職場のハラスメント撲滅月間に学ぶ:判例と企業事例から考える職場の守り方 ~第1部:ハラスメントの実態と裁判例から見える企業の責任~

こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
前回に引き続き、ハラスメントについてお話をします。
はじめに:第1部の振り返りと本章の目的
第1部では、ハラスメントの現状と裁判例を通じて、現在の課題と企業が果たすべき責任についてお話しました。
第2部では、実際にハラスメント対策に取り組む企業の事例を紹介しながら、特に中小企業が実務的に整備すべきポイントを整理します。
ハラスメント対策の事例
厚労省「あかるい職場応援団」では、業種・規模を問わず多様な企業がハラスメント防止に取り組む事例を紹介しています。ここでは、3社の事例を取り上げます。
1.P社の事例(介護支援事業、従業員約250人)
「利用者からのハラスメントが課題」と位置づけ、職場環境改善に取り組み。
- 親会社の取組みに合わせ対策を実施するとともに、「コンプライアンスハンドブック」を従業員全員に配布。
- 現場のマネージャーが一次相談窓口となり、解決困難な事案は本社人事へエスカレーション。
- 従業員はボランティアではないことを利用者に理解してもらい、利用者にきちんと対応できるように従業員教育を徹底。
離職率は業界平均の約20%に対し同社は5%未満と、職場環境改善の成果が現れています。
2.C社の事例(化学製品メーカー、従業員約450人)
事業所の分散により全体周知が難しい中、社内周知に工夫し会社の本気度を示すと共に相談しやすい雰囲気を醸成。
- 社内ホームページに「ハラスメント対策ページ」を設置し、相談窓口の案内や事例紹介を掲載。
- 休憩室やトイレなど、誰もが目にする場所にポスター掲示し、企業の取組み姿勢のアピールが抑止効果に。
- 毎年提出する「自己申告シート」にハラスメントの有無も記載することで実態の把握と素早い対応が可能に。
3.B社の事例(建設業、従業員約8,500人)
「本当に必要な指導までがパワハラと誤解されてはいけない」という観点から、パワーハラスメント対策に取り組み。
- 就業規則に「ハラスメント防止条項」を定めるとともに、「ハラスメント防止に関する取扱細則」を制定し、社員全員に周知。
- 新入社員に「セクハラやパワハラに巻き込まれないためにどうするか」という研修を実施。正当に行われる限りパワハラに該当しないことの認識を徹底。
- 支店毎に男女各1名の相談担当者を置き、相談時の対応マニュアルを作成することで、安心して話ができる環境を整備。
これらの事例は、企業規模に関わらず「現場に根ざした仕組みづくり」が重要であることを示しています。
中小企業が整備すべきこと
中小企業にとって、ハラスメント対策は「人手が足りない」「制度が複雑」といった理由で後回しにされがちです。しかし、判例が示すように、対応を怠れば法的責任を問われる可能性があります。
大企業のような体制は難しくても、以下のような整備は比較的負担が少なく、実効性の高い対策となります。
・方針の明文化:就業規則に「ハラスメント禁止」を明記。顧客対応の限界も明文化することで従業員の安心感を高める。
・相談窓口の設置:外部社労士や専門機関を活用し、匿名相談を可能に。社内に設置できない場合でも委託で対応可能。
・教育研修:動画や外部セミナーで実施可能。管理職向けと一般従業員向けで内容を分けると効果的。
・顧客対応マニュアル:カスタマーハラスメントに備え、従業員が安心して対応できる行動指針を整備。
・ライフイベント支援:妊娠・育児・介護休暇取得者の地位保障を徹底。復帰後のポジションを明確化し、安心して休暇を取得できる環境を整備。
・職場風土改善:企業理念やCSR活動と結びつけることで、従業員の理解と意識を向上。
まとめ
ハラスメント撲滅月間は、企業が職場環境を見直す絶好の機会です。判例からは企業責任の重さが、企業事例からは実践的な工夫が見えてきます。中小企業でも、できることから始めることが重要です。制度と風土の両面から職場の安心を守る取り組みが、従業員の定着・信頼・生産性向上につながります。
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