銀行の常識は世間の非常識? ~【第1部】起源や成り立ちから銀行の現状を考える~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:財務


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
本業で働いている銀行は、「銀行の常識は世間の非常識」「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」など言われるなど、ネガティブなイメージが強いと思います。
 今回はその銀行について、
第1部:銀行の起源から日本の銀行の現在の課題
第2部:銀行の現状と今後
と2部構成で取り上げたいと思います。

はじめに:なぜ銀行は異質なのか?

 銀行には、他の業界と一線を画す独特の文化が根付いています。
言葉遣いや意思決定プロセスまで、銀行の常識は他業種と乖離しています。
その背景には銀行が「信用」を扱う特殊な業態であること、そして歴史的・制度的な経緯があります。
このコラムでは、銀行の起源から現在の課題までを紐解き、なぜ銀行が異質なのかを考えます。

銀行の起源:神殿から始まった信用の器

 銀行の原型は、紀元前3000年のメソポタミア文明にまで遡ります。
神殿が穀物や銀の貸借を管理し、信用の媒介として機能していたのが始まりです。
歴史を振り返ると、

  • 古代ギリシャ・ローマでは、両替商や金貸しが都市経済を支えた
  • 中世イタリアでは、フィレンツェのメディチ家が国際金融の先駆けに
  • 1694年設立のイングランド銀行が中央銀行の原型、国家信用の基盤に

日本の銀行制度の成立と制度的背景

 日本の銀行制度は、明治以後の近代化政策の一環として導入されました。
・1872年 国立銀行条例制定:渋沢栄一らが第一国立銀行(現みずほ銀行)設立
・1882年 日本銀行設立:中央銀行として通貨発行と金融調節を担う
・戦後の護送船団方式:財務省が銀行を保護し、横並びの経営体制が定着
・1980年代以降の金融自由化:規制撤廃、業務多様化が進むも慣習は根強く残存
日本の銀行は国家主導の元で発展し、規制と保護の中で独自の文化を形成してきました。

「銀行」「頭取」「Bank」の名前の由来

・「銀行」:銀本位制だった当時の日本と、中国語で市場などを表す「行」から
・「頭取」:雅楽などの「音頭取り」が由来とも
・「Bank」:イタリア語「banca(長机)」が語源。両替商が長机で業務していたことに由来

世界の銀行の時価総額ランキング(2025年8月時点)

 ここで世界の銀行の時価総額を見てみましょう。

順位銀行名時価総額(兆円)特徴
1位JPモルガン  チェース米国約65兆円200年以上の歴史を持ち世界最大級の資産規模を持つ総合金融グループ
2位中国工商銀行中国約60兆円国家の金融インフラとしての役割を持ち国有企業やインフラ融資に強み
3位バンクオブアメリカ米国約50兆円伝統的な金融サービスとテクノロジーを融合した「スマートバンキング」の先駆者
4位中国建設銀行中国約45兆円インフラ関連融資や都市開発、住宅ローンなどに強み
5位中国農業銀行中国約40兆円農村部や農業関連の融資に強みを持ち、都市部のリテール業務も展開

 上位は米中の銀行が占め、日本の銀行トップは9位の三菱UFJフィナンシャルグループ(約25兆円)と、上位とは差があります。
ちなみに、バブル期の1989年頃は1位から9位までが日本の銀行と、圧倒的な存在感を誇っていました。

銀行の文化が生まれた背景

 銀行では、以下のような独特の文化が根付いています。

  • 書類の形式や手順が目的化し、顧客利便性より組織防衛が優先
  • 「思料」「対顧」「稟議」など、銀行内でしか通じない専門用語を多用

こうした背景には、以下の要因があると思います。

  • リスク管理:責任の所在を明確化するため言葉の定義や手続が厳格化
  • 規制や監査対応:金融庁や監査法人への説明のため、文書化と専門用語が不可欠
  • 組織内の暗黙知の蓄積:長年の慣習から属人的な表現が定着
  • 閉鎖的な人事:企業文化が内向きで、「成功」より「失敗」を重視する減点評価

結果として銀行の言葉は外部に伝わりにくく、顧客との距離を生む要因となっています。

日本の銀行の状況と課題

日本の銀行は、以下のような構造的課題に直面しています。

  • 収益性の低下:収益源の貸出残高が伸び悩み、手数料収入も頭打ち
  • 地方銀行の再編:人口、企業数減少により収益確保が困難
  • フィンテックの台頭:キャッシュレス・AI融資など、非銀行業態が競合に
  • DXの遅れ:旧態依然としたシステムや文化がデジタル化の障壁に
  • 人材の硬直化:評価制度や人事異動が内向きで、若手の活躍が評価されにくい

これらの課題は単なる業務改善ではなく、銀行の存在意義や役割そのものを問い直す必要があります。

まとめ:銀行の「常識」を問い直すとき

 日本の銀行は、収益性・人材・DX化・競争環境といった複合的な課題に直面しています。
それらの根底には、「信用を守る」使命と、「変化に適応する」課題が同居しています。
 では、銀行は今後どのように変わるべきなのか?
~異業種の金融参入(GAFAM・フィンテック)、グローバルな競争環境、顧客の価値観の変化~
第2部では、銀行を取り巻く現状と他業種の参入、今後について説明します。

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江崎充豊
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江崎充豊(社会保険労務士)

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現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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