原木シイタケと菌床シイタケの違いは?里山を守る循環型林業の仕組み

今、私が手のひらに乗せている小さなどんぐりが、キノコを育てる原木になるのは10年から15年もの歳月がかかります。そうお伝えすると多くの方から、「そんなに待つのですか?」と驚かれることも少なくありません。実は私自身も、この仕事を始めるまでは、きのこ一つにこれほど長い時間が必要だとは想像していませんでした。
私は京都市の京北という、森林が約9割を占める里山で、原木きのこの栽培を営んでいます。私たちが大切にしているのは、どんぐりから始まる「循環型林業」です。循環型林業とは、木を伐って使うだけでなく、どんぐりを拾い、苗木を育て、再び山へ植え、長い時間をかけて森そのものを次の世代へ受け渡していく林業のことを指します。
正直に申し上げれば、目の前の収穫だけを考えるなら、これほど非効率な方法はありません。それでも私があえてこの時間のかかる方法を選んでいる理由について、今日はお伝えできればと思います。
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どんぐり拾いから始める、日本唯一の原木きのこ栽培
私はもともと、自然の仕事に携わってきたわけではありません。高校では林業、大学では環境学を専攻していたものの、その後は飲食店や外資系のスーパーマーケットなどで働いていました。転機になったのは、京都市京北森林公園(閉園)で管理人を務め、キノコ狩り体験を担当したことでした。そこできのこ栽培に興味を持ち自分でも始めてみましたが、周りには相談できる人も教えてくれる人もいなかったため、自然そのものを先生にし、時間も味方につけることしにしました。13年間きのこをつぶさに観察し、試行錯誤を繰り返しながら経験を積み重ねった結果、今に至っています。
私たちが他のきのこ農家さんと大きく違うのは、どんぐり拾いから育苗、植樹までを一貫して自分たちの手で実践している点です。私の知る限り、ここまで取り組んでいる原木椎茸農家は、日本でも私だけだと思います。
現在、市場に出回るシイタケの多くは、おが屑や米ぬか、フスマに水を加えて固めたブロックで育てる「菌床栽培」です。短期間で安定して収穫できるため主流になっていますが、原木で育てたきのことの違いをご存じない方が大勢いらっしゃることに、私は以前からもどかしさを感じていました。これは、小売店へ販売に回っていた頃に特に強く感じたことでもあります。かつての自身がそうであったように、スーパーで手に取るシイタケの育ち方まで意識されている方は、そう多くありません。
一方、私が実践している「原木栽培」とは、山から切り出した天然木に菌を打ち込み、菌糸が木の繊維に沿って養分を吸収しながら、半年以上かけて育てる伝統的な栽培方法です。手間も時間もかかりますが、そのぶん身が詰まってぷりっとした食感と、肉厚でジューシーな味わいが生まれます。主力商品の原木シイタケ『京ぽんぽん』は、その代表的な存在です。
私は『京茸(きょうたけ)』というブランドのもとで、この京ぽんぽんを中心に、原木のマイタケやナメコ、レイシ(霊芝)といった商品も手がけており、手塩にかけ育てたこれらのきのこは、京都の料理店をはじめ、関西圏の百貨店やホテル、さらには星付きのレストランにもお届けしています。
「自然の中で育てた伝統的なきのこの価値を、一人でも多くの方に味わっていただきたい」。その思いで日々取り組んでいます。
一番おいしい原木を育てる、クヌギのどんぐりへのこだわり
私が植樹に使うのは、原木としてもっとも相性が良いと考えているクヌギのどんぐりです。きのこにとって、どの木で育つかは非常に重要であり、食味や食感、サイズや収量にまで影響します。だからこそ私は、入り口であるどんぐり選びの段階から一切手を抜きません。
また、土地の風や湿度、温度を読みながら十分に菌を回していく感覚も欠かせませんし、これは何年も森と向き合ってきたからこそ身についたものではありますが、同じ山でもその年によって表情が異なり、毎年が一年生のような気持ちになります。だからこそ飽きることがなく、そこに自然と向き合う面白さがあります。
「伐って、使って、植えて、育てる」里山を未来へつなぐ循環
また最近は、クマの出没やシカ、イノシシといった野生動物との共生がニュースでもよく取り上げられるようになり、里山のあり方そのものが問われている時代だと感じています。
私が描いているのは、きのこを軸にした循環型林業を通じて、業界を元気にすることはもちろん、これからの里山のあるべき姿を保ちながら進化させていくことです。そのために実践しているのが、『伐って、使って、植えて、育てる』という循環です。
まず、きのこを育てる原木を伐採し、必要な分だけ使います。その一方で、どんぐりを拾って苗木を育て、再び山へ植えていきます。役目を終えたホダ木でさえ、昆虫用の埋め込みマットなどとして余すところなく活用しています。命を最後まで使い切る、これも「京茸」ブランドとしてのこだわりであり価値の一つだと思っています。
こうした循環がうまく回らなくなると、山は次第に荒れていきます。高齢化などを理由に廃業される農家さんが増え、放置された原木は朽ち、人が入らなくなった山は手がつけられなくっていきます。これは京北だけの問題ではなく、全国の里山が抱える共通の課題だと、現場に立っていると強く感じます。
社名の『百里衆(おざとしゅう)』には、里山と共に歩む百姓集団という意味を込めました。美しい里山の景色を後世に守りつないでいく、その架け橋でありたいと願っています。
10年後の森を思い描きながら、今日もどんぐりを拾う
どんぐりが原木として使えるようになるまでには、10年から15年もの時間が必要です。私が今植えている木が役目を果たす頃には、私も同じだけ歳を重ねています。それでも、その木でおいしいきのこが育ち、緑あふれる森が次の世代へ受け継がれていく姿を思い描くと、不思議と心が満たされます。
もちろん、この長い時間を一人だけで背負うのは簡単なことではありません。だからこそ私は、同じ志を持つ仲間たちとともに里山を守っていける仕組みづくりについても考えています。その構想についてはまた別の機会にお話しできればと思いますが、いずれにしても、出発点はいつも足元にある一粒のどんぐりです。
詳しい商品や日々の取り組みは、京茸のホームページやインスタグラムでもご紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください
→HP(京のきのこ処 京茸)https://kyotake.jp/
→Instagram(@ozatoshu_kyoto) https://www.instagram.com/ozatoshu_kyoto/
自然を相手にする仕事は、思い通りにいかないことばかりです。それでも、長い時間をかけて森を育てる営みには、すぐには手に入らない豊かさがあると、私は思っています。一粒のどんぐりが教えてくれるその豊かさを、これからもきのこという形にして、皆さまの食卓へお届けしていきます。
『京茸(きょうたけ)』は、株式会社百里衆が商標権を所有するきのこブランドです。


