企業の成長に必要な財務戦略 ~ROICとその活用方法~

こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
最近投稿している賃上げを更に掘り下げてお話しします。
はじめに:中小企業に迫る賃上げ圧力
10月14日に厚生労働省が発表した「賃金引上げ等の実態に関する調査」によれば、賃上げは今年も続き、中小企業にとっては人材確保と財務維持の両立がますます難しくなってきています。今回は、調査結果をもとに、賃上げの現状とその影響、実務的な対応策を整理します。
賃上げの現状
調査では、従業員100〜299人規模の企業のうち約9割が賃上げを実施しており、改定額は月額10,264円、改定率は3.6%と高水準です。
一方、100人未満の企業では賃上げ実施率は49.2%に留まりますが、改定率は平均4.7%とむしろ高めです。
これは、賃上げを実施する企業が限られている分、実施企業では比較的大胆な改定が行われていることを示唆しています。また、100人以上の企業で賃上げが常態化していることを踏まえると、100人未満の企業にも「賃上げ圧力」が今後さらに強まる可能性が高いといえます。
財務への影響:20人規模企業で利益率はどう変わるか?
改定率4.7%を前提に、月額賃金22万円の従業員に対して賃上げを行うと、月額の賃金増は約10,000円。これに企業負担の社会保険料(約15%)を加味すると、1人あたり月額約11,500円、年間で約13.8万円の人件費増となります。
従業員20人規模の企業であれば、年間で約276万円の人件費増となり、売上高2億円・営業利益率5%(1,000万円)の企業では、利益の約28%が人件費増で消える計算です。
つまり、営業利益率は5% → 3.6%と▲1.4ポイント低下する可能性があり、価格転嫁が難しい業種では資金繰りに直結する深刻な問題です。
労務面の対策:業績評価型へのシフトが進む
調査では、定期昇給制度を持つ企業のうち72.4%が業績評価などに基づく昇給制度を採用しており、年功的な自動昇給(27.5%)を大きく上回っています。
これは、賃上げを「成果連動型」にすることで、コストと納得性のバランスを取ろうとする動きです。
そのような動きを踏まえた主な対策は次のとおりです。
・昇給ルールの見直し
年功的な昇給から業績・貢献度に応じた昇給基準へ移行し、評価の透明性を高める
・評価制度の簡素化と定着
複雑な評価体系ではなく、行動指針や成果指標に基づくシンプルな制度設計へ見直し
・非金銭的報酬の強化
柔軟な勤務体系、スキルアップ支援、社内表彰などでモチベーションを補完
・役割・責任に応じた処遇の検討
「職務給」や「ジョブ型人事制度」は日本ではまだ一般的ではないが、職種別に人材確保が難しい業界では今後検討の余地がある制度
財務面の対策:利益から売上へと逆算する発想
まずは、人件費上昇によるコスト増を他の支出(販管費・間接コストなど)を抑えることで吸収し、利益率の維持を目指すことが重要です。
人材確保が難しい現状では、売上拡大に割けるマンパワーは不足しがちです。ですので「売上から利益」を考えるのではなく、まずは土台となる利益や業務体制を固めてから業容拡大を目指す「利益から売上」を考える方が現実的です。
主な対応策は次の通りです。
・人件費の中期計画を策定
昇給・賞与・社保負担を含めた3〜5年の人件費予測を立て、資金繰りに備える
・業務効率化とDX投資
人件費増を吸収するための業務改善やIT活用を推進
・価格戦略と販売戦略の再構築
付加価値の創出やターゲットエリア選定などによる業容拡大
まとめ
現在の状況では人件費増は不可避であり、賃上げは「今後の投資」と見方を変える必要があります。そのためには、現状の収支状況を把握した上で昇給ルールや評価制度、業務内容を見直し、財務・労務の両面から対策を講じることが不可欠です。
そして、こうした制度設計や収支計画は専門家と相談しながら進めることで、より実効性の高い対応が可能になります。人材確保と企業の持続的成長のために、戦略的な一手を打つタイミングとも言えます。
マネジスタ社労士事務所では財務、労務に関する相談を承ります。
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