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コラム

被害者の事件をする理由

2019年5月14日

コラムカテゴリ:法律関連

 連休中に仕事をしにきて少し時間ができたので、なぜ被害者の事件を中心にしているかを書いてみたい。
 もっとも、何回か書いたが、このブログは、私の理想とするべき姿を書いているところであるので、真実の私の姿はかなり違うということを予めお断りしておく。

 大学の2回生の秋頃に、あと1年少ししたら就職のことを考えないといけないことに気づいた。
 京都大学の地下の本屋に行き、全ての職業の内容が掲載されている本を買ってきて、2週間くらいかけて読んだ。
 そのときに、私ができそうな仕事は、法律家だけであると気づいた。企業に就職し気に入らない上司がいたらおそらく大げんかをして辞めるであろうし、筋を通せるという意味では法律家しかないではないかと思ったのである(私がなれそうな仕事の中でという意味であり、法律家以外が筋を通せないという意味ではないので、念のため。)。
 そこから勉強を始めた。当初は刑事系に興味があったので検察官志望であった。勉強を始めるうち、弁護士が向いているのではないかと周囲から言われてその気になっていた。途中で、判決で物事を決められるのは裁判官ではなかろうかと漠然とした気持ちで裁判官志望の時点で2回目の試験で運良く合格した。
 ところが、裁判官の実際を知ると、(今から思うと当たり前なのだが)好き勝手に判決を書いていいわけではなく、部長との合議などいろいろな制約があることがわかり、修習が始まると早々に弁護士志望に鞍替えをしたのである。
 ここまで読まれて分かるように、「何がしたい」「こういう事件がしたい」ということで弁護士になった訳ではなく、単に、自分の性格に向いているからという、まあ信念に燃えている弁護士の方々からすれば、ちゃらんぽらんな新人弁護士であった。

 ただ、24年目になり思うのは、最初から決めつけて「こういう事件がしたい」というのは目線が狭まってしまい危険であり、やりながら自分がやりたいことを探すというのはアリではないかと思うことである。現に、私も弁護士をやりながらやりたいことというか、自分がなすべき事件というものが固まっていったからである(言い訳と言われればそうであるが)。

 弁護士になってから、何の落ち度もないのに被害を受けている方々を見ると何とかならないかという思いが強いことが分かった。
 就職した事務所がいわゆるマチベンであったこともあり、種々な事件を担当したこともあるが、最も大きかった一つの事件は、親子2人が妄想を抱いた子の同僚から殺されたが、心神喪失という理由で不起訴になった事件を担当したことであった。当時は不起訴記録も入手することができず、検察官が遺族に渡した不起訴裁定書の概要と、遺族からの聞き取りだけで検察審査会に不服申立を行った。当時としては希なことであったようだが、検察審査会で、「起訴相当、不起訴不当」の議決が出て、再捜査を求めて検察庁に上申書を持参し、再捜査の結果一部責任能力ありということで、被告人は有罪となった。これが私の犯罪被害者支援事件の原点で、それから、亀岡事件や、福知山花火大会爆発事故など、様々な事件を担当してきた。現在もいくつかの被害者の事件を担当させてもらっている。
 京都の犯罪被害者支援センターの設立にも関わり、規約などの作成にも従事した。
 この流れで、民事訴訟では、交通事故の被害者側もたくさんするようになった。独立の時には、大手の損保会社から顧問の話がいくつかあったが、被害者の事件をやると決意していたので、断りを入れた。経済的に見れば、損保会社の顧問をしている方が当然安定もするし、実入りもいいであろう。当時、紹介者からは、こんないい話を断るとは、しかもこれから独立して経済的にどうなるか分からないというのに、正気とは思えないという目で見られたものである。今も被害者の事件ばかり受任している。

 消費者被害でも、高齢の方がクレジット契約で不必要なものを複数個買わされている事件なども担当した。小さい家に、空気清浄器が部屋数よりもはるかに多い個数が納品されていたり、浄水器も一つあれば十分と思われるが、ものすごい数が納品されたことになっていた。法律が改正されるはるか前の話である。他にも多数の消費者事件を担当した。

 リース被害事件は独立して直ぐの頃に沸き起こった被害であったが、一般消費者との間の契約が法律で規制されると、悪質業者は中小企業に目を向けたのである。中小企業との契約を直接に規律する法律はなかったが、小さい店舗に電話が100以上つなげられる機器がつけられているなど、明らかに無知に乗じた契約がされていた。この時に、リース会社と交渉している際、「どんなニーズがあり契約をすると考えるのか」と質問したところ、リース会社の担当者は、「顧客のニーズは様々である」という回答をされてぶち切れて平成17年に弁護団を結成することとなった。その後被害を撲滅するために戦ってきたが、今も被害は消えない。立法化も提言したが、国は全く相手にしない。

 申し訳ないことに、人権感覚は乏しい私であるが、理不尽な扱いをされたりされた方のためにどうにかしたいという気持ち(というか、私自身が腹が立つ)で被害者の事件をしてきた。出会った素晴らしい先輩弁護士にも当然多大な影響も受けている。
 正直なことをいえば、強い方(大企業とか)についた方が仕事はラクなはずであり、被害者の方の事件をするのはものすごい時間も労力もかかる。そのために連休にも仕事に来ることになる。
 しかし、これは弁護士としての生き方の問題であり、それでいいではないか、と思っている。私が正しいという趣旨ではなく、刑事事件にそれを見いだす人もいれば、貧困問題の解決にそれを見いだす人もいるであろう。それぞれの生き方なのである。

 私が被害者の事件を担当させてもらっても、私ができることは弁護士としてできる範囲を超えられず、被害者の皆さんの心が癒えることはないとも思う。ただ、弁護士としてできることをやるしかないのである。

 被害者の事件をするということは、私にとっても楽な生き方ではないが、人間であるため、時にはラクをしたいという気持ちになることも否めないので(依頼者の皆さん、スイマセン)、自分への戒めとして、少し長くなったが書いておく。

この記事を書いたプロ

中隆志

被害者救済に取り組む法律のプロ

中隆志(中隆志法律事務所)

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