米国関税措置とその影響 ~中堅中小企業が取るべき財務・労務対策~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。
今回は米国関税措置についてお話したいと思います。

 2025年4月、アメリカ政府は「貿易赤字の拡大」を国家緊急事態と位置づけ、大統領令を発動しました。これにより、日本を含む貿易相手国に対し関税の上乗せが実施され(相互関税率上乗せは4/10から90日間適用停止)、日本の企業にも影響を及ぼしています。

米国関税措置の内容と主なポイント

 アメリカの関税措置は輸入品に対する追加関税を基本とし、特定の国や品目に対してはさらに厳しい税率が適用されています。
 主な内容は以下です。

  • 全輸入品に対し、追加関税10%を課税開始
  • 日本を含む「附属書I」指定国には税率が順次引き上げ
  • 対象品目は自動車・自動車部品、鉄鋼、医薬品、半導体など
  • 米国産素材が20%未満の製品に適用


 この措置は単なる貿易政策ではなく、アメリカの産業保護とサプライチェーン再編を目的とした戦略的な動きともいえます。

日本企業への影響

 関税措置の発動から2か月が経過し、日本企業への影響も出ている様子です。
経済産業省の統計によると、2025年5月の日本からアメリカへの輸出額は前年同月比▲11.1%と減少しました。特に自動車業界では、関税負担増加により価格競争力が低下し、販売台数の減少が続いています。

緊急対応パッケージの概要

 日本政府は、米国関税措置による影響を軽減するため、「緊急対応パッケージ」を発表しました。関税措置の影響を受ける企業に対し、資金繰り・雇用維持・事業転換の支援等を総合的に提供することを目的としています。

緊急対応パッケージの主な支援策

(1) 資金繰り支援の強化
・セーフティネット保証の要件緩和と適用拡大
・国際協力銀行(JBIC)による海外事業支援
・日本貿易保険を活用した海外子会社の資金繰り支援
(2) 雇用維持と人材育成
・雇用調整助成金の迅速化
・教育訓練休暇給付金の創設(2025年10月施行)
・教育訓練給付や中堅中小企業への訓練経費等の助成の充実
(3) 産業構造の転換と競争力強化
・半導体・蓄電池・医薬品など重点分野への投資促進
・中小企業向け補助金の優先採択(ものづくり補助金など)

 その他にも、相談体制の整備や国内消費喚起策の強化などが織り込まれております。

中堅中小企業の財務・労務への影響

 中小企業の財務・労務への影響は以下の事が考えられます。
(1)財務への影響
・売上減による資金繰り悪化
・海外子会社の資金需要増
(2)労務への影響
・減産による雇用調整
・人材流出リスク(先行き不安による離職)

中堅中小企業の財務・労務の対応策

財務の対応策

・信用保証協会(セーフティネット含む)の活用
・「ミカタプロジェクト」(*)などの事業転換支援の補助制度の活用
・JBIC融資や貿易保険の活用

(*)「ミカタプロジェクト」とは・・・
 経済産業省による自動車業界のCASE対応に向けた『見方』を示し、中堅・中小サプライヤの取組みを『味方』としてサポートする事業
ミカタプロジェクト

労務の対応策

・生産性向上に向けた人材配置や人事評価制度の見直し
・雇用調整助成金等を活用した雇用の維持や従業員のスキルアップ支援

まとめ:専門家との連携強化により様々な制度を効果的に活用

 政府が主導している措置に対して、企業単独で対応するには限界があります。
様々な制度を効果的に活用するには、関係機関や専門家とのネットワーク構築も必要になってきます。専門家との連携を強化し、安定的な経営戦略を構築していきましょう。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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