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ビジネス戦略コーチングサービスの市場規模とは?需給分析による試算と洞察

2022年9月19日 公開 / 2022年10月1日更新

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 経営戦略リスク管理マーケティング戦略

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読みやすくなるよう、所々の言い回しを修正しました。


皆さま、こんにちは

経営戦略コンサルタントにご興味ある読者の方へ、コンサルティングに関する包括的な情報をご紹介するコラムシリーズ、第5-2回目です。

今回のキークエスチョンは『ビジネス戦略コーチングサービスの市場規模とは?需給分析による試算と洞察』となります。

経営戦略コンサルタントに興味ある人のためのコラム紹介概要チャート-戦略コーチングの市場規模とは?需給分析による試算と洞察

前回のコラム、キークエスチョン5-1では、経営戦略コンサルティングサービスの市場について論じました。同じような流れで、今回はビジネス戦略コーチングサービスの市場分析とそこから導き出される洞察をご紹介します。内容的に繋がっていますので、初めての方はキークエスチョン5から順番にお読みいただくことをお勧めします。

背景や定義など、大まかな事はすでにお話しましたため、すぐに本題に入りたいと思います。

それでは始めます。


1.要約ダッシュボードの紹介(ビジネス戦略コーチングのみ)

前回のコラムと同じように、最初は、ビジネス戦略コーチングサービスの推計による市場分析結果をまとめた、要約ダッシュボードをご紹介します。

1ページ目のチャート&グラフでは、事業者別による推定の『年間市場規模額と事業者数』、そして『1事業者当たりの年間平均売上と従業員数』を示しています。

3. ビジネス戦略コーチング需給分析ダッシュボード ページ1

補足:
ビジネス戦略コーチングサービスでは、個人の事業者のみを分析しています。コーチングファーム(法人企業)の推計などは行っていませんので、前コラムではあった市場シェアを示すパイチャートはありません。


2ページ目のダッシュボードは、ビジネス戦略コーチングサービスにおける、『需要分析に基づく顧客ニーズおよび顧客需要の割合』、そして『需要と供給別の推定年間市場規模額』を示したグラフとなります。

4. ビジネス戦略コーチング需給分析ダッシュボード ページ2
以上の分析結果を前提として、試算内容や洞察を論じていきます。

2.ビジネス戦略コーチングサービスの市場規模を試算

この段落では、ビジネス戦略コーチングサービスの需給分析を四つの事業者カテゴリーに分けて行い、それら試算結果をまとめたチャートやグラフ(段落1でご紹介したダッシュボード)を、一つ一つ詳しく解説していきます。

2-1.推定の年間市場規模額(年間市場売上高)と事業者数を示したグラフ

最初にご紹介するのは、ビジネス戦略コーチングサービスの事業者カテゴリー別による、推定の年間市場規模額(年間市場売上高)と事業者数を表したグラフです。

6. ビジネス戦略コーチング:推定年間市場規模と事業者数
分析から、中規模中小企業を顧客対象とした経営戦略コーチ(中)の市場規模額は90億円、小規模中小企業を顧客対象とした経営戦略コーチ(小)は84億円、個人事業主をクライアントとした場合の経営戦略コーチ(個)は68億円、そして会社員をクライアントとした場合のビジネス戦略コーチ(会)は84億円という試算結果になりました。

そして、次の段階でご説明する、1事業者当たりの推定年間平均売上を算出するために、カテゴリー別にそれぞれ事業者数を仮定いたしました。例えば、経営戦略コーチ(中)は日本国内に1,500人いるとします。同様に、経営戦略コーチ(小)が2,000人、経営戦略コーチ(個)が2,500人、そしてビジネス戦略コーチ(会)は一番多い、3500人いると仮定した上で分析を行っています。

