよう、一般的に上記の課題解決手法は取りません。検討項目に漏れやダブりが極力生じないよう、多少時間はかかりますが、問題をツリー構造化してから、優先度の高い項目に対して仮説を構築していきます。ツリー構造化の事例については、以前書いたコラム『企業・個人事業主・会社員が抱えているビジネス上の問題(悩み)とは?』でご紹介しています。

3-1-2.仮説の完全な証明は困難

ただし、仮に仮説を立てたとしても、その仮説が正しいかどうかを完全に証明することは、多くの場合で困難です。まず、検証のために活用できる適切なデータが見つかるかという問題がありますし、仮に分析に使えそうなデータが見つかり、かつ相関関係を示せても、仮説の因果関係も正しい(真)とは限りません。

特に国が異なり、時間軸が異なるデータを使用する時は、数値分析で得られる結果は参考程度に留めておくのが無難です。いくら他国の事例や過去の事例があっても、他の前提条件が異なっていれば、結果は容易に変わってくるからです。海外の事業展開で日本企業が失敗する要因の一つとして、この前提条件を軽く見ているか、または見過ごしている可能性が考えられます。

3-1-3.検証のためのデータが見つからない時の対処方法

もし検証のためのデータが見つからない時は、潜在顧客または既存顧客へアンケートを取ってみるのも一つの手です。しかし、人手とお金がかかるので、今はネットを使ったアンケートが主流になっています。情報発信力のある企業でないと、このやり方で意味のあるデータ収集はおそらく困難と思いますので、現実的には、クライアントと会った際にその都度聞いてみる方法に落ち着くと思います。

つまり、多くの企業にとって、必要な時に必要なデータが揃っていない状況がほとんどという事です。ビジネスはタイミングが重要なので、仮説の構築方法に加え、必要な時に必要な事をすぐ検証できるよう、推定・予測のための分析知識・ノウハウが成否のカギになります。だから、多くの戦略コンサルティングファームでは、この教育に力を入れているのだと思います。

次回のコラムでは、需要分析と供給分析(トップダウン分析とボトムアップ分析)を行い、市場規模を試算してみます。今回は市場規模を知りたいだけなので、需要分析をメインとし、供給分析は妥当性チェックのために補助的・簡易的に実施します。そうして導き出した推定データを基に、仮説を検証してみます。

3-1-4.立てた仮説が間違っていると分かった場合の選択肢

後、検証の結果、もしこの初期仮説が間違っていると判明した場合の考え方も書いておきます。いくつかの選択肢があります。

まずは仮説の内容を修正した上で、再び検証してみることです。しかし、もし仮説に基づく課題解決策の実行に何らかの困難があると判断した場合は、他に優先度の高い仮説に取り組んでみるのも一つの手です。

仮に、仮説の検証結果が不透明で、かつ解決策を実施した後の将来見通しが不確かな場合であっても、クライアントがその案に十分確信および納得されているのであれば、実際に小規模な実証試験を行い、PDCAサイクルを回しながら実行可能性および実現可能性を検証していく方法もあります。

資本主義の世界では少数の人が大きく成功します。皆が理解し納得できるようなビジネス案が、必ずしもベストとは限りません。たとえ論理的根拠は薄くても、経営者の経営判断(ビジネスジャッジメント)でその企画案が正しいと確信でき、かつ計画が実行可能であれば、リスクの少ない形ですぐに実証試験を行った方が良い場合もあります。ビジネスの成功には参入タイミングや事業スピードがカギとなる事も多く、特に中小企業の場合は、経営戦略や財務分析にあまり時間をかけるべきではありません。

3-1-5.臨機応変なコンサルティングスタイルが私のモットー

したがいまして、このような現実の不確かなビジネスにも臨機応変(機に臨み変に応じる)に対応できるよう、漸コンサルティングでは論理思考力だけでなく、知識力、想像力、そして洞察力を駆使して、柔軟に支援する事を常日頃から心掛けています。当ホームページの『戦略コンサルティング』ページでも、「臨機応変なコンサルティングスタイル」として課題解決への基本的姿勢(モットー)をご説明しています。


