「企業価値担保」は使えるのか?~制度の限界と中小企業が備えるべきこと~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:財務


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
今回は来年5月施行予定の「企業価値担保」についてお話します。

はじめに:企業価値担保制度の背景と意義

 金融機関に融資の取組を促す施策として、企業価値担保創設を織り込んだ「事業性融資の推進等に関する法律」が2024年6月に成立、2026年5月施行を予定してます。
 これは不動産等の物的担保や経営者保証に依存せず、企業の将来のキャッシュフローや事業価値に着目して融資を受けられるようにする新しい制度です。
 その背景には経営者保証依存からの脱却や、有形資産に乏しいスタートアップ・中小企業への資金供給の多様化という政策的な意味もあります。
 金融機関が企業の事業力を評価し、事業全体に担保権を設定することでより柔軟な融資を可能にすることを目指しています。

企業価値担保の概要や特徴

 企業価値担保制度は不動産などの有形担保とは異なり、企業の「価値」そのものを評価して融資判断を行う点が特徴です。
 担保権は事業全体に及ぶため経営者保証の代替としても機能し得るとされ、登記や契約手続きも比較的簡素化されるメリットがあります。
また、金融機関との伴走支援を通じ経営改善や成長支援の機会も広がると期待されています。

現時点での問題点

 しかし、現時点では運用には多くの課題があります。主な課題は以下です。
1.事業力評価の整備
 企業価値担保のベースは事業力評価ですが、自社の事業力や将来性について第三者が納得できる形で整備されている企業は極めて少ないと思います。
 また、金融機関も1社ごとの事業計画やキャッシュフローを精緻に評価する体制も整っておらず、まず双方の体制整備から始めなければいけません。

2.1行取引前提の制度設計
 制度は基本的に1行取引を前提としており、複数行取引が多い中で金融機関の集約は現実的に極めて高いハードルとなります。仮に集約できたとしても、1行の与信限度を超える融資は困難で、結果的に融資額が減額となる可能性があります。

3. 他行支援が消極的になる虞
 企業価値担保が設定されると、その他の金融機関にとっては担保価値は見込めず、追加融資や支援に消極的になる可能性があります。これは企業にとって資金調達の選択肢を狭めるリスクにもなります。

4. 金融機関のメリットが乏しい
 企業価値担保は、金融機関の会計上「一般担保」として評価されず、引当金の算定にも反映されません。そのため、不動産などの有形担保評価額以上の企業価値担保は会計上は無担保と実質同様の扱いとなり、融資判断の材料として使いづらいのが実情です。

中小企業が活用する際に整備すべきポイント

 企業価値担保を活用するには、企業側にも相応の準備と体制整備が求められます。
具体的には以下が考えられます。
・事業力評価と事業計画の精緻化と説明力の向上
 自社評価と将来キャッシュフローの蓋然性を示す資料整備と体制作りが前提
・金融機関との関係性の再検討
 1行取引への集約可否、1行取引行先のメリット・デメリットを精査
・契約・登記などの実務整備
 担保権設定による事業への影響(譲渡禁止など)の確認と準備

 これらは中小企業にとって非常に高いハードルであり、制度の趣旨に共感しても実際に活用するには金融機関と専門家の支援が不可欠です。

まとめ:制度の意義と今後への期待

 企業価値担保制度は、現時点では課題が多く、運用は容易ではありません。
しかしながら、経営者保証からの脱却や、スタートアップや成長期企業への資金供給という制度の理念には大きな意義があります。今後、制度整備が進み金融機関・企業双方の理解と体制が整えば、企業価値担保は中小企業にとって新たな資金調達の選択肢となる可能性を秘めています。
 そのためにも、今のうちから専門家と連携し制度理解と準備を進めておくことが重要です。

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江崎充豊
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江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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