グラフから読み取れる事として、個人事業主を顧客対象とする経営戦略コーチ(個)を除き、推定市場規模額は対象とする顧客に関わらず、大きな差はないという事です。

経営戦略コーチ(個)の市場規模だけ小さいのは、販売量が少ないまたはサービスの販売単価が安いことを示唆しています。仮に販売量が少ない場合は、何らかの理由で市場需要または供給量が少ないという事です。そして販売単価が低い場合は、サービスの内容自体に何らかの原因があるかもしれませんし、または(サービスそのものに問題はなくとも)顧客とコーチの間の需要ミスマッチが要因かもしれません。ただ、このグラフからはそこまでの情報は読み取れませんので、詳細な分析プロセスを以下の試算表で確認してみます。

8. クライアントが個人事業主の場合の、経営戦略コーチ年間市場規模推定
詳しい解説は長くなりますので、結論を言いますと、市場規模が小さい理由は、市場需要(仕事の案件数)は他のカテゴリーと比べ特に少ないわけではない(13,608案件/年)ため、どうも販売単価が50万円と低いことにあるようです。

ただし、ここでは一つの仕事案件で2か月間コーチングサービスを提供するという前提で計算しています。サービスの内容や提供する頻度にもよるでしょうが、私の感覚ではこの50万円という販売価格は(事業者にとって)必ずしも高いとは言えません。逆に安いくらいです。しかし、(顧客である)個人事業主の方にとっては、この50万円という金額は高いと感じる人の方が多い気がいたします。仕事をしながら学ぶことを考えますと、これくらいが年間で支払える限度額ではないでしょうか。

参考:
ある海外のビジネスコーチングサービス(主に事業者やマネージャー向け)ですと、6か月間で180万円くらいとなります。2か月間で換算すると60万円です。ネット中心のサービスだからこそ、この価格で提供可能なのだと思います。

それとグラフからの傾向として、顧客対象が企業法人から個人に規模が小さくなる程、コーチングサービスを提供する事業者数は逆に多くなると分かります。その理由として、クライアントの規模が大きくなるほどコーチングサービスの難易度は上がる、という私の前提条件(仮定)があるからです。難易度が上がる程、サービスを提供できるコーチの数は減るはずです。その条件のもと、仮定値を設定しています。

カテゴリーごとの市場規模額があまり変わらない以上、参加する事業者数(つまり競合)が多い顧客セグメント(市場)ほど、1事業者当たりの売上高は減少すると分かります。

2-2.1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数を示したグラフ

次は、1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数を示したグラフです。

7. ビジネス戦略コーチング:1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数
分析によると、中規模中小企業を顧客対象とした経営戦略コーチ(中)は、推定で年間600万円の売上があります。小規模な中小企業がクライアントの場合ですと、経営戦略コーチ(小)の年間売上は420万円となり、個人事業主が顧客の場合の経営戦略コーチ(個)の年収は272万円、そして会社員をコーチングする場合のビジネス戦略コーチの年収は240万円となります。

注意点として、今回は個人事業の経営戦略コーチまたはビジネス戦略コーチのみを市場分析しているので、従業員数は全カテゴリーで一人と仮定した上で推計しています。

この試算結果を見てすぐに感じたのが、全体的に「個人のお客様を対象としたコーチングサービスの売上高は低いのかな?」という事です。私自身は幅広い層の方にコーチングサービスを提供したいと思っていたので、ちょっとやり方を考えないといけませんね。

一人一人に合わせた、テーラーメードなサービス提供が難しそうであれば、供給量および市場需要を増やすため、自分のサービスをパッケージ化(デジタル化)して、価格を抑えて提供した方が良いかもしれません。

補足:
個人ビジネスは通常一人で事業運営をするので、事業者サイドの商品またはサービス供給可能量に制約を受けます。したがいまして、供給ベースで導き出したこれら売上高は、一定の妥当性(現実性)があると考えています。ただ、私はまだ個人でコーチングサービスを提供した経験がないので、もしこの試算結果に誤りがあるようでしたら、ご連絡いただけますと助かります。

