お金の不安は“理解していない部分”のサイン——だから不安は悪くない (継ぐ人のための、数字と向き合う経営ノート:第10回)
M&Aで会社が「売れた」「買えた」と聞くと、つい“ゴール”のように思われがちです。しかし、本当の勝負はそのあと──PMI(Post Merger Integration)=統合後の経営再構築にあります。このフェーズでつまずく中小企業を、私は数多く見てきました。今回は、M&A後の現場で起こる変化と、その乗り越え方を「数字と対話」の観点からお話しします。
統合後の“静かな崩壊”
買収直後は、どの企業も一時的に数字が悪化します。新旧の社長の方針の違い、社員の不安、仕組みの混乱。決して“失敗した”わけではなく、“立て直す前の揺れ”です。ところが、ここで数字の変化を「モニタリング」できていないと、現場では何が起きているのか誰も掴めなくなります。やがて人が辞め、顧客が離れ、静かに会社が崩れていく。この“見えない崩壊”こそ、PMIで最も恐い現象です。
「数字の会話」が安心を生む
PMIでは、買い手と現場社員が初めて一つのテーブルに座ります。ここで重要なのが「数字を共通言語にすること」です。営業利益ではなく、「どの取引先で」「どのコストが」「どう変化したか」を同じシートで共有しながら話す。感情や立場の違いがあっても、数字を挟むことで対話が冷静になります。私はこれを「数字で語るマネジメント」と呼んでおり、BSC(ビジネスストレングスコーチング)では毎月の試算表を軸に、
新旧メンバーが一緒に会社の“筋力測定”を行います。
PMIを支えるのは“仕組み”ではなく“習慣”
M&A後の混乱を収める仕組みを導入しても、結局は“数字を一緒に見る習慣”がなければ機能しません。たとえば、在庫の棚卸を一緒に行う、
資金繰り表を毎週更新する──そうした小さな共同行為が、「この会社は新しい体制でもちゃんと見えている」という信頼を作ります。再生・PMIの現場で成果を出す会社は、例外なく“数字で会話する文化”を育てています。
PMIを「再生の第二章」としてとらえる
買収後は、単なる“統合”ではなく“再出発”です。前オーナーが築いた会社の強みと、新オーナーの戦略をつなぎ直す──その橋渡しの時間こそ、再生の第二章といえます。数字が整うことで、社員が納得し、顧客との関係も再び安定します。BSCはこのフェーズでも「現場が数字を語れる状態」をつくるための、中小企業向けPMI支援の土台になっています。
まとめ
M&Aの成功とは、“売れた”でも“買えた”でもありません。「統合後に現場が動き続けている」――そこにこそ本当の価値があります。
平岡商店では、統合後の混乱期に「数字と対話」で現場を支えるPMIコーチング支援を行っています。事業を引き継いだ後の安定化、社員との信頼づくりに課題を感じる方は、ぜひ一度ご相談ください。



