在庫管理と経営者の“見る力”——数字に出ない違和感を捉える【信頼を生む在庫管理:小さな習慣が会社を変える④】
M&Aの世界では「売れない会社」「買い手がつかない案件」という言葉をよく耳にします。しかし私は現場で、多くの“売れない会社”が実は「まだ磨かれていないだけの会社」だと感じています。財務や現場を少し整えるだけで、会社の見え方も、社員の意識も変わる。今日は、その「再生型M&A」という視点から考えてみたいと思います。
「売れない」理由は“業績”ではなく“見え方”
プラットフォームに掲載されている多くの中小企業案件には、「黒字化直前」「数年連続赤字」といった説明が並びます。数字だけを見れば、買い手がためらうのも当然です。しかし、その数字の裏には、「在庫の圧縮でキャッシュが増える」「価格改定で粗利が戻る」といった改善余地が眠っています。それを見える形に整理して伝える――そのプロセスを経ずに“売り”に出してしまうと、会社は必要以上に低く評価されてしまいます。
“磨き上げ”が価値を変える
私が支援したある製造業の例では、在庫を3割減らし、帳簿と実在のズレを解消したことで、キャッシュフローが改善し、翌期に黒字化しました。もともとM&Aプラットフォームに掲載されていた案件でしたが、数字の見せ方を整えただけで、買い手候補が現れたのです。“会社を売る”というより、“会社を整える”ことが目的だった。結果的に社員の意識も変わり、今では自社内で新規投資を進めるまでになりました。
再生型M&Aは「出口」ではなく「通過点」
再生型M&Aとは、会社を立て直す過程で「承継」や「統合」を選択肢に入れていく考え方です。経営再建の延長線上にM&Aを置くことで、
社内の人材や取引先との信頼を損なわずに、次の担い手へバトンを渡せます。再生を経て“筋力のついた会社”は、買い手にとっても安心して引き継げる対象になります。
対話と数字が再生を導く
再生には特別な技術が必要なわけではありません。必要なのは、社長・社員・支援者が「数字を共通言語として話し合う時間」です。私はこの“数字で対話する経営”を、ビジネスストレングスコーチング(BSC)という手法で体系化しています。試算表を毎月見ながら、「この数字の裏に何があるのか」「次にどんな行動を取るか」を一緒に考える。その積み重ねが、会社を“売れる”ではなく“生き続ける”会社に変えていきます。
まとめ
M&Aは「終わりの選択」ではなく、「次の成長の準備期間」として活かすことができます。“売れない会社”こそ、再生の余地があり、伸びしろがあります。平岡商店では、試算表・資金繰り・在庫といった日常の数字を見直しながら、会社の筋力を取り戻すための「再生型コーチング支援」を行っています。
事業承継やM&Aの前に、「まず整える」ことから始めてみませんか。