2-3.需要分析による顧客ニーズ&顧客需要の割合

次に、需要分析に基づく顧客ニーズと顧客需要のお話に移ります。基本の数式は前コラムでもご説明しているので、繰り返しとなってしまいますが一応記載します。

顧客ニーズ割合の求め方は、“経営戦略・財務の技能を必要としている企業数”から、“その顧客セグメントの総企業数”で割って導き出します。

顧客ニーズ計算式
そして、顧客需要の割合は、“仕事を依頼する企業数”から、“経営戦略・財務の技能を必要としている企業数”で割って算出します。分母については、必要に応じて代わりに“その顧客セグメントの総企業数”を使用しても良いと思います。

顧客需要計算式
例えば、中規模な中小企業を顧客対象とする、経営戦略コーチ(中)の試算表(以下の図)で説明しますと、経営戦略・財務の技能を必要としている企業数が357,000あり、そして中規模な中小企業の数が1,680,000あるので、顧客ニーズの割合は21.3%という事になります。

6. クライアントが中規模な中小企業の場合の、経営戦略コーチ年間市場規模推定
同様に、仕事を依頼する企業数が14,994あり、経営戦略・財務の技能を必要としている企業数が357,000あるので、顧客需要の割合は4.2%という事になります。

追記:
ここのコーチングサービスでは、経営戦略だけではなく、あえて財務にも言及していますが、これは財務分析スキルだけを学びたい顧客へも分かりやすく伝わるように書いているためです。通常、経営戦略コンサルティングには財務分析もサービスとして含まれますので、前コラムではあえて明示しませんでしたが、意味的にはどちらも同じとなります。

話を戻しまして、以下のラインチャートは、そのようにして導き出した顧客ニーズと顧客需要の割合(%)を、事業者カテゴリー別に示したものです。

8. ビジネス戦略コーチング:需要分析による顧客ニーズ&顧客需要の割合
グラフからの傾向として、事業規模の大きいクライアントほど、コーチングサービスのニーズも需要も大きいことが分かります。これは、コンサルティングサービスのケースと同じ傾向です。

気になる点としては、会社員向けのビジネス戦略コーチの顧客ニーズおよび顧客需要の割合だけ、それぞれ9.0%、1.1%と極端に低い結果となっている事です。これは、単純に潜在顧客の間口が一気に拡がったからと考えられます。グラフからだけでは十分な情報が読み取れないので、以下の試算表から需要分析の具体的な計算プロセスを見ていきます。

9. クライアントが会社員の場合の、ビジネス戦略コーチ年間市場規模推定
まず表を見ると、会社員の総数が日本人口の約半分、6,720万人と、クライアントが企業法人や個人事業主の場合と比べて、桁違いに大きな数字となる事が分かります。

補足:
この会社員の総数が厳密に正しいかどうかについてですが、ここではロジックの正確さを優先しているので、数字の正確さは気にしないようにします。もし間違っていれば、後で修正すれば良いだけの話です。

会社員全体の内、30%の方が新たなスキル習得に意欲があり、さらにその中で経営戦略・財務の技能を必要としている方が30%いると仮定すると、605万人の顧客ニーズがあるという試算になります。6,720万人の内、605万人が特定のスキルを必要としているので、顧客ニーズの割合は9.0%となります。

会社員として働いている方全員が新たなスキル習得に熱心とは限りませんし、さらに経営戦略・財務という特定の技能になれば、顧客ニーズが少なくなるのは自然な事と考えられます。

そして、経営戦略・財務の技能を必要としている社員の内、独学を好む社員の割合が60%、その内サービスに関心のある社員の割合が20%、その内サービス活用を検討する割合が60%、そして実際に仕事を依頼する社員の割合が15%と仮定しますと、6.53万人の方がサービスを求めている計算になりますので、顧客需要の割合は1.1%となります。

