無期転換ルールと多様な正社員をどう対応するか 【第3部】中小企業が整備すべき労務管理

こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
今回は去年改正となった年金について3部にわたりお話します。
はじめに
令和7年6月、年金制度改正法が成立しました。
今回の改正には、「働き方やライフスタイルに中立的な制度」への転換を目指し、短時間労働者や個人事業所の従業員への適用拡大、さらには私的年金の大幅な拡充が織り込まれています。
これまでの銀行員としての企業分析や個人資産形成アドバイスの経験、社労士としての人事労務アドバイザーの立場から見ると、今回の改正は企業の「法定福利費というコスト」と、個人の「生涯の可処分所得というリターン」の両面を再設計するよい機会ではないかと思います。
まずは、年金制度の改正を確認していきます。
公的年金制度の機能強化:適用拡大と給付の見直し
今回の改正で、企業・従業員双方の理解度とそれによるトラブルの発生に注意が必要です。
特に適用拡大は、説明不足のまま進めると手取り減少への不満や、労使間の認識ズレを招きやすくなります。
今回の改正で、企業経営に直接的な影響を与えるのが社会保険の適用拡大です。とりわけ中小企業や個人事業所にとっては、人件費への影響が大きくなります。
1. 社会保険の適用範囲の拡大
企業規模要件と賃金要件が事実上撤廃され、これまで対象外だった一部の個人事業所も新たに適用対象となります。
| 改正項目 | 概要・スケジュール | 財務・労務への影響 |
|---|---|---|
| 企業規模要件の撤廃 | 2027年10月から段階的に拡大、2035年10月には1人以上の全企業が対象 | 短時間労働者の社会保険加入が義務化され、会社負担の社会保険料が増加 |
| 賃金要件の撤廃 | 月額8.8万円(年収106万円)の壁を廃止。公布から3年以内に施行 | 週20時間以上勤務で、賃金額にかかわらず加入が必要 |
| 個人事業所の適用拡大 | 2029年10月から、常時5人以上を使用する飲食・宿泊業等の個人事業所も対象 | 2029年10月時点で既存の事業所は、当面は対象外 |
2.給付と負担の基準見直し
高所得者への負担増と、働く高齢者への給付制限緩和が同時に進められます。
| 改正項目 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 標準報酬月額の上限引上げ | 現行65万円 → 2029年9月までに75万円へ段階的引上げ | 保険料は増えるが、将来の年金額(報酬比例部分)も増加 |
| 在職老齢年金の見直し | 支給停止基準額を月50万円→ 62万円に引上げ(2026年4月〜) | 高齢者が年金減額を気にせず働きやすくなる |
3. 私的年金制度の拡充(iDeCo・企業型DC)
財務・金融の視点から注目したいのが、私的年金制度の拡充です。公的年金を補完する「自助努力による資産形成」を、国が後押しする姿勢が現れています。
| 制度名 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| iDeCo加入可能年齢 | 上限年齢を70歳まで引き上げ(3年以内に施行) | 就労期間の長期化と複利効果を活かした運用が可能 |
| 企業型DC 拠出限度額 | 月5.5万円→月6.2万円 | マッチング拠出の制限も撤廃 |
| iDeCo 拠出限度額 | 第1号:月7.5万円/第2号:月6.2万円(予定) | 非課税メリットを享受できる投資枠が拡大 |
4. その他の見直し:遺族年金の子の加算
家族構成の多様化を踏まえ、保障のあり方も見直されます。
・遺族厚生年金の男女差解消(2028年4月〜段階的に実施)
・ 子の加算額の拡充(2028年4月〜)
現行:第1・2子 234,800円、第3子以降 78,300円
改正後:こども1人につき一律 281,700円
まとめ
今回の改正は、企業にとっては社会保険料負担というコスト増を伴います。
一方、個人にとってはiDeCoや企業型DCを活用した生涯キャッシュフロー最大化の好機でもあります。特に、個人事業所への適用拡大や企業規模要件の撤廃は、採用や賃金設計の考え方を見直す契機となるでしょう。
第2部では、これらの改正が企業と個人の「財布」にどのような影響を与えるのか、数字を用いて具体的に比較していきます。



