ちゃんとした裁判官
いじめに関しては、厚生労働省が
「いじめの防止等のための基本的な方針」というものを策定しており
その中で、いじめを防止するために、自治体や学校などが採るべき措置や対応方法などのガイドラインが示されている。
しかし、それに従ったからといって、いじめを防げるわけがないことは
皆、とりわけ教育現場にいる方は分かっておられるだろう。
制度を整えたからといって、いじめはなくならない。
僕は、いじめというものは
他人を自分より低く見ることで自己肯定感を得ようとする心理的働きがあれば生じ得るものと考える。
それは、世の中の大多数の者が有する感情だといえるのではなかろうか。
僕は、数年前まで「大津の子どもをいじめから守る委員会」という
大津市が設置する常設の第三者機関の委員を務めていた。
その中で特に気になったのは、教育現場が、「いじめかそうでないか」に敏感になっているように思われたことだ。
ある事柄が、法律上の「いじめ」に該たるのかどうかを、とても気にする。しかし、それは大事なことなのだろうか。
その事柄が仮に「いじめ」に該たらないとしても
当該行為を受けた子ども、また、当該行為を行った方の子どもも、非常に傷ついていることはたくさんあるはずだ。
また、反対に、全てが「いじめ」に該たると断定したうえで
子どもたちに、「いじめ」はダメだ、相手に謝りなさいと言い、謝ったら、それでお互い終わり
としてしまうことも多々みらえる。
重要なのは、子どもの声をきちんと聞いてあげることのはずだ。
「いじめ」かそうでないかばかりを気にしていると
いじめに該たらないと考えれば、子どもの声を聞かないように傾いていってしまうように思う。
また、謝ったらそれで終わり、としてしまうと、子どもの中のもやもやが蓄積されてしまい
更に根深い問題へと進展してしまうリスクがあるのではなかろうか。
「いじめのある世界で生きる君たちへ」という書籍がある。
著者の中井久夫先生は、自らも壮絶ないじめを受けた経験をお持ちであるが
いじめの構造を、「孤立化」「無力化」「透明化」の3段階に分析され、
最期の「透明化」の段階に至り、いじめを受けた子どもが死を選択する心理分析もしておられる。
そして、「孤立化」の段階では、まだ、子どもは周囲の大人に助けを求めているが
その声が大人に届く確率は非常に低い、とも述べておられる。
被害を受けたという子どもだけではなく、加害に及んだとされる子どもも
何らかの困難を抱えている可能性は極めて高いのではないかと思う。
子どもに向き合い、子どもの声をきちんと聞いてあげることが
子どもに関わる大人に求められていることだと思う。
そうすることで、悲しい気持ちで新年を迎える子どもが
一人でも減って欲しいと願う。
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弁護士西村友彦(にしむらともひこ)
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