「千変万化する情勢の渦中にあって、節操を保つただ一つの道は、遠大の目的を堅持しながら情勢と共に移り変わることである」
ウィンストン・チャーチル『わが思想・わが冒険』より 新潮社

3-2.対象顧客別に仮説を構築

それでは、対象となる顧客別に、今まで論じてきたクライアントの抱えている問題、顧客ニーズを基に、想定される市場需要を設定して仮説を立てていこうと思います。

その際に、前提条件として、クライアントが大手企業の場合は、サービスを提供する側も大手の戦略コンサルティングファームとします。クライアントが中小企業の場合は、中小の戦略コンサルティングファームまたは個人の経営戦略コンサルタントがサービスを提供すると仮定し、クライアントが個人事業主や会社員の場合は、個人の経営戦略コーチ(またはビジネス戦略コーチ)がサービスを提供するものとします。

顧客ニーズにしても市場需要にしても、実際のデータは入手困難と予測されます。そこで、前段落でも解説しましたが、次回コラムでは推定需給に基づくトップダウンおよび簡易なボトムアップ分析を実施する事にいたします。そして、そこから得られた数値の妥当性をチェックした後、その分析結果を正しいもの(真)と仮定して、ここで構築した仮説を検証してみます。

それでは、今回の主目的である仮説構築を行っていきます。

3-2-1.クライアントが大手企業の場合

最初にクライアントが大手企業の場合です。

大手企業の条件は、以下の通りとなります。
● 従業員数は300人以上
● メインのサービスプロバイダーは一つと仮定
 ⇒ 大手の戦略コンサルティングファーム

その上で、初期仮説を『多くの大手企業では特定の分野で必要なスキルを持った人材が不足しているので、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材またはサービスには顧客ニーズがある。したがって、(大手企業を対象とした)大手の経営戦略コンサルティングサービスには市場需要がある』としてみます。

この仮説の検証およびその方法についてですが、まず大手企業の多くで必要とするスキルを持った人材が不足しているのは、ニュースでも度々見るので、一応事実とこの段階で判断します。

しかし、疑問なのは、人材不足という問題があるからと言って、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材またはサービスに顧客ニーズがあるかどうかです。私はあると仮定しましたが、DX人材ならいざ知らず、経営戦略の分野もそうなのでしょうか? 実際にデータが入手可能であれば、それに基づいて数値の妥当性など検証ができるのですが、今回必要とするデータは経営戦略と具体的なのでおそらく無理でしょう。自分の直感で判断しますと、顧客ニーズは結構あると思います。もし可能であれば、クライアントに直接聞いてみたり、または顧客のデータベースをお持ちの場合は、アンケートを取ってみるのも良いでしょう。

そして、仮にそのような顧客ニーズがある(顧客が必要性を感じている)としても、実際に大手の経営戦略コンサルティングサービスに市場需要があるかどうか(顧客がサービスを求めているかどうか)も気になります。私の推測では市場需要はかなり大きいと思いますが、問題はどれだけの規模かという事です。

以上の点を意識しながら、検証のために後で市場規模を試算したいと思います。

3-2-2.クライアントが中小企業の場合

次に、クライアントが中小企業の場合ですが、前回のコラムでも少し言及したように、中小企業の規模がピンキリのため、一緒くたにして仮説を立て、市場規模を試算するのはあまり意味がありません。したがって、ここではクライアントを大規模・中規模・小規模と三つの中小企業カテゴリーに分けて考えていきます。

中小企業の条件は以下の通りとなります。
● 大規模な中小企業の場合
 ⇒ 従業員数は150人以上299人以下
 ⇒ メインのサービスプロバイダーは一つと仮定
  ○ 中小の戦略コンサルティングファーム
● 中規模な中小企業の場合
 ⇒ 従業員数は30人以上149人以下
 ⇒ メインのサービスプロバイダーは二つと仮定
  ○ 中小の戦略コンサルティングファーム
  ○ 個人の経営戦略コンサルタント(または経営戦略コーチ)
● 小規模な中小企業の場合
 ⇒ 従業員数は29人以下
 ⇒ メインのサービスプロバイダーは一つと仮定
  ○ 個人の経営戦略コンサルタント(または経営戦略コーチ)

