「しごとより、いのち」 ~11月は過重労働解消キャンペーン月間~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
毎年11月は「過労死等防止啓発月間」です。今回は過重労働についてお話をします。

はじめに

 働き方改革が進む一方で、長時間労働やメンタル不調による労災は年々増えています。
厚生労働省では毎年11月を「過重労働解消キャンペーン」月間と定め、全国的な活動を展開しています。本コラムでは、最新の労災動向とともに、企業として取り組むべき実務対応をわかりやすく整理します。

過重労働による労災件数の推移とトレンド

 2024年度の精神障害に関する労災認定件数は1,057件(うち自殺253件)と過去最多を更新。脳・心臓疾患に関する認定件数も221件(うち死亡59件)と増加しています。
 精神障害の労災認定は2015年頃から、脳・心臓疾患は2010年代前半から増加傾向にあり、働き方改革の進展にもかかわらず、根本的な改善には至っていません。

過重労働の背景と現状

 過重労働の背景には、以下のような事情が考えられます。

  • 慢性的な人手不足により、特定の社員に業務が集中
  • 業績重視の風土が長時間労働を是とする文化を助長
  • 管理職の労働時間管理に対する意識の不足
  • 業務の属人化や非効率な業務フロー

特に、医療・介護、運輸・物流、建設、IT・情報通信などの業種では、長時間労働が常態化しやすく、重点的な対策が求められています。

加重労働に対する企業の義務

 労災認定基準では、以下のような時間外・休日労働がある場合、業務と健康障害との関連性が強いと判断されます。

  • 発症前1か月間に月100時間超
  • 発症前2〜6か月間の平均が月80時間超

このような場合、企業には以下の対応が求められます。

  • 高ストレス者への医師による面接指導(労働安全衛生法第66条の8)
  • 労働時間の見直し、業務量の調整
  • 健康診断結果に基づく就業上の措置

企業が取り組むべき過重労働対策

 過重労働の環境を改善するには以下のような対策が考えられます。
1.労働時間の適正把握
 タイムカードやクラウド勤怠システムを活用し、残業時間を「見える化」。
紙の出勤簿だけに頼らず、客観的な記録を残すことが重要です。
2.36協定の適正な締結と周知
 過半数代表者の選出手続を明確にし、協定内容を社内掲示や朝礼で周知。
協定の上限時間を超えないよう、定期的に見直しが必要です。
3.勤務間インターバル制度の導入
 終業から次の始業までに一定時間(11時間以上)の休息を確保する制度。
導入企業には助成金もあり、従業員の健康維持に効果的です。
4.年次有給休暇の取得促進
 年5日の時季指定義務に加え、計画的付与制度(年休カレンダー)を導入し、
取得率の底上げを図りましょう。
5.ストレスチェックと職場改善
 50人未満の事業場でも2027年までに義務化予定。外部サービスを活用し、集団分析結果をもとに職場環境の改善を。
6.メンタルヘルス対策の体制整備
 管理職向け研修、相談窓口の設置、外部カウンセラーとの連携など、早期発見・対応の仕組みづくりを。

過重労働解消に向けて整備すべき社内制度

 過重労働を根本から解消するには、社内制度や規程の整備が欠かせません。
そのためには以下のような見直しが効果的です。
1.就業規則の改訂
 労働時間、休憩、休日、年休、勤務間インターバルなどの項目を明文化
2.労働時間管理規程の整備
 残業申請・承認フロー、勤怠記録の保存方法、面接指導の実施基準などを明記
3.安全衛生管理規程の強化
 ストレスチェック、産業医面談等の運用ルールを整備、実効性ある体制を構築
4.ハラスメント防止規程の策定
 相談体制、再発防止措置、プライバシー保護方針等を明記。2025年施行のカスハラ対策義務化にも備えを。

まとめ

 中小企業にとって、過重労働の放置は「人材の流出」「生産性の低下」「法令違反リスク」など、経営に直結する問題です。
11月のキャンペーンを機に、御社の労務管理体制を見直し、従業員が安心して働ける職場づくりを進めてみませんか。

「しごとより、いのち。」

このメッセージを、経営の現場に根づかせることが、持続可能な企業経営への第一歩です。

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江崎充豊
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江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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