このカテゴリーでは、新たに独学を好む人の割合を分析条件として加え、そしてビジネス戦略コーチングサービスに対し関心のある人の割合がそもそも低いという事が、顧客需要を少なくした要因と考えられます。一般の人には認知度が低く、そもそもよく分からないサービスの活用を検討する人は少ないと思いますので、これら低い数値は理解できます。

補足:
経営戦略の分野においては、主体的に学ぶ姿勢が重要となりますので、コーチングサービスを受講する方は、基本的に独学を好む方が適していると考えました。

なぜサービスの活用を検討する社員の割合が少ないか、どのようにして需要を喚起するかについて、もう少し考察してみたいと思います。

一般の方がビジネススキルの習得を考える場合、まずは書物を購入するか、ネットでの学習サービスを検討すると思います。全体を網羅できますし、価格も比較的安いからです。マンツーマンのコーチングサービスと比べ、多くの人にとって費用対効果が高いのは間違いありません。したがいまして、現状会社員の方々にとって、比較的高額となりがちな、マンツーマンのコーチングサービスを求める割合が全体から見て少なくなるのは、ある意味仕方がないと言えます。

ただし、本やネットサービスでの学習には、少ないながらも弱点があります。なぜならば、間口が広く汎用性もある分、クライアントの個別的事例には対応しづらいからです。つまり、学んだはいいがそれらスキルをすぐに仕事で活用できないケースが増える事になります。

そのような書籍やネット学習サービスではカバーできない部分を、マンツーマンのビジネスコーチングサービスで提供できますと、そこに付加価値が生まれて需要が喚起される可能性はあります。

例えば、学習カリキュラムを顧客の要望に合わせて柔軟に変えたり、かつ仕事ですぐ使えるような独自性・希少性の高いノウハウを提供できたりすれば、マーケティング次第では市場需要が増えるかもしれません。

つまり、私たちが提供すべきビジネス戦略コーチングサービスとは、クライアントが関心のある特定の専門分野において、現場ですぐ実行可能なノウハウを、短期・集中的に学べるサービスとなります。ビジネス戦略という広範な分野を1年以上かけて学ぶような、幅広い顧客を対象としたサービスではありません。

注:
会社員が顧客となる場合は、他の顧客セグメントのケースとは異なり、市場パイが非常に大きく、かつ試算プロセスも異なりますので、単純には顧客ニーズおよび顧客需要の割合をパーセンテージで比較評価できない点に注意する必要があります。

2-4.需給別の推定年間市場規模データ

ビジネス戦略コーチングサービス最後のグラフは、需給別の推定年間市場規模データについて解説します。

9. ビジネス戦略コーチング:需給別の推定年間市場規模データ
グラフの下半分をご覧いただきますと、前コラムの前段3-5と同様に、事業者カテゴリー別に三種類のデータが記載されている事が分かります。繰り返しの部分もありますが、確認の意味も込めて再度記載します。

需要ベース市場規模』とは、トップダウン分析によって導き出された、需要サイドの最大売上高となります。市場需要の観点から達成可能な、最大の市場規模額です。商品やサービスの販売価格が変わらず、顧客ニーズや需要が増えない限り、これ以上需要ベースの市場規模額も増える事はありません。

一方の『供給ベース市場規模』とは、ボトムアップ分析によって導き出された、供給サイドの最大売上高となります。供給の観点から達成可能な、最大の市場規模額です。商品やサービスの販売価格が変わらず、供給量が増えない限り、これ以上供給ベースの市場規模額も増える事はありません。

最後に『現実的市場規模』についてですが、供給量が需要量を上回っている(供給≧需要)場合は、需要量分しか売上を達成できないので、現実的市場規模額は需要量をベースに記載します。グラフで示しますと、6番の事業者カテゴリーが該当します。逆に供給量が需要量を下回っている(供給<需要)場合は、供給分しか売上を達成できないので、現実的市場規模額は供給量をベースに記載します。グラフで示しますと、4番・5番・7番の事業者カテゴリーが該当します。