その上で、初期仮説を『多くの中小企業では広範な分野で必要なスキルを持った人材が不足しているので、経営戦略の専門知識・技能を提供する人材またはサービスには顧客ニーズがある。したがって、(中小企業を対象とした)中小または個人の経営戦略コンサルティングサービスには市場需要がある』としてみます。

仮説の検証およびその方法については、前段落のクライアントが大手企業の場合と(一部を除いて)同じですが、一応記載いたします。

まず、多くの中小企業で必要とするスキルを持った人材が不足しているのは、大手企業同様に事実と判断します。

ただし、人材不足だからと言って、経営戦略の知識・技能を提供する人材またはサービスに顧客ニーズがあるかどうかは不明です。私はここであると仮定しましたが、大手企業と比べるとかなり割合は低くなると考えています。元マッキンゼーのパートナーだったマイケルさん(現FIRMSconsultingのパートナー)が、昔研修動画の一つでこの件をお話されておりました。もし可能であれば、クライアントに直接聞いてみたり、顧客のデータベースをお持ちでしたら、アンケートを取ってみたりするのが確実と思います。

そして、仮に顧客ニーズがあるとしても、実際に中小または個人の経営戦略コンサルティングサービスに市場需要があるかどうかも不明です。自分の直感では、大手が提供するコンサルティングサービスと比べると、ガクッと需要は落ちると考えます。その理由は、以前にも話しましたが、ニュースや書籍で目にするのはほとんど大手のファームだからです。大手と中小の戦略ファームでは、その間に大きな壁があるような気がいたします。

以上の点を意識しながら、検証のために後で市場規模を試算していきます。

また、ビジネスコーチングサービスを提供するケースも考えてみますと、初期仮説は『多くの中小企業では広範な分野で必要なスキルを持った人材が不足しているので、経営戦略の専門知識・技能を教える人材またはサービスには顧客ニーズがある。よって、(中小企業を対象とした)個人の経営戦略コーチングサービスには市場需要がある』とします。

コンサルティングサービスとコーチングサービスでは、具体的なパラメータの設定や仮定値が異なるはずなので、市場規模も大きく異なってくるはずです。ただし、全体的には上記の中小企業向け経営戦略コンサルティングサービスの説明と、ほぼ同じと考えて良いと思いますので省略いたします。

以上のように、どのような商品・サービスを提供するかによって、仮説の内容も変わってくる事が分かります。

注意事項といたしましては、ビジネスコーチングについては、ここでは個人の経営戦略コーチのみ考えるものとし、コーチングサービスを提供する法人企業については考慮しないものとします。元々経営戦略コンサルティングの紹介を主要テーマにしていますので、コーチングについては一部割愛しました。

3-2-3.クライアントが個人事業主の場合

次はクライアントが個人事業主の場合です。以前のコラムでもお話した通り、コンサルティングサービスの顧客ニーズは現実的に考えづらいため、代わりにビジネスコーチングサービスを提供する前提で考察してみます。

個人事業主の条件は以下の通りとなります。
● 働き手は事業主含めて数人ほど
● メインのサービスプロバイダーは一つと仮定
 ⇒ 個人の経営戦略コーチ

その上で、初期仮説を『多くの個人事業主は慢性的な人手不足・人材不足に悩まされているので、経営戦略の知識・技能を習得する学習(または人材育成)サービスには顧客ニーズがある。よって、(個人事業主を対象とした)個人の経営戦略コーチングサービスには市場需要がある』としてみます。

この仮説の検証およびその方法についてですが、まずは、ほとんどの個人事業主の方は掛け持ちで仕事をしている現状を考えますと、慢性的に人手不足および人材不足に悩まされているのは間違いないと思います。

しかし、だからと言って経営戦略の知識や技能を学ぶサービスに顧客ニーズがあるかと言うと、首を捻ってしまいます。なぜかと言いますと、人材不足の問題よりも、人手不足の方が喫緊の問題だと感じるからです。つまり、個人事業主の方は仕事にかかりっきりのため、事業に直接関係のある知識やノウハウにしか関心を持たれないのでは?という懸念があります。もし可能であれば、クライアントに直接聞くか、または顧客のデータベースを持っていれば、アンケートを取ってみたいと感じます。

