コストダウンと改善・改良の余地を残した設計
かつて、「すべてのお客様にご満足いただける製品を目指します」というフレーズをよく耳にしました。しかし、本当にそんなことは可能なのでしょうか。
私は技術者として長年、製品の設計や開発に携わってきましたが、結論から言えば、「すべてのお客様に満足いただける製品」は存在しません。
むしろ、そのような製品を目指した結果、誰にも強く支持されない製品になってしまうことさえあります。
■ 顧客の要求は十人十色
顧客の要望は実にさまざまです。
• ○○に対応してほしい
• もっと安くしてほしい
• 高機能にしてほしい
• 操作は簡単にしてほしい
• 小型化してほしい
こうした要望の中には、互いに矛盾するものも少なくありません。
例えば、高機能化すれば価格は上がりやすくなりますし、多機能化すれば操作も複雑になります。
すべての要望を取り込もうとすると、コストばかりが膨らみ、機能だらけで使いにくい製品になってしまいます。
実際、多機能を売りにした製品の中には、利用者から見れば「使わない機能ばかりが増えた製品」になっているケースも少なくありません。
■ 分かっていても機能は増えていく
実は、このことを多くの開発者が理解しています。
それにもかかわらず、新製品の企画や試作品の評価になると、
• 「○○に対応していないではないか」
• 「△△の場面では使えない」
• 「□□の機能も追加した方がよい」
といった意見が次々と出てきます。
もちろん、それぞれの指摘自体は間違いではありません。しかし、それらをすべて採用していくと、気が付けば機能満載で使いにくく、しかも高価な製品になってしまいます。
開発現場ではよくある話です。
■ 私が経験した無線リモコン開発
私自身も似たような経験があります。
あるとき、電波を利用した無線リモコン装置の試作品評価に参加したことがありました。
評価の場では、
「感度にムラがある」
「有線式ほど安定していない」
といった指摘が相次ぎました。
確かに無線である以上、電波の谷間やノイズ、遮蔽物などの影響を受けます。有線式とまったく同じ安定性を求めることはできません。
しかし、その装置は実用上まったく問題なく使用できるレベルでした。
今振り返れば、私たちは無線化による利便性よりも、欠点ばかりに目を向けてしまっていたのです。
最終的には、
「多少の感度ムラはあるが、それ以上に配線不要という利便性が大きい」
という判断で採用されました。
注意事項を取扱説明書に記載した上で製品化され、その後、この件に関するクレームは発生しませんでした。
実際の使用環境では、それで十分だったのです。
■ 製品づくりで大切なのはターゲットを絞ること
製品開発で重要なのは、すべての人を満足させようとすることではありません。
誰に使ってもらうのかを明確にすることです。
ターゲット顧客を明確にすれば、
• 本当に必要な機能が見えてくる
• 不要な機能を削れる
• コストを抑えられる
• 操作性を向上できる
というメリットが生まれます。
つまり、製品を使う人の立場で考えることは、顧客を絞り込むことでもあるのです。
■ 「引き算の設計」が製品を良くする
技術者はつい機能を追加したくなります。
しかし、優れた製品は機能を足し算することで生まれるとは限りません。
むしろ、
「何を付けない(省く)か」
「誰のための製品なのか」
を明確にした製品ほど、多くの支持を集めることがあります。
近年、単機能でシンプルな製品が見直され、人気を集めるケースが少なくないのもそのためです。
すべての人を満足させる製品は存在しません。
だからこそ、製品開発では「万人向け」を目指すのではなく、「この人にとって最高の製品」を目指すことが重要なのではないでしょうか。


