賃上げトレンドと最低賃金 ~企業が今すぐ取り組むべき実務対応~

こんにちは、マネジスタ社労士事務所です。
前回は最低賃金について取り上げました。今回は高年齢者の再雇用者の賃金についてお話しをします。
はじめに
最低賃金は若年層や非正規雇用者の処遇改善に直結する一方で、企業にとっては人件費全体の見直しを迫る要因にもなります。
少子高齢化が進む中、定年後も働き続ける人材は増加していますが、賃金水準をどう設計するかは経営者にとって難しい課題です。最近の裁判例では「合理的な説明可能性」を求めているケースがあります。
最近の再雇用に関する裁判例
1.A会社の例(2024年8月)
事案:定年後に再雇用された契約社員の賃金が約6割減額は不合理として争った事案。
判決:裁判所は「職務内容の変更や地域相場を踏まえれば不合理ではない」と高年齢者雇用安定法に違反しないと判断。
ポイント:再雇用後の賃金は単なる一律減額ではなく「職務内容の変化」「市場水準」を根拠に説明できることが重要。
2.B会社の例(2023年7月)
事案:定年後に再雇用された嘱託職員の基本給・賞与が低く抑えられ、「同一労働同一賃金」に違反するとして争った事案。
判決:最高裁は「賃金の性質や支給目的を十分に検討すべき」としてこれらの点を検討していなかった原審を破棄し差戻し。
ポイント:賞与や基本給の減額は支給目的や職務内容との整合性が必要であり、単に「定年時の○%」という設定は合理性を欠き、性質や支給の目的を慎重に検討することが必要。
実務上の留意点
1.基本給の設定
・再雇用後の職務内容・責任範囲を明確化
・定年前と同じ業務なら、過度な減額はリスク
2.賞与・手当
・賞与は「成果配分」「長期勤続報酬」など支給目的を
・通勤手当など業務遂行に不可欠な手当は同一支給が原則
3.再雇用賃金の水準
・地域相場や同業他社の水準を参考に
・一律減額ではなく「職務内容・責任・成果」に応じた設定が必要
4.妥当性の説明
・就業規則や賃金規程に「再雇用賃金の決定要素」を明記
・労使間で事前に説明・合意を得ることが紛争予防に
まとめ
最低賃金の引き上げと並行して、高年齢者の再雇用賃金も企業にとって重要な課題です。裁判例が示す通り、再雇用賃金は「職務内容」「支給目的」「市場水準」といった合理的根拠をもとに設計し、説明可能性を確保することが不可欠です。
企業にとっては、就業規則や賃金規程を見直し、再雇用者への賃金決定プロセスを明文化することが、安心して高年齢者を活用する第一歩となります。
マネジスタ社労士事務所は労務に関する相談を承ります。
お困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。



