塾ジイの部屋18 ー模試を“自分専用の教材”に変える方法ー
9月より、少し上がったけれど……
カラン……。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
「おや、お父さん。今日はどうしましたかな?」
「この前、息子の10月の模試が返ってきたんだよ」
「ほう」
「9月より偏差値は上がったんだけどさ」
「それはよかったですな」
「……でも、2しか上がらなかった」
「ほう」
「本人も、なんだか浮かない顔をしてるんだよ」
「なるほど」
「親としてはさ、もう少し上がってほしかったと思っちゃうんだよな」
「お父さん」
「うん?」
「『2しか上がらなかった』と、『2上がった』では、同じ結果でもずいぶん違って聞こえますな」
「確かに……」
その「2」は、どこから生まれた?
「じゃがな。わしが一番気になるのは、そこではないんじゃ」
「じゃあ、何?」
「その2は、どこから生まれたのか、ということじゃ」
「どこから?」
「9月から10月の間に、何が変わったのか」
「勉強時間とか?」
「それもあるじゃろう」
「でも、そこまで大きくは変わってないんだよ」
「なら、別のところかもしれませんな」
「別のところ?」
「前より解ける問題が増えた」
「うん」
「ミスが少し減った」
「なるほど」
「問題を解くときに、最後まであきらめなくなった」
「そういうこともあるか」
「成績に表れる変化は、必ずしも一つではないんじゃ」
「確かになあ」
「だから、成績表の数字だけを見て、『2しか上がらなかった』と決めつけるのは、少しもったいない」
秋の模試は「数字」だけでは見えない
「でも、親としては、つい先のことを考えちゃうんだよ」
「それは当然ですぞ」
「このままで志望校、大丈夫なのかって」
「親は心配するものじゃ」
「だったら、何て声をかければいい?」
「まずは……」
「うん」
「『2しか上がらなかったな』ではなく」
「……」
「『9月から、何が変わったんだろうな』と聞いてみる」
「なるほど」
「それなら、本人も一緒に考えられる」
「親が評価するんじゃなくて、本人に気づかせるわけか」
「そういうことじゃ」
「今の数字」だけで決めつけない
「でもさ」
「なんですかな?」
「本人が『別に何も変わってない』って言ったら?」
「それでもええんじゃ」
「え?」
「すぐに答えを出さなくてもええ」
「そうなの?」
「親が答えを教えてしまうより、本人が後から気づくこともありますからな」
「なるほどなあ」
「それに、お父さん」
「うん?」
「秋以降は、周りの受験生も勉強を始めて、学力を上げてくる時期じゃ」
「そうか」
「じゃから、同じような点数を取っていても、偏差値が下がることもある」
「なるほど」
「そんな時期に、偏差値が少しでも上がっているということは、それだけでも意味があるんじゃ」
「単純に『2しか』とは言えないわけだな」
「その通りじゃ」
親が焦るのは、「この先」が見えないから
「でも、心配なんだよ」
「それも分かりますぞ」
「このまま本当に伸びるのかって」
「それは、誰にも分からん」
「……」
「じゃがな」
「うん?」
「今より上向いているのなら、その流れを大切にすることじゃ」
「上昇気流ってことか?」
「そうじゃ」
「9月より10月、10月より11月」
「そうやって上向きの流れを作っていく」
そして、父親の本音が出る
「じゃあ、親は何をすればいい?」
「小さな進歩を見逃さないことですな」
「小さな進歩?」
「『前よりできてるな』」
「『ここ、ちょっと良くなったな』」
「そういうところを見つけてやるんじゃ」
「それなら俺にもできそうだ」
「それでええんじゃ」
「でも、褒めすぎるのもどうかなと思うけど」
「大げさに褒める必要はない」
「じゃあ?」
「事実を、そのまま認めてやればええ」
「事実を?」
「『前より上がったな』」
「『前よりできるようになったな』」
「それだけでええ」
「なるほど」
「志望校を変えさせた方がいいのかな?」
「でもさ……」
「なんですかな?」
「正直に言うとな」
「うん」
「このままじゃ、志望校は厳しいんじゃないかと思ってるんだ」
「そうですな。今の数字だけを見れば、そう感じるのも無理はありません」
「だったら、本人に志望校を変えるように言おうかなと思って……」
「お父さん」
「うん?」
「それを決めるのは、もう少し先でもええんじゃありませんかな」
「でも、現実的に考えないと……」
「もちろん、現実を見ることは大切じゃ」
「じゃあ、どうすればいい?」
「まずは、9月から10月の変化を見ることですな」
「2上がったこと?」
「それだけではない」
「……」
「何ができるようになったのか。何が変わったのか。そして、これから何を変えられるのか」
「なるほど」
「志望校を変えるかどうかを考える前に、本人が今どこにいて、どちらへ向かっているのかを見るんじゃ」
「現在地だけじゃなくて、向かっている方向を見る……か」
「そうじゃ」
「合格できるか」だけが受験じゃない
「でも、最後まで頑張って、結局届かなかったら?」
「その可能性がないとは、誰にも言えませんな」
「……」
「じゃが、今の段階で大人が先に『無理だから変えよう』と決めてしまう必要もない」
「本人が決める余地を残すってことか」
「そういうことじゃ」
「分かったよ」
「お父さん」
「うん?」
「受験は、合格できる学校を探すことだけが目的ではありませんぞ」
「……」
「自分がどこまで伸びるのかを、自分自身で確かめる時間でもあるんじゃ」
「なるほどな……」
「2しか」ではなく、「2上がった」から始めよう
「じゃあ、息子にはこう聞いてみるよ」
「何と?」
「『9月から10月で、何が変わったと思う?』って」
「それがええですな」
「志望校の話は……そのあとだな」
「そうじゃ」
「今日は、ちょっと考え方が変わったよ」
「それはよかった」
「じゃあ、一杯……」
「お父さん」
「ん?」
「息子さんが勉強している時間に、大声でテレビを見るのは……」
「サイレントサポートじゃないな(笑)」
「その通りじゃ(笑)」
カラン……。
塾ジイはグラスを磨きながら、ぽつり。
「成績は、今の自分を映す鏡じゃ。じゃがな、受験で大切なのは、その鏡に映った姿だけを見ることではない。どちらへ向かっているのかを見ることなんじゃよ」
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