【M&Aで企業価値を高める】3.資金調達しレバレッジを利かす

「後継者が親族にいない。従業員に継いでほしい気持ちはあるが、本当にできるのか不安だ。M&Aも選択肢にはなるが、全く知らない会社に譲るのは怖い。」
こうした悩みをお持ちの中小企業の経営者が、年々増えているという印象を受けています。どちらか一方にすぐに決断できればいいのですが、それぞれに不安・懸念があり、「決めきれないまま時間だけが過ぎていく」という状況に陥りがちです。
このコラムでは、そんな経営者の方々に向けて、「どちらか迷っているうちにできること」と「実際の進め方」をお伝えします。
なぜ迷うのか ─ それぞれの懸念を整理する
従業員承継に対する懸念
「候補となる社員はいないわけではない。しかし、本当に後を任せられるのか」という不安の声をよくお聞きします。具体的には以下のような内容です。
・営業が苦手で、売上を維持できるか不安
・技術・業務の把握は問題ないが、経営者としての判断力・リーダーシップが未知数
・株式を譲るにあたって、相手の資金力に懸念がある
・そもそも本人がやりたいのかどうか、意思を確認できていない
M&Aに対する懸念
「知らない会社に事業を渡すのはどうしても抵抗がある」という声も根強くあります。
・買い手企業の経営方針・文化が全くわからない
・顧客との関係が続くのか、既存取引が失われないか心配
・従業員の処遇はどうなるのか
・引き継ぎ作業が煩雑で大変そう
・そもそも買い手が着くのか
いずれの懸念も、「情報が少ないがゆえの不安」が大きく占めています。実際に動いてみると解消できるものも多いのですが、「決断してから動く」という思い込みが、かえって行動を遅らせてしまっています。
お勧めする進め方 ─ 「どちらか決めてから」ではなく「並行して探索する」
結論からお伝えすると、従業員承継とM&Aはどちらか一方だけを検討する必要はありません。むしろ、両方を同時進行で探索することが、最終的な意思決定の質を高めることにつながります。
具体的な進め方は以下のとおりです。
ステップ1:自社の現状を「見える化」する
どちらの手段を選ぶにせよ、まず必要なのは自社の経営状態の把握です。
・会社の財務状況(借入、資産、利益水準)
・株価の試算(非上場株式の概算評価)
・後継者候補となり得る人材の有無と能力の現状評価
・承継に関わるタイムライン(現経営者の引退希望時期)
これらを整理することで、「従業員に株式を引き継ぐ場合に資金面でどのような手当てが必要か」「M&Aに向けた企業価値はどれくらいか」という両方の視点から現状を把握できます。
ステップ2:後継者候補の社員に「打診」してみる
多くの経営者が「本人の意思がわからない」とおっしゃいます。しかし、意思を確認しないことには何も前に進みません。
後継者候補への打診は、いきなり「会社を継いでほしい」と伝える必要はありません。
「将来の会社のあり方について話し合いたい」
「これからの経営を一緒に考える立場になってほしい」
というアプローチから始め、相手の反応を見ながら段階的に意図を伝えていくことが現実的です。打診をしてみて、初めて相手の意欲・能力・覚悟がわかってきます。 「やりたい」という意思が確認できれば、技量や資金の問題は手段で解決できることも多いのです。(以下のコラムでも記載しています。https://mbp-japan.com/kanagawa/makeitwork01/column/5223472/)
打診の結果、候補者が乗り気でなかった場合には、M&Aへのウエイトを高めるという判断も自然にできます。
ステップ3:M&Aの「相場観」を知るために情報収集をする
M&Aに対して「全くわからない」「怖い」という印象をお持ちの経営者も多いのですが、まず情報収集をするだけなら、何かを決める必要はありません。
中小企業のM&Aでは、近年は事業承継・引継ぎ支援センター等公的支援機関やマッチングプラットフォーム・M&A支援機関の整備が進んでおり、相談だけであれば費用がかかないケースも増えています。経営者自身がM&Aの全体像・相場・プロセスを理解することで、「怖い」という感情を「判断できる材料」に変えることができます。
また、相手企業の選定や交渉においては、以下のような条件を付けることも可能です。
・従業員の雇用継続を条件とする
・事業の継続性・取引先との関係維持を契約に盛り込む
・引き継ぎ期間を十分に設ける
「全く知らない企業に丸投げ」ではなく、「条件を明示して選ぶプロセス」がM&Aです。実際に情報を集めてみると、想像よりも経営者の意向が反映できることに気づく方が多くいらっしゃいます。
ステップ4:両方を比較した上で、優先順位を決める
ステップ1〜3を経ることで、次のような材料が揃ってきます。
・従業員候補の意欲と能力の実態
・従業員承継に必要な株価・資金の概算
・M&Aとした場合の想定売却額や条件の感触
これらを比較・検討した上で、「どちらを本命にするか」「両方を並行して進めるか」を決めるのが現実的な流れです。どちらか一方に絞ることで、より具体的な準備と交渉に入れます。
迷っている間に、時間だけが過ぎていく
事業承継の最大のリスクは、「決めきれないまま経営者が高齢になること」です。
後継者候補の従業員も年齢を重ねます。M&Aの相手企業の条件も変わります。そして、何より経営者自身の体力・判断力も時間と共に変化します。
「どちらにしようか」と悩み続けることに、時間を使いすぎないでください。両方を同時に探索し始めることが、最も賢明なスタートの切り方です。
まとめ
従業員承継かM&Aかで迷っている経営者の方へ、進め方のポイントをまとめると次のとおりです。
・「どちらか決めてから動く」のではなく、「並行して探索する」という発想に切り替える
・まず自社の見える化(財務・株価・後継者候補・タイムライン)を行う
・後継者候補の社員には段階的に打診し、意欲・意思を確認する
・M&Aについては、まず情報収集と相場観の把握から始める(決断は不要)
・両方の材料が揃った段階で、比較・優先順位付けを行う
従業員承継にもM&Aにも、それぞれに解決できる手段があります。大切なのは、「まず動き出すこと」です。
どちらの方向で進めるにせよ、早い段階から専門家とともに方向性を整理していくことをお勧めします。


