未経験者だからこそ“続ける”ことが信頼になる。日繰り表が育てる家族経営の経理の土台(家族経営の経理コーチング⑫)
家族経営のモヤモヤをワクワクにするビジネスストレングスコーチング。このコラムでは、家族経営、個人事業主さんのような小規模な事業を経営する方向けに、お金と上手に付き合うコツをお伝えしていきます。専門用語を減らして出来るだけ分かりやすく、仕事のすき間時間などに読んでいただけるよう、連載形式で掲載します。
いま現在「お金がない」、「いつもギリギリ」、「見通しが立たない」、「とにかく数字が苦手」といった課題がある方、経営に携わっている方、これから起業や事業承継を考えている方、迷っている方、「今さら聞けない」といった方にもお勧めします。
補足)資金調達、投資、補助金、助成金、節税等といった話とは異なり、家族経営、個人事業の方が商いを長く続けていくための豆知識、コツをお伝えしていきたいと思っています。予めご了承ください。
”三つの『る』”で見える化する、お金の流れ(前回のおさらい)
第二回では、お金を回すとはどういうことでしょうか?また具体的には何をすることでしょうか?といったテーマでお話ししました。入金(はいる)、出金(でる)、残高(のこる)を記録することで、お金の動きが見えるようになる、と前回のコラムでご紹介しました。毎日の資金の動きを記録する意味で「日繰り表」と言います。
資金繰りが苦しいといった課題を感じている家族経営の経営者、経理の方にまずお勧めしたいことは、「どう苦しいか?」を見える化することだとも補足しましたね。資金繰りの状況や苦しさは事業者さんによっても異なりますが、家族経営の事業者さんがお金と上手に付き合うための基本であることを知っておいてください。
家族経営のお金の課題を解消する日繰り表の効果
さて、三回目の今日はお金の流れを把握することで得られる効果についてお話しします。たったそれだけでできるの?と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、日繰り表を記録し運用することで家族経営のお金の課題や悩みを解消する大きなきっかけになることを知っていただければ幸いです。
①現在残高の把握(今を知る)
日繰り表の一つめの効果は「現在の現預金残高が把握できる」ということです。家族のお金、会社のお金が混在し、ちょっとした経営の変化によって残高が変動しギリギリの資金繰りになったり、先行きが不安になったりする方も多いことと思います。そんな中で、いくらお金があるのか?を常に正確に把握できることは、次の一手を判断するための重要な材料と言えるでしょう。「どんぶり勘定」が多い家族経営の場合は、公私両面で複数の口座の残高を把握しなければならない事もあるかと思います。
②月末残高の予想(未来を描く)
日繰り表の二つめの効果は「資金繰りの先行きが予想できる」ということです。資金繰りは単に記録をつけるためにあるのではなく、先々の入金、出金、残高を予想することが目的ですね。具体的な手法は後編で述べますが、現在残高を把握した後は、今月の「はいる」「でる」「のこる」を予想していくことで月末の残高がどれくらいになるか?具体的に描けるようになるはずです。目先の資金繰りに追われて余裕がないといった相談を受けることがありますが、ここまでお話しした二つのことを把握できていないことで根本的な解決に結びつかないのです。
③差異解消策の決定(次の一手が決まる)
日繰り表の三つめの効果は「次の一手(行動)が決まる」ということです。なぜ、現在残高と先行きを把握すると次の行動が決まるのでしょう。実際に日繰り表を作った後に行うコーチングでご提示する質問を挙げておきます。
:現在残高は正しく把握されていますか?
:残高が少ない日はありませんか?
:目標を達成するために何をしますか?
資金繰りが苦しい会社、いつもギリギリの会社なら、残高が少なかったり、マイナスになることが予想されると思います。日繰り表を作成し予想をたててみると、いつまでに何をすれば資金不足が回避されるか?はっきりしてきますね。資金不足を回避するために何を始めるのか?、何を辞めるのか?、何を続けるのか?あとは決断と行動あるのみです。結果は誰にも予想できませんが、経営者にとって最も不安なのは「どこから手をつけたらよいか?」判断がつけられない時ではないでしょうか?。日繰り表を作成することで、いつまでに、何をするのか?目標と行動が決まったら、後はやるだけですね。
【目標設定と意思決定】家族経営に役立つ日繰り表の活用法
日繰り表(”三つの『る』”)でお金の流れが正確に把握できていれば、最短・最小の労力で資金不足を回避できる可能性が高まります、また、日繰り表を継続することでお金の流れを正しく把握し、資金繰りを安定化し、少しずつ残高が増えていくのです。
地図アプリを思い出してください。現在値を正しく認識させ、目的地を正確に設定すれば、最適なルートを提案しますね。お金と上手に付き合うコツはまさにカーナビやグーグルマップを使いこなすのと同じことだと思います。
資金繰りも、地図のようにルートが明確になることで初めて安心して進められます。地味な作業ですが、日常的にお金の動きを把握することで家族経営の目標を設定し、意思決定につなげる羅針盤にもなりうることを知っていただければ幸いです。
最期の伴走
日繰り表を運用することは地味で手間のかかることだと思います。実際にやってみると大変なのは分かります。それでも私が”三つの『る』”にこだわるのは苦い経験が理由です。前職時代のお取引先の最期をたくさん見てきました。倒産、破産に至った会社の多くは、次の二点が理解できないまま雪崩を打つように潰れていきました。
いまいくらお金があるのか?
今月末の見通しは立っているか? です。
何十年も続いてきたご商売もあっという間でした。問屋への支払いが滞ったら最後。銀行もクレジットカード会社も貸してくれません。お店のお金は底をつき、家賃や光熱費を支払うお金さえも残っていません。夜逃げ同然で最期を迎えるお店もありました。
赤字でも会社は潰れません。年金を元手に取引先に迷惑をかけないように細々と生業を続ける家族経営も知っています。ですが、資金が不足しては続けたくても続けられません。支払いが少し遅れているかな?と気が付いた時にはすでに遅し。もう打つ手がなく、これ以上支払いを待つこともできません。断腸の思いでお取引を辞退し廃業を促したことを思い出します。その時の空気は今でも忘れられません。悔しさと無力感が混じるような時間でした。
【小さな一歩を】未来につながる日繰り表
日繰り表を記録・運用することは、たしかに地味で手間のかかる作業かもしれません。 けれども、それが未来の安心につながる第一歩です。いま、いくらあるのか。月末に、どれだけ残るのか。 たったこの二つがわかるだけで、お金への向き合い方が大きく変わります。商いを続け、地域に貢献し、家族や社員の夢を育てたい。そんな願いを叶えるためにも、まずは”三つの『る』”を始めてみませんか?小さな積み重ねが、大きな安心につながる。 このコラムが、そんな第一歩のお手伝いになれば嬉しいです。
次回は、数字が苦手でも大丈夫!日繰り表を簡単、効果的に運用するコツをお伝えします。
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