在庫棚は現場の“声なき声”——後継者にしか聴こえないサインがある (継ぐ人のための 、数字と向き合う経営ノート:第4回)
酒問屋から地域ブランドへ、そして伴走支援の今
事業を継ぐというのは、単に「守る」ことではありません。私自身が経験した事業承継は、むしろ「広げる」ことの連続でした。
私はかつて、酒類卸売業の代表として、破綻寸前の事業を引き継ぎました。物流や営業の経験こそあれ、経営のことなど学ぶ機会もなく、突然の承継でした。さらに厳しかったのは資金繰りの危機、取引先との信頼関係の揺らぎ、社員の不安——後継者と経営者の違いを痛感しながらの経営のかじ取りは、穏やかなものではありませんでした。
そんな中で私が選んだのは、「酒にとらわれない新しい領域への挑戦」でした。酒問屋という枠を超え、食品分野へと事業を拡張し、地域にとどまらず全国へとマーケットを広げる。その象徴的な取り組みが地域ブランドの開発と流通プロジェクトへの参加です。
このプロジェクトは、愛知県岡崎市で始まった地域ブランドの創出をきっかけに、日本をかつての「藩」単位で捉え直し、地域の歴史や文化を現代の感性で商品化する取り組みです。私は広島の安芸地方のブランドを立ち上げ、各地のメンバーとともに全国発信に参画しました。
地域の歴史、素材、こだわりを活かした商品を統一ブランドとして展開。既存の流通経路にとどまらず、ライフスタイルショップ、書店やカフェといった新しい販路で展開し、若い世代や都市部の消費者にも受け入れられました。こうした取り組みの一端は、たくさんの新聞、テレビなどで取り上げられるようになり、総合プロデューサーが全国各地の取り組みを紹介した著書も出版され、地域資源をどう掘り起こし、どう流通させるか——その実践例として、各地の様々な取り組みが紹介されました。
この経験は、単なる商品開発ではなく、「地域とともにある商い」の再定義でした。業種の枠を超え、地域資源を編集し、物語として届ける。事業承継とは、過去の延長線ではなく、未来へのジャンプ台であることを、私はこの経験から学びました。
さらに、ビール会社での営業、酒問屋として酒蔵、食品メーカー、農家、生産者との協業を通じて、営業支援の現場でも多くを学びました。商品の魅力をどう伝えるか、どんな販路であれば継続的に売れるか——現場での試行錯誤は、現在の支援活動にも深く活きています。
現在の私は、平岡商店として小規模事業者向けの伴走支援コンサルタントを行っています。酒や食品の流通にとどまらず、事業再建の現場で培ったノウハウを活かし、地域資源を“細く長く”市場に届けるための流通設計支援を行っています。
机上の理論ではなく、再建の現場で培った“実感”に根ざしています。事業者の「想い」と「現場感覚」に寄り添いながら、数字と物語の両面から支援することを大切にしています。
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現在、朝日新聞マイベストプロのページでは、事業承継や流通改善、地域資源の活かし方に関する無料相談を受け付けています。後継者として悩んでいる方、地域資源を活かした商いを始めたい方、現場の混乱を整理したい方——まずはお気軽にご相談ください。
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事業承継は、受け継ぐだけでなく、広げていくこと。地域とともに新しい価値を創ること。その一歩を踏み出す方々を、私はこれからも支えていきたいと思っています。