このグラフから、クライアントが個人事業主の場合を除けば、需要が供給を上回っています(供給<需要)ので、顧客から人気があるサービスという事を示唆しています。一方の、顧客対象が個人事業主の場合ですと、供給が需要を上回っている(供給≧需要)状況なので、あまり人気がないか、または限られた市場パイを巡って、ライバル間の競争が激しく起きている可能性があります。

注:
各事業者のサービスが市場で人気かどうかの定義は厳密には難しいので、ここでは単純に需要が供給を上回っている(供給<需要)状態かどうかで判断します。

それ以上の情報は、このグラフからは読み取れませんので、段落2-2『1事業者当たりの推定年間平均売上と従業員数を示したグラフ』と一緒に考えてみますと、仮に需要が供給を上回っている(供給<需要)、つまり市場人気のある7番のビジネス戦略コーチ(会)のケースでも、推定年収は240万円なので、日常生活を維持することは困難と分かります。したがいまして、ビジネスは市場人気だけで判断するのではなく、どれだけサービスを供給できるのか、販売単価はいくらとなるか、などを総合的に判断する必要があります。

3.ビジネス戦略コーチング事業の現状と今後の仮説

次にこの段落では、今までのビジネス戦略コーチングサービスの市場分析を基に、業界の現状と今後について考察してみたいと思います。自分の想像力・洞察力を駆使して、様々な仮説を立てていきます。

この仮説がどこまで正しいかは私自身では証明できないので、直接当事者に聞いてみるしかありません。ただ、経営戦略コーチとして、仮説の正誤を自らの行動で実証していく事は可能です。もし間違った仮説を立てていると分かれば、速やかに修正し、自身の事業戦略に反映させます。

3-1.経営戦略コーチ(中規模中小向け)の仮説

6. クライアントが中規模な中小企業の場合の、経営戦略コーチ年間市場規模推定
4番の経営戦略コーチ(中)のケースは、上の試算表を見る限り、多くの市場需要(7,497案件/年)に対してサービス供給量(6,000案件/年)が追い付いていない状況を示しています。しかしながら、現状ではその市場需要を満たすために、サービス供給量をすぐに増やせる事業者はあまりいないはずです。

補足:
上記の4番とは、ダッシュボードのグラフに記載されている番号を指しています。

その理由として、単純に人手の問題があります。個人事業主として原則一人で仕事を引き受けなければならないので、仕事の効率化を図るか、または法人化などして人材を増やさない限り、これ以上供給量を増やして売上を増やすことはできません。

3か月ごとに仕事を引き受ける前提なので、年間では最大4案件まで受注可能と仮定しています。一方で、需要サイドではコーチ一人当たり平均で5案件の仕事が存在しますが、供給サイドが最大4案件までしか対応できない以上、そちらの仮定値で試算する必要があります。そして、1案件当たりの平均価格が150万円なので、それらを掛け合わせるとコーチ一人当たりの供給ベース推定年収が600万円となります。これにコーチの数1,500人を掛けますと、供給ベースの市場規模額は90億円となります。

平均年収が600万円もあれば、経費を考慮しても、十分持続可能なビジネスおよび一般的な生活が送れると思います。人手を増やすなどのリスクを取ってまで、サービス供給量をすぐにでも増やす必要がないというのが、この事業者カテゴリーの大きなメリットと言えます。個人のコーチング事業としては理想的で、おそらくこれが現実的に達成可能な平均売上の上限値になると思います。

ただし、当面安定した生活を送るだけでしたらこれで良いのですが、どうしても売上げを伸ばしたい何らかの事情がありましたら、方法としてはサービス単価を上げるか、供給量を増やすしかありません。

もし1案件当たりのサービス単価を上げたければ、例えばマンツーマンのコーチングビジネスを水平展開させて、一対多数の企業研修ビジネスに新規参入するなどを検討する必要が出てきます。ただし、一対一のコーチングサービスとは事業のノウハウも異なるはずなので、異業種に参入するという前提で取り組んだ方が良いと思います。現実的には個人で労働集約型の事業を複数運営するのは無理があるので、リスクマネージメントの観点から、企業研修事業に一本化した方が良いかもしれません。

