秘密保持契約――技術情報やノウハウを守るために

葛井信行

葛井信行

テーマ:知的所有権と技術情報・ノウハウの流出

技術情報やノウハウの流出を防ぐ方法の一つとして、取引先との**「秘密保持契約」**の締結があります。
性善説に基づく信頼関係や口約束だけではなく、契約書という文書にしておくことで、一定の抑止効果が期待できます。お互いの合意内容を明確に文章として残し、違反した場合の対応や損害賠償についても取り決めておくことが重要です。
ただし、秘密保持契約は「契約書を交わせば安心」というものではありません。契約書の内容そのものを十分に確認することが大切です。

■ 契約書は「相手に言われたまま」ではなく、自社の立場で確認

契約を締結する際に注意したいのは、内容を十分に精査しないまま、自社に不利な条項が含まれた契約を結んでしまうことです。
特に、取引先の立場が強い場合には注意が必要です。先方から契約書を提示された場合でも、「大手企業から提示された契約書だから問題ない」と考えず、内容を詳しく確認するべきです。
契約書は、発注側と受注側の双方が合意した内容を明文化するものです。つまり、文章の書き方によって、どちらに有利にも不利にもなり得ます。
一方で、契約書をきちんと交わすことは、立場の弱い業者やフリーランスなどを守ることにもつながります。例えばフリーランスとの取引に関する法律でも、取引条件を明確にすることが重視されています。

■ 私が考える秘密保持契約の5つのポイント

ここからは、技術者として取引先との契約を考える際に、私が特に注意したいと考える5つのポイントを紹介します。
なお、**実際に契約書を作成・締結する際には、弁護士など法律の専門家に相談することをお勧めします。**以下は法律上の助言ではなく、技術者の立場から見た注意点です。

1.契約書は自社でも準備しておく

秘密保持契約書は、可能であれば自社で雛形を用意しておくことをお勧めします。
契約書は、作成する側の意図が反映されやすいからです。
一度、法律の専門家に相談して自社に適した雛形を作っておけば、以後の取引でも活用できます。
もちろん、相手先が作成した契約書を使用することもあります。その場合でも、提示された契約書をそのまま受け入れないことが重要です。
自社に不利な条項がないかを確認し、問題があれば修正を依頼します。
「相手が作った契約書だから仕方がない」と考えるのではなく、契約内容について交渉することも取引の一部と考えるべきでしょう。

2.秘密情報の範囲を明確にする

「秘密情報」とは何なのかを、できるだけ明確にしておく必要があります。
例えば、
  • どのような技術情報を秘密とするのか
  • 図面や仕様書などの資料をどう扱うのか
  • サンプル品や試作品をどう扱うのか
  • 知的財産権の範囲や帰属をどうするのか
などを明確にしておきます。
さらに、秘密情報を取り扱う際の禁止事項も具体的に規定しておくことが重要です。
例えば、
  • 秘密指定された書類の無断複製
  • サンプル品や試作品の第三者への開示
  • 取引先を訪問した際の無許可撮影
  • 秘密情報を第三者へ提供すること
などです。
「秘密を漏らしてはいけない」とだけ書くのではなく、何をしてはいけないのかを具体的にしておくことで、契約内容がより明確になります。

3.秘密保持期間を規定する

秘密保持契約には、契約の有効期間や秘密保持義務がいつまで続くのかを定めておく必要があります。
取引が終了したからといって、そこで秘密保持の義務まで終了してよいとは限りません。
契約終了後も秘密として扱うべき情報がある場合には、どの程度の期間、秘密保持義務を負うのかを明確にしておく必要があります。
技術情報やノウハウの中には、長期間にわたって価値を持つものもあります。「契約期間」と「秘密保持義務が続く期間」を区別して考えることが重要です。

