(閣議決定)「106万円の壁」撤廃で何が変わる?年金改正のポイント

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営



 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。

 5月16日、政府は年金制度改革関連法案を閣議決定、今国会での成立を目指してるようです。
この法案では短時間労働者の厚生年金加入を拡大するため、「106万円の壁」の撤廃が盛り込まれています。これにより、より多くの人が厚生年金に加入することになります。
 法案段階であり修正の可能性はありますが、影響を鑑みて今回コラムに取り上げました。

年金改正の背景

 公的年金制度は5年ごとに財政検証を実施し、将来的な持続可能性を評価しています。
そして財政検証の結果を元に、厚生労働省や社会保障審議会が年金制度改正を検討しています。
 今回の改正法案では、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化や多様な働き方を踏まえた年金制度の構築、所得再分配機能強化や私的年金制度の拡充を通じて、高齢期の生活の安定を図ることを目的としています。

改正法案の概要

 年金改正法案のうち、厚生年金に関する改正案の一部をご紹介します。

1.被用者保険の適用拡大
(1)賃金要件の撤廃
 これまで月額8.8万円(年収106万円相当)以上の賃金要件が適用されていましたが、最低賃金の上昇を考慮し撤廃されます。
(2)企業規模要件の段階的撤廃
 これまで従業員数50人超の企業が対象でしたが段階的に撤廃され、2035年度にはすべての企業が適用対象となります。
(3)個人事業所の適用拡大
 常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種(農林業、飲食サービス業等)が解消され、全ての個人事務所が被用者保険の適用事業所となります。
但し、施行時に存在する事業所は当面期限を定めず適用除外となります。

2.在職老齢年金制度の見直し
 50万円の支給停止基準額が62万円へと引き上げられます。

3.厚生年金保険の標準報酬月額の上限引上げ
 標準報酬月額の上限が、65万円から3年をかけて75万円へ段階的に引き上げられます。

4.個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の拡充
 これまで60歳までだった加入可能年齢が70歳未満へと拡大されます。

 今回の改正法案の対象者や変更内容の一部を表にまとめました。

対象者変更内容適用基準・条件影響
短時間労働者厚生年金適用拡大賃金、企業規模要件撤廃これまで対象外だった従業員も加入できるようになり、将来の年金額が増加
60歳以上の就労者在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げ収入が50万円未満→62万円未満に変更働きながら年金を受給しやすくなり、収入の安定化や働くモチベーションに
老齢基礎年金、老齢給付金を受給していない者iDeco加入年齢の引き上げ70歳未満まで加入、拠出可能働き方に関係なく誰もが長期的に老後資産を形成でき、加入者にとってシンプルで分かりやすい制度に
企業経営者・人事担当者社会保険適用拡大への対応企業規模要件撤廃により、従業員数に関係なく適用保険料負担の増加を考慮した経営戦略が必要

企業の注意点

 企業は以下の点に注意し、適切な対応を取る必要があります。
1.社会保険適用拡大への対応
(1)保険料負担の増加
 厚生年金の適用対象となる従業員が増える可能性があるため、保険料負担の増加を考慮した経営戦略が求められます。
(2)給与体系の見直し
 社会保険料の負担増を考慮し、従業員の給与体系を調整する必要があります。

2.従業員への情報提供
 従業員の収入や働き方に影響を与えるため、適切な説明を行うことが重要です。

3.福利厚生の見直し
(1)企業型年金との組み合わせの再検討
 iDeCoの加入可能年齢の拡充に伴い、企業型年金との組み合わせや従業員の資産形成を支援する施策を検討することが求められます。
(2)退職金制度の見直し
 年金制度の変更に伴い、退職金制度など従業員の老後資産形成を支援する施策を検討することが重要です。

まとめ

 年金制度の改正は、働く人々の将来の生活を左右する重要な改正となります。企業にとっても、従業員の福利厚生や雇用戦略を見直す契機となり、適切な対応が求められます。特に、厚生年金の適用拡大や在職老齢年金の見直しは、雇用形態や就業環境に直接影響を与えるため、早めの対策が必要です。
 また、iDeCoの拡充や標準報酬月額の引き上げにより、従業員の将来の資産形成の選択肢も広がります。改正の内容を正しく理解し、最適な対応を進めていきましょう。

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江崎充豊
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江崎充豊(社会保険労務士)

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現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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