なぜ数字が経営判断に使われないのか        【第1部】財務が「結果の確認」で止まる危うさ

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:財務


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
前回のコラム「金融経済教育と労務管理の共通点 【第3部】中小企業が見直したいポイント」で、「労務管理と財務は切り離せない」事を説明しました。
 前回からの流れで、今回は財務をメインにお話ししたいと思います。

はじめに

 前回のコラムで、労務管理を感覚や慣習に任せるのではなく、数字と仕組みの両面から整理することが持続的な経営につながる事を説明しました。しかし、実際は賃上げや採用といった労務上の判断が、感覚や雰囲気に左右されやすいのが実状です。
 その背景には、財務の数字が経営判断に十分使われていないという課題があります。
 第1部では、なぜ多くの企業で数字が経営判断に使われないのかについて、黒字倒産や資金ショートといった事例も踏まえながら、財務の見方そのものに潜む問題を整理していきます。

財務の数字を「過去の結果」として見てしまっている

 多くの企業では、決算書や試算表はきちんと作成されています。しかし、その数字を過去の結果として確認するだけで終わってしまっているケースが少なくありません。

~売上はいくらだったのか、利益は出ているのか~

 こうした確認は重要ですが、それだけでは経営判断にはつながりません。
本来、財務の数字は「これまでどうだったか」を振り返るだけでなく、「このままで問題はないのか」「次に何を判断すべきか」を考えるための材料です。
 財務を過去の結果としてしか見ていないと、将来に向けたリスクや変化の兆しを見逃してしまいます。

黒字倒産や資金ショートは突然起きるわけではない

 企業の倒産というと、「赤字が続いた結果」と思われがちですが、実際には黒字倒産や資金ショートによる倒産も少なくありません。
 P/L(損益計算書)上は利益が出ているにもかかわらず、売掛金の回収遅延や在庫の増加、借入金返済などが重なり、手元資金が足りなくなってしまうケースです。
 このような事態は、突然起きるわけではありません。
財務の数字を「過去の結果」としてしか見ていないと、キャッシュポジションやキャッシュフローの変化に気づくのが遅れてしまいます。
 また、利益とキャッシュフローの違いを認識せず、利益の数字だけ見た結果、「黒字だから大丈夫」という判断が、取り返しのつかない状況を招いてしまうのです。

財務と労務を切り離すことで判断が場当たり的に

 財務を経営判断に活かせていない企業では、労務の判断も短期的な視点での判断になりやすい傾向があります。
 近年は、物価上昇や人手不足を背景に、賃上げの圧力が強まっています。その流れの中で、「賃上げをしなければならない」という判断が先行し、財務への影響を十分に検証しないまま賃上げを実施してしまうケースも見られます。
 賃上げそのものが悪いわけではありません。しかし、

  • キャッシュフローや利益率にどのような影響があるのか
  • 継続的に支払える水準なのか

といった点を整理しないまま進めてしまうと、結果として経営の選択肢を狭めてしまいます。財務と切り離された労務判断は、その場しのぎの対応になりやすくなります。

問題は「財務経験や能力」ではなく「数字の使い方」

 ここまで見てきたように、数字が経営判断に使われないのは、経営者の財務経験や能力の問題ではありません。
問題は、財務の数字を「過去の結果」としてしか捉えていないこと、そして「労務と財務を切り離して考えている」点にあります。
 財務は確認するための数字ではなく、経営判断の質を高めるためのツールです。

見方を変えることが、黒字倒産や資金ショートといったリスクを避ける第一歩になります。

まとめ

 第1部では、財務の数字を過去の結果として見てしまうことが、黒字倒産や資金ショート、さらには場当たり的な労務判断につながるリスクについて整理しました。
 次回は、経営判断に使える財務とは何か、どの数字をどのような視点で見ればよいのかを、キャッシュフロー・収益性・効率性という切り口から見ていきます。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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