また、もしサービス供給量を増やしたければ、人手を増やす以外にも、サービス内容をパッケージ化して、事業の効率化を図る方法が考えられます。パッケージとして販売するので、これですと一人でも沢山の注文を処理する事が出来るようになります。

しかしながら、パッケージ化のデメリットも考慮しなくてはなりません。一番のデメリットは、ノウハウを競合他社にコピーされる恐れがある事でしょう。さらに将来AI技術などが発達すれば、パッケージ化された既存商品やサービスの多くは、安価で迅速に提供可能なデジタルサービスに容易に取って代わられると思います。このような場合、大手戦略コーチングファームが圧倒的に優位となるのは想像に難くありません。

したがいまして、段落2-3でも同様のお話をしましたが、大手が提供する学習サービスではカバーできない、独自性・希少性のあるマンツーマンコーチングサービスを、個人は付加価値と共に生み出さないといけない事が分かります。

3-2.経営戦略コーチ(小規模中小向け)の仮説

次に、5番の経営戦略コーチ(小)のケースについて考察してみます。

7. クライアントが小規模な中小企業の場合の、経営戦略コーチ年間市場規模推定
段落3-1の経営戦略コーチ(中)と同様に、こちらも多くの市場需要(16,330案件/年)に対し、サービス供給量(12,000案件/年)が追い付いていない状況を示唆しています。ただし、現状ではその市場需要を満たすために、サービス供給量をすぐに増やせる事業者はあまりいないはずです。

その理由として人手の問題があり、仕事の効率化を図るか、または法人化などして人材を増やさない限り、これ以上供給量を増やして売上を増やすことはできません。

段落3-1と異なる点は、2か月ごとに仕事を引き受ける前提なので、こちらは年間で最大6案件まで受注可能となります。一方で、需要サイドではコーチ一人当たり平均で8.16案件の仕事がありますが、供給サイドで最大6案件までと制約がある以上、そちらの仮定値で試算する必要があります。そして、1案件当たりの平均価格が70万円なので、それらを掛け合わせるとコーチ一人当たりの供給ベース推定年収が420万円となります。これにコーチの数2,000人を掛けると、供給ベースの市場規模額は84億円となります。

平均年収が420万円となりますと、生活の維持に手一杯で、貯金や事業投資をするような余剰資金はあまり残っていないと考えられます。よって、すぐにでも売上を増やさなくてはならないという喫緊の問題を抱えている点が、前段落3-1の経営戦略コーチ(中)の場合とは異なります。

もし売上増を目指すならば、より高い単価を支払っていただける顧客セグメント(中規模中小企業向け)へ事業を移すか、もしくは同セグメントに留まるならば、事業を水平展開させて企業研修ビジネスなどに新規参入するか、またはサービスのパッケージ販売などを検討する必要があります。

いずれにしましても、大手がカバーできない独自性・希少性のあるビジネスコーチングサービスを、個人は付加価値と共に早く生み出さなくてはいけないという点は同様です。

3-3.経営戦略コーチ(個人事業主向け)の仮説

8. クライアントが個人事業主の場合の、経営戦略コーチ年間市場規模推定
6番の経営戦略コーチ(個)のケースは、逆に今までとは異なり、市場需要(13,608案件/年)に対し十分なサービス供給量(15,000案件/年)がある事例となります。今回の分析結果から、おそらく現状では、顧客として個人事業主の方のみにサービスを提供している経営戦略コーチの方はほとんどいないのでは?と思いました。その理由は二つあります。

一つ目の理由として、市場需要が少ない事が挙げられます。推定される需要ベースの個人の平均売上は272万円しかありません。そして二つ目の理由は、仮に需要を喚起できたとしても、経営戦略コーチ(個)が受注できる案件数は年間で6つまでなので、供給ベースの推定平均年収は300万円が上限となる事です。

