Mybestpro Members

宮西真也プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

昆虫マット原料に廃ホダ木を再利用|京茸が支える循環型林業のかたち

宮西真也

宮西真也


「キノコが出なくなったらホダ木はどうするんですか?」。京北の山へ見学にいらっしゃった方からときどき受ける質問です。

実は、役目を終えた木の多くは、カブトムシやクワガタの幼虫が育つ昆虫マットの原料として、次の作り手に渡っていきます。

このようにお答えすると、たいていの方が少し驚いた顔をされるのですが、私にとってホダ木の再利用はきのこを育てる仕事と地続きにあります。きのこと昆虫、一見つながりのなさそうなこの二つを、一本の木が静かに結んでいるのです。

使い終わったホダ木は次の原料になる

「ホダ木」とは、きのこの種菌を打ち込み、菌を回してきのこを発生させるための丸太のことです。私が使っているのはクヌギやコナラといった天然の広葉樹です。

種菌を打ち込んでから菌糸が木質繊維全体に行き渡るまでは半年以上かかりますが、そこからきのこが出はじめ、適切に休養をとらせれば、一本のホダ木が三年から五年にわたって良質なシイタケを生み出し続けます。

ただ、木は永遠には働けませんから、そのうち発生量が落ちてきて役目を終える日が必ず訪れます。その木は、廃棄されるか薪などの燃料に回ることが多いと思います。私たちも薪の生産と販売を手掛けていますので、燃料として使う道はあります。

しかしそれでも私は、その手前にもう一つの工程を設けています。昆虫マットの原料として選別し、供給先へお渡しする工程です。使い終わった木を、次の産業へ渡すための資材として扱っているのです。

ちなみに、廃ホダ木を昆虫用に活用すること自体は、業界の中で特別に珍しい取り組みではありません。一方で私がこだわっているのは、これを片手間の処分ではなく、原料を供給する一つの工程として厳重に管理している点です。

私が暮らす京北は、森林が約九割を占める里山です。高齢化や人口減少などで、人が入らなくなった山では、原木が使われないまま朽ちていきます。木を最後まで使い切る道筋を持っておくことは、そうした山を少しでも減らすことに繋がると考えています。

なぜ原木椎茸のホダ木が昆虫マットに向くのか?

ここは、見学にいらした方が一番興味を持ってくださるところです。

昆虫マットとは、カブトムシやクワガタの幼虫を育てるために使う、細かく砕いた朽ち木を主な材料とした床材のことです。

幼虫は伐りたての生木をそのまま食べることができません。口にしているのは、菌のはたらきによって分解が進み、やわらかくなった木です。森で幼虫が倒木や腐葉土の中から見つかるのはそのためです。

ここでシイタケの菌が効いてきます。シイタケは白色腐朽菌の仲間です。(白色腐朽菌とは、木材の硬い成分を分解しながら育つ菌のことを指します)

つまり、私がきのこを育てている数年のあいだ、ホダ木の内部では分解が静かに進んでいます。きのこを出しきった木は、森の中で長い時間をかけて朽ちていく木に近い状態になっているわけです。

だからこそ、使い終わったホダ木は昆虫ブリーダーの方や昆虫用品の製造業者にとって、価値のある原料になり得ます。私たちが特別な加工を施しているわけではなく、きのこを育てる過程がそのまま原料づくりを兼ねている、という言い方のほうが近いかもしれません。

きのこのために菌を回した時間が、そのまま次の使い道の下ごしらえになっている。原木栽培の面白さは、こういうところにあると私は思っています。

原木栽培と菌床栽培の違いについては、以前のコラムでも詳しく触れました。あわせてご覧ください(https://mbp-japan.com/kyoto/miyanishi-shinya/column/5221246/)。

選別と保管に一番時間をかける理由

一方で、どんな廃ホダ木でも原料になるわけではありません。この工程で私が一番時間をかけているのが、選別と状態管理です。

選別のポイントは3点です。きのこ菌がどこまで木に回っているか、腐朽がどこまで進んでいるか、そして、水分をどれだけ含んでいるか。

分解が浅ければ硬すぎますし、進みすぎれば崩れて扱いにくくなります。ちょうどよい範囲は、実際に手に取って重さと手触りを確かめないと分かりませんので、数字だけでは決められない部分だと感じています。

