マスト(Must)は何か
新しい技術が登場すると、どうしても使ってみたくなるものです。
特に設計者や技術者であれば、「せっかくなら最新技術を採用したい」と考えることは自然でしょう。
しかし、そこで一度立ち止まって考える必要があります。
本当にその新技術は必要なのでしょうか。 既存の技術、いわゆる“枯れた技術”では実現できないのでしょうか。
実際の現場では、性能だけではなく、納期・コスト・信頼性・保守性まで含めて判断しなければなりません。
その時に大きな力を発揮するのが、「枯れた技術」という考え方です。
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■ 枯れた技術とは何か
「枯れた技術」とは、すでに広く普及し、長期間使われてきたことで、メリット・デメリットが明確になっている安定した技術を指します。
重要なのは、“古くて時代遅れの技術”という意味ではないという点です。
むしろ、
• 長期間使われてきた実績がある
• 問題点が洗い出され改善されている
• 安価で入手しやすい
• トラブル対応方法が確立している
といった強みを持っています。
言わば、経験豊富なベテラン技術者のような存在です。
設計において、
• 信頼性
• コスト
• 開発期間
• 保守性
を求めるなら、枯れた技術を無視することはできません。
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■ “枯れた技術の水平思考”という考え方
任天堂の元社員である故・横井軍平氏は、自著『横井軍平ゲーム館』の中で、これを**「枯れた技術の水平思考」**と呼びました。
これは、
すでに成熟した技術を、これまでとは違う用途や組み合わせで活用し、新しい価値を生み出す
という考え方です。
最新技術をゼロから開発するのではなく、既存技術を“別の視点”で使う発想とも言えます。
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■ 枯れた技術を活用するメリット
1.安定して使える
長年利用されている技術は、実績が豊富です。
予期せぬ不具合が少なく、設計リスクを下げることができます。
2.問題発生時の対処法が確立している
もしトラブルが起きても、
• 原因調査方法
• 対処方法
• 代替部品
• 保守ノウハウ
などが蓄積されています。
これは現場では非常に大きな強みです。
3.コストを抑えやすい
成熟した技術は量産効果が働いているため、部品価格が安定しています。
また、新技術のように評価試験や追加検証に大きなコストをかける必要が少なくなります。
4.開発期間を短縮できる
実績のある技術は設計データやノウハウが蓄積されているため、
• 設計
• 評価
• 製造
• 保守
まで含めて開発スピードを上げやすくなります。
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■ イノベーションは“最新技術”だけではない
「イノベーション=最先端技術」と考えられがちですが、必ずしもそうではありません。
経済学者の ヨーゼフ・シュンペーター は、イノベーションを次の5つに分類しました。
1) 新しい財貨や品質の創出
2) 新しい生産方式
3) 新しい市場の開拓
4) 新しい供給源の獲得
5) 新しい組織の実現
ここで重要なのは、「業界で未知であった」ことが重要なのであり、必ずしも最新技術である必要はないという点です。
また、経営学者の ピーター・ドラッカー も、『イノベーションと企業家精神』の中で、
「成功したイノベーションのほとんどが平凡である」と述べています。
つまり、イノベーションとは、
• 技術そのものの新しさ
• 新規技術の研究開発
だけではなく、
既存技術の組み合わせや用途変更からも生まれるのです。
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■ 枯れた技術の水平思考の代表例
① iPhone
iPhone は、
• 携帯電話
• Webブラウザ
• タッチパネル
など、既存技術を高い完成度で組み合わせることで革新を生み出しました。
② 0系新幹線
0系新幹線 では、電気系統や駆動系などに、当時すでに実績のあった技術が多く活用されました。
完全な新規技術だけに頼らず、既存技術を発展利用した代表例です。
③ 魚群探知機
魚群探知機 は、もともと軍事用途で使われていたソナー技術を漁業へ応用したものです。
用途を変えることで、新たな価値を生み出した好例と言えるでしょう。
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■ 技術者に求められる“選択する力”
誤解してはいけないのは、
「古い技術だけを使え」という話ではないということです。
新技術にも大きな価値があります。
そして、十分に検証され、実績を積めば、新技術もやがて“枯れた技術”になります。
重要なのは、
• どこで新技術を使うのか
• どこで成熟技術を使うのか
• 何を優先するのか
を戦略的に判断することです。
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■ まとめ
“新しさ”より、“目的”を見失わない
枯れた技術の水平思考とは、
• 最新技術ありきで考えない
• 「新しさ」より「安定性」を重視する
• 用途を変えて既存技術を活かす
• 異業種・異分野へ展開する
という考え方です。
特に現場では、
• 納期
• コスト
• 信頼性
• 保守性
• 入手性
といった現実的な条件が存在します。
その中で成果を出すには、
「何が最新か」ではなく、「何が最適か」を見極める視点が重要なのです。