それと、もし顧客ニーズがあると仮定しても、実際に市場需要があるかどうかについても疑問が残ります。その理由として、事業に直接関係のない経営戦略のスキルを学ぶために、何よりも貴重な時間を割いてまでビジネスコーチングを依頼していただけるのだろうか、と素朴に思うからです。大半の方はまず、書籍を購入して独学を試みるのではないでしょうか?そして、書籍だけでは学びきれない内容を、コーチングやネットでの動画研修サービスなどで補完する方法を取る気がいたします。

そうなりますと、個人事業主がクライアントの場合、提供されるサービス内容に対して高い水準を期待されているのでは?と感じます。そこで、サービスを提供する側としては、教える内容および方法について精査する必要がありそうです。経営者や個人事業主を対象としたビジネスコーチングサービスは、専門分野への深い造形に加え、ITや動画作成などのネット関連知識も必要になる気がいたします。それら条件を満たすような経営戦略コーチは、(仮に需要があったとしても)市場にはそれほど多くはいないと思います。

ライバルが少ない事をプラスと見るか、それともマイナスと見るかが一つの論点となりますが、私は後者だと感じます。そもそも市場規模が小さいから、その需要に合わせてコーチの数も少ないと見ています。そのため、一人一人のビジネスコーチのレベルは高く、新規の人が参入するにはハードルが高いかもしれません。生活のために売上を確保して利益を生み出すのは、思ったほど簡単ではないと想像します。

ただ、一度試算してみない事には市場需要がどれくらいかも分からないので、初期仮説としては、顧客ニーズも市場需要も一応存在すると仮定します。もしこの仮説が間違っていても、後で修正すれば良いので全く問題はありません。

3-2-4.クライアントが会社員の場合

最後にクライアントが会社員の場合です。こちらもコンサルティングサービスの顧客ニーズは現実的に考えづらいので、代わりにビジネスコーチングサービスを提供する前提で考察してみます。

会社員の条件は以下の通りとなります。
● コーチングサービスの支払いは自費で行う
● メインのサービスプロバイダーは一つと仮定
 ⇒ 個人のビジネス戦略コーチ

その上で、初期仮説を『多くの企業ではスキルを持った人材が不足しているので、キャリアアップのためにビジネス戦略スキルを会社員が学べる学習(または人材育成)サービスには顧客ニーズがある。よって、(会社員を対象とした)個人のビジネス戦略コーチングサービスには市場需要がある』とします。

この仮説の検証およびその方法について、まず多くの企業でスキルを持った人材が不足しているのは、今までに何度も言及しているので事実とします。

次に顧客ニーズについてですが、会社員の方が自身のキャリアアップのためにビジネス戦略を学べるサービスには、幅広い層へ一定のニーズがあると思います。例えば、マネージメント力や分析力などの向上により、レポート・プレゼン資料の質的向上が見込めるので、目に見える形で付加価値をチームや上司に伝えやすくなります。また、比較的規模の小さい企業ですと、経営者の方がお一人で事業運営や企画策定などを行っているケースも多いと思います。そのような孤独な環境下で、論理的かつ鋭い洞察ができる人物が社長の右腕として社内にいますと、非常に心強いはずです。

そして顧客ニーズがあると仮定すれば、(料金設定を間違えない前提となりますが)会社員を対象としたビジネス戦略コーチングサービスには市場需要があると私は思います。その理由は、個人事業主と比べ人数がはるかに多く、様々な産業に間口が拡がるので、必然的に市場需要(依頼案件数的に)は多くなるはずだからです。ただし、一案件当たりの単価は低くなりますので、円ベースでの市場規模はそこまで大きくはならないと推測します。

会社員は毎月収入が安定しており、長期的視野でスキルを学ぶことが可能です。私も過去に会社員として仕事をしながら、ビジネス戦略の知識を実地経験と共に学んだので、将来どうなるか分からない現代社会においては、余裕のある時に学べるものは学んでおくことをお勧めいたします。

