なぜ数字が経営判断に使われないのか      【第3部】人件費を財務とつなげて考える

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


 こんばんは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
コラム「なぜ数字が経営判断に使われないのか」の最終回である第3部、財務と人件費をどのように考えるかについてお話します。

はじめに

 第1部では、財務の数字を「過去の結果」として見てしまうリスクについて整理しました。
 第2部では、経営判断に使える数字として、キャッシュフロー、収益性、効率性という3つの視点から、財務の捉え方を整理しました。
 最終回となる第3部では、これらの財務の視点を、人件費や賃上げ、採用といった労務の判断とどのようにつなげて考えるのかを整理します。
財務と労務を切り離さずに考えることで、経営判断の質はより高まっていきます。

人件費は「分けて考えやすい」からこそ注意が必要

 人件費は、多くの企業にとって主要な固定費です。
その一方で、設備投資などと比べると、財務とは切り離して考えられやすい費用でもあります。
 しかし、人件費もまた、事業を支える重要な経営資源への支出です。
財務と切り離して考えてしまうと、賃上げや採用の判断が感覚的になり、その影響を十分に把握できなくなります。

賃上げ・採用の判断は数字で説明できているか

 近年は、人手不足や物価上昇を背景に、賃上げの機運が高まっています。
その結果、「賃上げをしなければならない」という結論が先行し、財務的な影響を十分に整理しないまま判断が行われるケースも見受けられます。
 
たとえば、

  • 営業キャッシュフローの範囲で継続的に支払える水準か
  • 利益率への影響を織り込んでも許容できる水準か
  • 将来の成長につながる投資と位置づけられているか

 こうした点を整理できていなければ、賃上げや採用はその場しのぎになってしまいます。

効率性(ROI)の視点で人件費を見る

 第2部では、効率性の指標としてROIやROICに触れました。
これらは設備投資だけでなく、人件費を考える際にも参考になります。
 
人件費を増やすことで、

  • どのような付加価値が生まれるか
  • 生産性や業務効率に変化はあるか
  • 中長期的にキャッシュフローの改善につながるか

という視点で考える事も必要かと思います。

 賃上げトレンドから人件費の見直しは避けては通れませんし、「賃上げした分、もっと働いてもらう」のは昨今の労働環境から極めて難しいです。
 ただ、賃上げのために限りある資源(利益)から資金を捻出し、賃上げにより企業の利益を圧迫するのも事実です。「賃上げを続けるには、利益(キャッシュフロー)を維持する必要がある」という事を理解してもらい、生産性・付加価値向上や業務効率の改善に協力してもらう事が重要であると思います。
 その上で、投下したコストに対してどのようなリターンが見込めるのかという視点で整理することで、人件費は単なる固定費ではなく、経営判断の対象として位置づけられます。

財務と人件費を一体で考える

 キャッシュフロー、利益率、効率性。
これらの財務の視点と人件費を組み合わせて考えることで、経営判断はより整理されたものになります。

  • 今のキャッシュフローで、どこまで人件費を増やせるのか
  • 利益率を維持するために、どの水準が適切なのか
  • 将来の成長に向けて、どの投資を優先すべきなのか

 こうした整理ができていれば、賃上げや採用は感覚的な判断ではなく、説明可能な経営判断になります。

数字と結びつけることで判断に一貫性が生まれる

 人件費や人事の判断は、どうしても感情が入りやすい分野です。
だからこそ、財務の数字と結びつけて考えることが重要になります。
数字を軸に判断することで、

  • 社内への説明
  • 金融機関との対話
  • 中長期的な経営の一貫性

こうした点でも、経営判断の説得力が高まっていきます。

まとめ

 第3部では、人件費を財務と切り離さず一体で考える点について整理しました。
キャッシュフロー、収益性、効率性という財務の視点を持つことで、賃上げや採用といった労務の判断も、より質の高いものになります。
 
3部を通じてお伝えしたいのは、
財務は過去を確認するためだけでなく、未来の経営判断を支える道具である
という考え方です。
 数字は嘘をつきません。そして、誰に対しても説明しやすい客観的な判断基準です。
数字の見方を変えることが、経営判断そのものを変えるきっかけになると思います。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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