4.違反時の罰則や損害賠償を規定する

秘密情報が漏洩した場合の損害賠償についても、契約段階で確認しておくことが重要です。
特に注意したいのが、損害賠償額の上限です。
秘密保持契約では、相手側が秘密情報を漏洩して、自社から損害賠償を請求する場合だけでなく、自社が秘密情報を漏洩してしまって、相手側から損害賠償を請求される可能性も考えておく必要があります。
例えば、1,000万円規模の契約に対して、秘密情報の漏洩を理由に1億円もの損害を請求されるような事態を避けるため、損害賠償額に一定の上限を設けることを推奨します。

また、秘密情報が漏洩した場合、実際にどれだけの損害が発生したのか、その金額を証明することは容易ではありません。
そのため、契約内容によっては、実際の損害額とは別に、秘密情報を漏洩した事実そのものに対して一定額を支払う規定を設けることも考えられます。
さらに、先ほど述べた「無断複製」や「無断撮影」などについても、秘密情報の漏洩につながる行為として明確に規定しておくとよいでしょう。

5.訴訟になった場合の第一審裁判所を確認する

意外と見落としやすいのが、訴訟になった場合、どこの裁判所で争うのかという規定です。
契約書には、第一審の裁判所をあらかじめ定めておくことがあります。
自社で契約書を作成するのであれば、第一審の裁判所を自社の所在地を管轄する裁判所とすることを明記しておくとよいでしょう。
例えば、自社が三重県にあり、津地方裁判所が管轄となる場合には、第一審の裁判所を「津地方裁判所」とするなど、自社にとって対応しやすい裁判所を指定します。
一方、相手方が作成した契約書を使用する場合には、第一審の裁判所がどこに指定されているのかを確認する必要があります。
例えば、自社が三重県にあるにもかかわらず、契約書に「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」などと記載されていれば、訴訟の際に東京で対応することになる可能性があります。
そのような場合には、自社にとって負担が大きくならないかを検討し、必要に応じて管轄裁判所の変更を相手方に要求することも考えられます。
裁判となれば、弁護士との打ち合わせだけでなく、場合によっては出廷などのために遠方へ出向く必要が生じます。
交通費や時間などの負担も小さくありません。
契約書を作成する側であれば、自社の所在地を管轄する裁判所を第一審の裁判所として明記する。相手方が作成した契約書であれば、指定されている裁判所を確認し、自社にとって不利な内容であれば変更を要求する。
このように、契約書を「作成する側」と「提示される側」のそれぞれの立場で確認することが大切です。

■「契約書を交わしたから安心」ではない

秘密保持契約は、技術情報やノウハウを守るための重要な手段の一つです。
しかし、契約書を交わすことだけが目的になってしまってはいけません。
「何を秘密とするのか」、「誰がどのように扱うのか」、「いつまで秘密なのか」、「違反した場合にどうするのか」 まで明確にすることが重要です。

また、契約書は相手を縛るためだけのものではありません。自社が知らないうちに過大な責任を負わないための、自社を守るための道具でもあります。
特に中小企業や個人事業者など、取引先に対して立場が弱くなりやすい場合には、「相手の提示した契約書だから」と安易に受け入れず、内容を確認する姿勢が必要です。

技術者として長年仕事をしていると、技術そのものだけでなく、技術情報やノウハウを「どのように守るか」も重要な仕事の一部だと感じます。
技術情報は、一度外部に流出してしまえば、元の状態に戻すことは困難です。
だからこそ、問題が起きてから対処するのではなく、契約を締結する段階で 「もし問題が起きたらどうするか」 を考えておくことが大切なのです。

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葛井信行
専門家

葛井信行(電気技術コンサルタント)

オフィスKZI

ファクスのメンテナンスやセキュリティー機器、エンクロージャーなどの設計業務に45年従事。培った電気技術の知見を研修やコンサルティングで中小企業や個人事業主に還元し、社員教育や新規事業立ち上げを支援する

葛井信行プロは三重テレビ放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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