親と自分、税理士のやり方——三つの視点をつなぐ「守破離」 (継ぐ人のための 、数字と向き合う経営ノート:第2回)
「崖」という言葉の本当の意味
「2025年の崖」とは、経済産業省が警鐘を鳴らすDX(デジタル化)遅れによる経営リスクのこと。しかし、私が日々伴走している家族経営の現場では、「DX」と聞くと多くの経営者がこう言います。
「うちはITが苦手でね」「高いシステムは要らない」
けれど本当の問題は、“ツールの有無”ではありません。多くの中小企業でDX化が進まない最大の理由は――「言葉が整っていないこと」。
DXの前に立ちはだかる「デジタイゼーションの壁」
経済産業省が定義するDXには、段階があります。
1,デジタイゼーション(紙やアナログ情報をデジタル化する段階)
2,デジタライゼーション(業務プロセスをデジタル前提に再設計する段階)
3,デジタルトランスフォーメーション(DX)(ビジネスモデル全体を変革する段階)
多くの家族経営は、この最初の段階――デジタイゼーションでつまずきます。なぜなら、社内の言葉が統一されていないからです。
たとえば、同じ“売上”という言葉でも、
・経営者は「入金ベース」
・経理は「請求ベース」
・現場は「出荷ベース」
というように、同じ言葉でも意味が違う。これでは、どれだけシステムを導入してもデータは噛み合いません。
まず整えるべきは「社内の言葉」
DX化を成功させる第一歩は、社内の呼び名をそろえることです。言葉を整えることで、デジタイゼーション(デジタル化の下ごしらえ)が機能し始めます。これは技術ではなく、文化の整備です。
家族経営こそ「数字で話す文化」を
家族経営の強みは“信頼”。しかし、強い信頼があるからこそ、「言葉にしなくても通じる」と思い込みやすい。経営者・奥様・後継者・スタッフ、それぞれが違う基準で動いてしまうと、“数字の話が感情の話”になってしまう。「なんでこの数字なの?」「前より悪いじゃないか!」という会話を、「どのデータを基準にしていますか?」と置き換えるだけで、空気は変わります。
未経験でも始められる──3階建てで考えるDX
平岡商店では、会社を“三階建て”にたとえています。
1階:現場 → 日々の仕事(分・本・件)
2階:管理 → 結果を見える化(個・%)
3階:経営 → 判断と投資(円)
家族経営でありがちなのは、1階と3階が直通していて、2階(管理層)が抜けていること。この2階=“デジタイゼーション”を整えるのが、まさに崖を越える要です。
チェックリストで「崖の位置」を見える化する
「2025年の崖を越えるための実践チェックリスト」で、以下のような観点を点検できます。
・月次試算表を経営者自身が見ているか?
・会計・販売データをつなげて管理しているか?
・現場のスタッフが数字入力の目的を理解しているか?
評価をしながら話し合うことで、会社の“どこに崖があるのか”が見えてきます。
DXの本質は「Dialogue Transformation」
DXとはDigital Transformationだけではありません。平岡商店では、「DX=Dialogue Transformation──対話の変革」と定義しています。経営の言葉を整え、数字で語り合える環境をつくること。これこそが、家族経営が崖を越える最初の一歩です。
まとめ:「崖」は終わりではなく、始まり
崖の向こうには、新しい景色があります。「うちはITに弱い」「未経験だから」と躊躇する必要はありません。まずは“言葉を整える”ことから始めましょう。それが、家族経営が未来へ進むための一番確実なデジタル化です。