もう一つ大切にしているのが、状態を揃えることです。受け取った側は、それを加工して製品にされますので、ばらつきが大きいほど、その先の工程で手間が増えてしまいます。加工しやすい状態に揃えてお渡しするというのは、とても地味な作業ですが、ここに一番気を使っています。

段取りについても同じです。昆虫マットの製造や需要が高まる時期から逆算して、ホダ木をいつ引き上げ、どこで乾燥させ、どう保管するかを決めています。雨ざらしのまま置けば水を含みすぎ、状態が変わってしまうからです。

そして、原料としての素性は、実は栽培の段階で決まっています。京茸のホダ木は京都をはじめとする国産の木で、栽培期間中に農薬を使用していません。繊細な幼虫が直接口にするものですから、元の木がどう育ったかが、すべての土台になると考えています。

木を使い切ることが循環型林業だと考える理由

なぜ、そこまで手間をかけて再利用するのか?と聞かれることがあります。

私が手のひらに乗せているどんぐりが、きのこを育てる原木になるまでには十年から十五年かかります。拾って、苗木にして、植えて、育てて、ようやくホダ木になる。それだけの時間をかけた木です。

百里衆では「伐って、使って、植えて、育てる」という循環を自分たちの手で回しています。循環型林業とは、木を伐って使うだけでなく、どんぐりを拾って苗木を育て、再び山へ植え、森そのものを次の世代へ受け渡していく林業のことです。

その輪の最後を、廃棄という形で閉じたくないのです。原木として使った木が昆虫業者さんの手に渡り、幼虫を育て、やがてフンとなって土へ還り、また新しい木の栄養になっていく。すべてを自社で完結させることだけが循環だとは、私は考えていません。信頼できるパートナーへ良質な原料を届けることで、はじめて繋がるバトンもあると思うのです。

もう一つ、製造パートナーの方々と一緒に里山の価値を高めていきたいという思いもあります。原料を渡して終わり、受け取って終わりの関係ではなく、同じ山の恵みを扱う者同士として、互いの仕事の価値を押し上げていけたらと願っています。

夏に子どもたちが夢中でケースを覗き込むカブトムシ、その育ちを、京北の山から出た木が陰で支えているかもしれないと考えると、山での作業にも力が入ります。

まとめ

木の命は、キノコを出したところで終わりではありません。次の誰かの手に渡ってはじめて、里山の循環はひと回りするのだと私は考えています。

・昆虫マットなどの原料として、素性のはっきりした国産のホダ木をお探しの方
・里山保全や循環型林業の取り組みに関心のある方
・原木ならではの肉厚な椎茸を味わってみたい方


京都市右京区京北の株式会社百里衆では、原木きのこブランド「京茸」の栽培から、役目を終えたホダ木再利用までを一続きの仕事として担っています。原木椎茸「京ぽんぽん」のご注文も、ホダ木の活用に関するご相談も、公式サイトよりお気軽にどうぞ。(https://kyotake.jp/)。

※「京茸(きょうたけ)」は、株式会社百里衆が商標権を所有するきのこブランドです。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

宮西真也
専門家

宮西真也(農業)

株式会社百里衆(おざとしゅう)

シイタケを中心としたキノコ類の栽培を手掛ける。原木栽培にこだわり、どんぐりから苗木を育てて植林し、原木として活用。使用後は埋め込みマット等の昆虫商品として余すところなくリサイクル利用されています。

宮西真也プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

プロのおすすめするコラム

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

キノコの栽培を通じて里山の景色を次世代へつなぐプロ

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ京都
  3. 京都のくらし
  4. 京都の農業
  5. 宮西真也
  6. コラム一覧
  7. 昆虫マット原料に廃ホダ木を再利用|京茸が支える循環型林業のかたち

宮西真也プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