したがいまして、生活を維持しつつ、事業投資を行っていくためには、需要喚起とサービス供給量の増加、つまり二つの課題を並行して解決する必要があります。一人で何とかするには、かなりハードルの高い課題です。

しかし、一見懸念事項ばかりのようにも見えますが、逆にこういう事業や業界の方が、ビジネスチャンスはどこかに眠っているのかもしれません。

大手ファームが近い将来提供するであろう、AIを使ったコーチングサービスも、考え方次第では個人のビジネスコーチにとって救世主となる可能性はあります。AI技術が個人の事業者にとって脅威となるのか、それともビジネスチャンスとなるかは、今の段階では分かりませんけれど、ここで重要な事は、「私たちに今出来る事は何なのか」を見定めることです。

3-4.ビジネス戦略コーチ(会社員向け)の仮説

9. クライアントが会社員の場合の、ビジネス戦略コーチ年間市場規模推定
そして、最後の7番のビジネス戦略コーチ(会)の場合は、市場需要(32,659案件/年)に対しサービス供給量(28,000案件/年)が追い付いていない状況と考えられます。需要が多い分、一見人気のサービスと思いますが、サービスを提供する個人事業主の視点では注意する必要がありそうです。上記の分析を見ると、前段落の3-3同様に、おそらく現状では、顧客として会社員の方のみにサービスを提供しているビジネス戦略コーチの方はほとんどいないのでは?と推測します。その理由は二つです。

一つ目は、ビジネス戦略コーチ(会)が受注できる案件数は8つまでで、供給ベースの年収で換算しますと上限の平均は240万円となる事です。一人でこれ以上受注量を増やしたり、サービス単価を高めたりするのは、おそらく従来のやり方では困難だと思います。そして二つ目は、仮にサービス供給量を増やせたとしても、(需要そのものは多いのですが)全体の市場規模がコーチの数に比してそもそも小さい事です。98億円を3,500人で割ると、推定される需要ベースの平均年収は280万円しかありません。

よって、生活を維持しつつ、事業投資を行っていくためには、需要喚起とサービス供給量の増加、つまり二つの対策を並行して行う必要があります。段落3-3のケースと同じように、一人で解決するにはかなりハードルの高い課題となります。

個人的には会社員の方向けに戦略コーチングサービスを提供してみたいですが、その方法についてはよく考えてみる必要がありそうです。

4.まとめ

以上、ビジネス戦略コーチングサービスの需給分析による市場規模の試算、そして、知識や経験に基づく私の洞察をまとめたレポートとなります。前回の経営戦略コンサルティングサービスと合わせ、これで両方の市場分析が一通り終わりました。

しかし、まだ一つ肝心な部分が残っています。それは、「分析をしたから何なの?」という事です。

置かれている立場によって答えは変わってきますので、次回のコラムでは「デジタル化が進む世の中で、私たち中小事業者の今後の取るべき道とは?」というキークエスチョンで論じてみたいと思います。

今までの考察から、大きな論点となるのは以下の六つです。

● デジタルとは何なのか?アナログとの違いは?
● なぜデジタル化(デジタルトランスフォーメーション、通称DX)が必要なのか?
● 世のデジタル化(例えばIoT・ビッグデータ・AIなど)で何が変わるのか?
● コンサルティング事業やコーチング事業へはどのような影響があるのか?
● 大手の戦略ファームやコーチングファームはどのような経営方針を取っているのか?
● 私たち中小事業者が取るべき道(対策)とは?

全てを詳細に論じると、一つのコラムでは収まりきらないので、次回は以上の論点に対して、私にとって本質的な答え(または考え)をまとめたいと思います。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

ホームページでは本コラムの小話もご紹介していますので、よろしければそちらもご覧ください。

この記事を書いたプロ

味水隆廣

分析と英語を得意とするビジネス戦略のプロ

味水隆廣(漸コンサルティング)

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