「有事に無事のごとくし、無事において有事の覚悟を養う」
大塩平八郎『洗心洞箚記』より

ただ、学習の際のボトルネックになりうるのが、会社員の場合は土曜・日曜くらいしかコーチングサービスをじっくり受けられる機会がない事です。また、あまり高い料金は請求できないので、クライアントの課題に対し、ピンポイントで解決に繋がるサービスを、臨機応変・効果的に提供する必要があります。そのため、これはビジネスコーチングサービスではあっても、同時にコンサルティング力を大きく問われるお仕事となります。

このような条件下で、生活費を稼げるだけの市場需要があるのかどうか、そして仮に需要があるとしても、個人のビジネスコーチがそれだけのサービスを質・量ともに提供できるのかどうかにはちょっと疑問が残ります。

いずれにしても、自分も興味があるので、まずは一度試算してみましょう。

まとめ

以上となります。いかがでしたでしょうか?

今回のコラムでは、今まで論じてきたクライアントの問題・ニーズから、需要を想定し、最後にそれらを基に仮説を立てました。

仮説を構築するというと、一見難しく聞こえますが、普段皆さまも無意識下で行っていると思います。ただし、戦略コンサルタントの場合は、全体把握のために問題をツリー構造化し、仮説として文章化、そしてその内容を分析・検証する所に大きな特徴があります。それらのプロセスには時間がかかるので、専門のスペシャリストの方は通常行いません。ジェネラリストだからこそ、必要なスキルとなります。

今回構築した初期仮説は、つまるところ「クライアントが問題を抱えているから、その解決に役立つサービスには、顧客ニーズおよび市場需要がある」という事を端的に言っているに過ぎません。

単純な内容ですが、魚がいない海域で漁師になっても仕方がありませんので、非常に重要な確認事項となります。海に魚がいるのを確認してから、どんな漁師を目指すのか、そしてそのためにはどのような設備投資が必要かを見定めても遅くはありません。言い換えますと、事業の実行可能性を確認した上で、収益性・持続可能性など、事業全体の実現可能性を詳細に分析・洞察していけば良いと思います。

仮説構築のプロセスや前提条件などを、一つ一つ説明しようとしますと、文章はやはり長くなります。これが仕事であれば、クライアントの課題解決が主目的となる以上、もっと簡潔に文章を書きますが、本コラムは経営戦略コンサルタントの紹介がメインとなりますので、詳しく書くようにしています。

経営戦略や財務などの能力を測るには、その人の長文をいくつか読んでみるのが一番です。誤魔化しが効かないので、どのような知識・スキルを持っているのか、そしてどんな性格・資質・思考プロセスなのかも、読んでいくうちに段々と分かってきます。

現時点で自分が持っている知識・ノウハウ以上のものを毎回コラムとして書くようにしています。出し惜しみなどは一切していません。己の限界を突破する事で新たな気づきを得て、そこから次へ繋げることができます。時にやり過ぎて引かれる事もありますが、毎回コラムを全力で書いていることが伝わり、かつ読者の方に何か役立つ情報となっていれば、それでいいかなと思っています。

なぜ漸コンサルティングという名前にしたかと言いますと、仏教の『漸悟』からお借りしました。一つ一つ努力を積み重ねた結果、悟りを開く事を意味します。何事も全力で取り組まないと、新たな道は見えてきません。仕事だけではなく、このコラム執筆も同じ姿勢で取り組みます。

したがいまして、今回のようなシリーズ物のコラムですと、「早く次のコラムを読みたい」という読者の方も中にはいらっしゃると思うのですが、以上の理由で時に時間がかかってしまう事、ご容赦いただけますと幸いです。

次回は、需給分析による市場規模の試算と、今回作成した初期仮説の検証を行っていきたいと思います。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

ホームページでは本コラムの小話もご紹介していますので、よろしければそちらもご覧ください。

この記事を書いたプロ

味水隆廣

分析と英語を得意とするビジネス戦略のプロ

味水隆廣(漸コンサルティング)

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