キャンプと法律 -キャンプ実践編-
前のコラムで、アメフトの反則について書いた。
こうして改めて思うと、アメフトというスポーツほど
隠れて反則が行われているスポーツも珍しいように思う。
僕は高校まで野球をやっていたが
野球で反則といえば、ピッチャーのボークや打撃妨害、守備妨害などがあるが
反則が取られずに試合が進んで行く、ということは考えられない。
アメフトと似ていると言われる(僕は全然違うと思っているが)ラグビーでも
ノックオン(ボールを前に落とす)やスローフォワード(ボールを前に投げる)
その他にも、ノットストレート、オーバーザトップなどなど、様々な反則があるが
反則はその都度チェックされ(プレーがあえて流されることはあるが)
隠れて反則が行われている、ということはまずない。
これは、アメフトというスポーツの特性であろう。
(結局、またアメフトについて書いてしまっている。)
通常の多くのスポーツ(球技)は、一つのボールを皆が追いかけ
試合が進行していく。
しかし、アメフトは違う。
ボールと全然違うところで、オフェンス選手とディフェンス選手が勝負している
ということが普通に起こっているのがアメフトである。
そのため、その勝負(駆け引き)の中で、相手に負けじと反則が行われるのである。
他のスポーツでは、たった一つのボールを巡る反則であるため
それを見逃すことはまずないと言ってよい。
しかし、アメフトでは、ボールと全然違うところでも反則が起きているため
それをいちいち取っていては、試合が進んでいかず、見ている側も面白くない。
そのため、目をつぶってもいいだろう反則、というものが出てくるのである。
脱線するが、僕がアメフト選手として殻を破りきれなかったのは
ここのところが分からなかったからだろう。
前述のとおり、野球では反則などもっての他である。
その感覚が抜けきらないまま、アメフトを続けてしまった。
アメフトには、目をつぶってもらえるであろう反則があることが分からなかった。
ここでいきなり、裁判の話に飛ぶ。
民事裁判は、地球上に存在している社会科学的なたった一つの真実を明らかにする手続きではなく
あくまで、当事者が裁判所に対し、主張する事実と提出する証拠を基にした
相対的真実を明らかにする手続きであるとされる。
つまりこれは、当事者が、自らに有利な事実と証拠のみを提出することが許されているということである。
ここに、民事裁判の限界がある。
相手方が自分に不利な事実や証拠を出さず、こちらがその具体的事実や証拠を手元においていなければ
それはないものとして裁判上扱われてしまう。
相手方の手持ち証拠等を出させる手続きとして
種々のものがあるが(文書提出命令、調査嘱託、文書送付嘱託、弁護士法23条照会等)
いずれも限界がある。
そのため、「正直者が馬鹿をみる」とご本人が感じることが起こってしまうのである。
では、弁護士が、事実や証拠を隠す当事者に、そうと分かりながら加担するのかというと
それは弁護士の仕事ではないであろう。
弁護士の使命は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することである。
依頼者が勝訴すれば何をしてもよい、というものではない。
事件処理は、依頼者の基本的人権を擁護し、かつ、社会正義を実現するものである必要がある。
しかし矛盾するようであるが、その過程で、目をつぶることが許されている事実や証拠
というものも存在しているように思う。
そう、アメフトにおける目をつぶってもよい反則と同じように。
むろん前提は、社会正義に適っていることである。
民事裁判における真実が相対的真実である以上、裁判所が認定する真実は一つではない。
しかし、基本的人権が擁護され、同時に社会正義が実現される真実は
やはり一つなのではないだろうか。
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弁護士西村友彦(にしむらともひこ)
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