労務リスクの財務インパクト ~事例に見る「見える費用」と「見えない費用」~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
前々回、前回と人件費についてお話をしました。今回は労務リスクが財務に与える影響についてお話します。

はじめに:労務トラブルは「突発的な損失」

 中小企業にとって、労務トラブルは人事だけの問題ではなく財務に影響するリスクです。未払い残業代、不当解雇、ハラスメント対応などは、直接的な支出だけでなく企業の信用・生産性にも影響を及ぼします。
 多くの企業では、労務トラブルを「起こらない前提」で予算化しているため、いざ発生すると「突発的な損失」として財務に影響を与えます。今回は、最近の事例をもとに、労務リスクの財務的インパクトを具体的に見ていきます。

最近の事例に見る対応費用

 以下は、2023〜2025年にかけて報道や実務で確認された労務トラブル事例と、企業側が負担した費用の目安です。

内容事例企業側の対応費用(概算)
残業代請求元社員が未払残業代120万円を請求。労働審判で180万円で和解。約220万円
不当解雇勤続15年の社員が解雇無効を主張。退職金相当+慰謝料で和解。約320万円
労働審判退職勧奨をめぐる訴訟。裁判で330万円の支払い命令。約400万円
ハラスメント対応パワハラ事案発生。社内調査と再発防止策に加え、退職者に慰謝料支払い。約150万円

 上記のケースでは和解金・判決額は100万〜300万円ですが、複数名や長期雇用者の場合はさらに高額となります。また、和解金や判決額以外に諸費用が数十万円単位で発生します。
 なお、金額は業種や雇用期間、対応方法によって大きく異なります。

労務トラブルによる「見えない費用」とその影響

 労務トラブルは、直接費用だけでなく以下のような「見えない費用」が発生します。

・信用リスク:SNSや口コミで拡散され、採用難や取引停止に
・生産性の低下:職場の雰囲気悪化による離職・モチベーション低下

 これらのコストはすぐには財務諸表には現れません。しかし、近年のバイト社員のSNS投稿による炎上で見られる通り、企業の評判・運営に重大な影響を及ぼします。また、SNSなどで拡散されないにしても、社内の雰囲気悪化やモチベーション低下は生産性低下を招きます。

労務トラブルの予防と備え

 労務リスクの予防は、単なるコンプライアンス対応ではなく財務的な損失回避でもあります。以下のような施策は、予防的コストとして予算化する価値があります。

・就業規則の整備:残業・解雇・ハラスメントのルール明確化
・労務監査の実施:潜在リスクの整理と対策の検討
・相談窓口の設置:早期対応による訴訟、炎上の防止
 
 予防策にも費用はかかりますが、その費用は年間数十万円程度で済むことが多く、トラブル発生時の数百万円の損失と比べて費用対効果は高いといえます。

まとめ

 労務リスクは、今の財務には表れない「潜在的な財務リスク」です。
企業の事業継続や健全性を維持するには、トラブルの予防と発生時の財務的影響の可視化が必要です。「人」に関する支出とリスクを数値で捉え、いざという時にも対処できる「守りの財務戦略」を築く事も重要です。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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