センセーショナルな言葉に踊らされる「葬」にかかわる業界。ここはあえてその言葉の裏を考えてみたい。
川崎市の吉澤石材店です。とても久しぶりのコラム更新になってしまいました。
さて、下の写真は弊社で施工させていただいた、とあるお宅様の墓誌の彫刻文字の石ずり(拓本)です。
①・②と弊社の先代が書いた文字で、①はご主人様、②はお子様のお戒名です。そして③は奥様のお戒名になります。
きれいに等間隔で、三名分のお戒名が並んでいるように見えるかもしれません。
でも、実は1行目と2行目の間にはもう一人分、お戒名を彫刻できるスペースがあります。つまり2行目に見えているお戒名は本当は3行目に刻んであるということです。
なぜこのように刻んだかと言えば、ご夫婦が亡くなった時、墓誌の並びが隣り合うように配慮してのこと。2行目をあけてあるのは、後日奥様がお亡くなりになった時、そこに刻み込むためのスペースだったからです。
いつもというわけではありませんが、弊社ではお施主様と相談してこのような方法を採る場合があります。
では何故そのように刻まれなかったか。
その前に、実は奥様の戒名③を刻んだのは弊社ではありません。どうした事情かは分かりませんが、たまたま奥様のご納骨とお戒名彫刻を別の業者さんにお願いされてしまったようです。
文字が全く異なっていますよね。③はおそらくはコンピュータ文字かと推察します。
施工業者がどこなのかはともかくとして、改めて、それではなぜ2行目をあけてしまったのか。
いろいろ考えてみても確実にこうだということは言えません。でも言えないながらも想像してみると、可能性としては次のいずれかかなと想像します。
①お施主様に指定された
②請け負った業者が何の疑問も感じず、ただ単に等間隔で刻んでしまった
石屋にも「想像力」が必要だ。
ここから先はすべて想像の域を出ません。
ただ実際のところ、お施主様から指定されるという可能性はとても低いと思います。墓誌を作る時、並びの順を聞かれれば死亡順がいいか、続柄順がいいかは自分の希望を伝えてくれるでしょうが。
なのでおそらく今回の場合は、請けた業者が何の疑問も感じずにお戒名の原稿を彫り手に回し、彫り手も何の疑問も感じずに同じ感覚で刻んでしまった。そう考えるのが妥当ではないかなと思っています。
多くのお墓を見ていると、大抵はお戒名の並び・刻んである位置にはある一定のルールというか、基準のようなものが感じられます。もちろん複雑な事情があるお宅もあるので、必ずしもルール付けが明確でないこともあることでしょう。
でもあれ、なんで?と首をかしげてしまうようなことも実際にあるにはあるんですね。しかもそれが比較的古くないお墓だったり…。
もちろん、そのすべてが業者側の判断の甘さに起因することばかりではないと思います。
でも一般的な話として、自分が何かを依頼されたとき、観察不足や想像力の不足によってお施主様に迷惑をかけることが極力無いように努めていかなくてはいけませんね。
結局、この墓誌は今回戒名彫刻もあるために、弊社で引き取って再研磨。そして都合4名分のお戒名を再彫刻するということになりました。
再研磨と引き取り・再据付費用はいただかず、文字彫刻自体も新規墓誌に刻む費用で4名分を刻ませていただくことにしました。もともとうちでお世話になったお墓、多少でもお施主様の負担が少なくなったほうが良いですから。
こうしたことを自分のところでも起こさないよう、他山の石としていきたいです。
また、よろしくお願いします。