AIと労働環境を考える ~第1部:AI浸透の現状と労働環境への影響~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:業務効率、DX化


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
急速に普及が進むAI、そのAIと労働環境の変化などについて3部にわたりコラムを掲載します。
 今回は第1部「AI浸透の現状と労働環境への影響」についてお話します。

はじめに:AIがもたらす変化をどのように捉えるべきか

 近年、生成AIをはじめとするデジタル技術の進展により、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。世界的にはホワイトカラー職の求人減少が進む一方、先端IT人材は高額報酬で奪い合う状況が生まれ、労働市場の構造が大きく揺れ動いています。
 第1部では、こうした変化を踏まえ、 「労働環境はどのように変わっているのか」 を整理し、企業が向き合うべき「現在地」を確認していきます。

AI浸透が加速する現状

 AIは急速に浸透し、事務処理や顧客対応などの定型業務を中心に自動化が進んでいます。
OECD調査によれば、世界の労働人口の14%が完全に代替可能、さらに32%が部分的に影響を受けると予測されています。
 海外では、デスクワーク中心のホワイトカラー職の求人は前年同期比で10%強減少となっています。一方で、肉体労働が伴うブルーカラー職については求人が増加し、米国ではホワイトカラーの約60%がブルーカラーへの転職を検討していると言われています。
 日本でも同様の傾向が見られ、特にバックオフィス業務はAI化の影響を受けやすい業務となっています。

日本の学生のキャリア意識の変化

 日本の大学生を対象とした調査では、約40%が志望業界を変更、もしくは志望職種を変更したと回答しています。
背景には「AIに奪われない職種」への志向があり、専門職、建設農業等、クリエイティブ分野への関心が高まっています。
 若年層は、「AIを使いこなす力」をキャリア形成の必須要件と認識し始めています。

人材市場の二極化:不足する先端IT人材

 野村総研の調査では、日本の労働人口の約50%がAIやロボティクスで代替可能とされています。
海外も同様で、GAFAMに代表されるテック企業では業務自動化による余剰人員、コスト削減、競争環境の変化などから人員削減が行われています。
 一方で、経済産業省は2030年に約79万人の先端IT人材が不足すると予測しており、テック人材の需要は非常に高まっています。
米国ではAIエンジニアに約30〜40万ドル、日本でも最高年収6,000万円規模の求人が登場しており、人材獲得競争は激しさを増しています。
 労働市場は「人員削減が進む一方で、先端IT人材は不足により争奪戦」という構造となっています。

企業経営への影響:財務・労務の見直しが必須に

 AI浸透は労働環境だけでなく、企業の財務構造にも影響を与えます。
特に以下の点は注意が必要です。

  • 生産性向上による一人当たり付加価値の変動
  • 人員配置及び人件費構造(労働分配率)の最適化
  • AI投資によるROI(投資回収)とキャッシュフローへの影響

 AI導入はコストではなく、業務効率化と事業継続性を支える「経営判断の一部」と位置づける必要があります。

第1部 まとめ:変化を正しく捉えることが第一歩

 AIによる業務の変化はすでに始まっており、労働市場にも影響が出ています。
特に、定型業務の縮小 と 先端人材の争奪戦 が同時に進んでいる点は見逃せません。
 第2部では、こうした流れの中で どの仕事が影響を受けやすく、どの仕事が価値を高めていくのか を整理し、求められる新しい人材像をご紹介します。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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