今週のJR(塾ジイレビュー)【保護者編】―「その“2”」を次の一歩につなげる―

カラン……。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
「おや、今日はお父さんじゃな」
「はい……」
「なんだか、浮かない顔じゃな。どうしたんじゃ?」
「実は、娘のことで相談がありまして」
「お嬢さんか。何かあったのか」
父親はカウンターに座ると、鞄から一枚の紙を取り出す。
「これなんです」
「……成績表じゃな」
「はい」
「なるほど……9月の模試か」
「そうなんです」
父親はため息をつく。
「夏休み、本人なりに頑張ったんですよ」
「ほう」
「塾の夏期講習にも行って、家でも勉強して……」
「それは頑張ったな」
「ところが……」
父親が、成績表を指差す。
「偏差値が下がったんです」
「……」
「どういうことでしょう?」
塾ジイは少し考えて、
「お父さん」
「はい」
「まず……」
「落ち着いて、一杯いくんじゃ。こういうときは*ダバダ火振に限る。水割りでどうじゃ?」
*ダバダ火振の説明→https://www.google.com/search?q=%E3%83%80%E3%83%90%E3%83%80%E7%81%AB%E6%8C%AF&rlz=1C1GCEU_jaJP996JP996&oq=%E3%81%A0%E3%81%B0%E3%81%A0&aqs=chrome.2.69i57j0i4i512l9.4124j0j7&sourceid=chrome&ie=UTF-8
「何か根拠があるのですか?」
「特に無い」
「なんじゃいそれ!?」
「成績表を見るときは、まず心を落ち着けるんじゃ」
「確かに……」
「偏差値が下がったからといって、お嬢さんが夏休みに頑張っていなかった、ということではないんじゃ」
「でも、数字は下がっていますよね」
「うむ。そこは事実じゃ」
「ですよね……」
「ただしじゃ…」
塾ジイがグラスを置く。
「偏差値は、自分だけで決まる数字ではないんじゃ」
「周りとの比較……ですよね?」
「その通りじゃ」
「ということは……」
「夏休みを境に、周りの受験生も本気になってくるんじゃ」
「部活動を引退した子とかですか?」
「うむ」
「あと、これまで少し様子を見ていた子とか…」
「そうじゃ。そういう子たちが、一斉に勉強を始める」
「なるほど……」
「つまり――」
塾ジイは少し笑う。
「お嬢さんが止まったんじゃなくて、周りが走り始めたんじゃ」
「……なるほど」
「徒競走で言えば、お嬢さんが歩いていたわけじゃない」
「周りが急に走り出したってことか!」
「そういうことじゃ」
父親は成績表を見る。
「なんだか、少し安心しました」
「そうじゃろ?」
「……でも、娘には『もっと頑張れ』って言ってしまいました」
「お父さん」
「はい」
「それは……」
少し間を置いて、
「今夜は反省会という名の飲み会じゃな(笑)」
「やっぱりですか!(笑)」
「それからな、お父さん」
「はい」
「9月の数字だけを見てはいかん。」
「どういうことですか?」
塾ジイがカウンターの上に指で線を描く。
「成績というものはな、点ではなく線なんじゃ」
「線……」
「9月、10月、11月……」
「はい」
「9月が少し下がっても、そのあと上がっていけばいいんじゃ」
「なるほど」
「例えばじゃ」
塾ジイが少し考える。
「D判定からC判定になった子と、B判定からC判定になった子を比べてどうじゃ?」
「同じCでも意味が違う」
「その通りじゃ!」
「……」
「だから、9月のCを見てじゃ――」
塾ジイは父親を見る。
「はい、受験終了じゃ!志望校はもう無理じゃ!!」
「いやいやいや(笑)それはあり得ない!」
「そうじゃろ?(笑)それに、もう一つあるんじゃ」
「はい。」
「ワシは成績表を『宝石箱』だと思っておる」
「宝石箱?」
「そうじゃ」
「でも……」
父親が成績表を見る。
「これ、間違いがいっぱいありますけど」
「だからこそじゃ!」
「?」
「間違えた問題の中に、これから伸びるところが隠れておる」
「つまり……」
「弱点=伸びしろじゃ」
「なるほど!」
「今はできないが…」
「でも、これからできるようになるかもしれないということか…」
「そういうことじゃ」
「……」
「だったら、間違えた問題というのはじゃ――」
「宝物?」
「その通りじゃ」
「でも、できればもっとキラキラした宝物がいい(笑)」
「それは贅沢というものじゃな(笑)」
秋からは「覚える」から「出し切る」じゃ
「そして、秋からは勉強の仕方も少し変えていくんじ」
「夏までは覚えることが中心だった。塾の宿題も暗記が多かった」
「うむ」
「秋からは?」
塾ジイがグラスを置く。
「出し切るんじゃ」
「なるほど」
「時間を計って問題を解く」
「答案を書く、採点する、そして、間違いを解き直す。過去問も使っていく」
「はい」
「つまり、インプットからアウトプットへじゃ。」
「……娘にも伝えてみます」
「ぜひ、そうしてやってほしいんじゃ」
「わかりました」
「ただ、お父さん」
「はい」
「一つだけお願いがあるんじゃ」
「なんでしょう?」
「娘さんが成績表を持って帰ってきたら……」
「はい」
「いきなり――」
塾ジイが父親の真似をする。
「偏差値下っとるやないか!なんでやねん!?」
「……」
「これは、できれば封印してほしいんじゃ(笑)」
「……はい(笑)肝に銘じます」
「今も呑んでいるのだから、肝臓には優しくした方が良いな。まずはじゃ――」
塾ジイが優しく言う。
「夏休み、よく頑張ったな。じゃあ、この結果から何をしようか?それなら、お嬢さんも一緒に考えられる。結果を責めるんじゃなくて、これからを見る姿勢を示すんじゃ」
「これからの『線』を見るんですね!」
「そうじゃ」
きさらぎの最後の一杯
父親は、成績表を鞄にしまう。
「塾ジイ」
「なんじゃ?」
「今日、ここに来てよかったです」
「それはよかった」
「帰ったら娘に言ってみます」
「何て言うんじゃ?」
父親は少し考えて、
「夏休み、よく頑張ったな」
「うん」
「それから……」
「うむ」
「じゃあ、この結果から何をしようか?」
塾ジイはニッコリ笑う。
「それで十分じゃ」
父親が立ち上がる。
「ありがとうございました!僕も朝までにアルコールを出し切ります!」
「それは無理じゃ。まあ、気を付けて。また結果を教えてくれ」
カラン……。
扉が閉まる。
塾ジイはグラスを磨きながら、ぽつり。
「9月の偏差値は、まだ夏の答じゃない」
そして、もう一言
「答え合わせは、まだまだ先でいいんじゃ」
――今夜も、きさらぎは静かに灯りをともしています。

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