初期投資が少なくて済む訪問介護サービス

猪野由紀夫

猪野由紀夫

テーマ:介護

概要


訪問介護サービスは、デイサービスなどのように、利用者を受け入れるための施設や設備を用意する必要がないので初期投資が少なくてすみます。とはいえ、サービスの提供した日から介護報酬が入るまでは2カ月のスパンがあります。そのため、開業のためにはある程度の資金が必要になります。内容を見ていきましょう。

本文


<訪問介護サービスの事業所数など>
はじめに訪問介護の事業所数など厚生労働省の調査結果を見てみましょう。数字が多くなりますが、訪問介護サービスの必要性が高いことがわかります。 

「平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況」によれば、介護サービスの事業所数は、訪問介護が35,311事業所、通所介護が23,597事業所となっています。
平成20年の調査を見ると、訪問介護が20,885事業所、通所介護が22,366事業所。訪問介護の事業所数は10年で大幅に増えたことになります。

一方、「介護保険事業状況報告」(平成30年7月暫定版)によると、在宅で介護または要支援者向けの介護予防サービスを受けた人は371.2万人、施設に入所してサービスを受けた人は93.9万人となっています。
また、要介護(要支援)認定者数は約653万人、そのうち男性が約205万人、女性が約447万人となっています。

そして、団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年には、介護職員が34万人不足するという推計も出されています。

<訪問介護立ち上げにかかる資金>
訪問介護は利用者の自宅を訪問して介護サービスを提供します。そのため、デイサービスなどのように利用者を受け入れるスペースやリハビリ器具などを揃える必要はありません。

そのため、設立資金がかからなくてすみますが、ある程度の費用を見込んでおく必要があります。

事務所費、人件費、人材確保のための求人費、開業を知らせるチラシなどの広告費、移動に使う車(あるいは、バイク、自転車)など、開業に際し必要になる費用は少なくはありません。一概には言えませんが、少なくとも500万円以上の資金は必要になるでしょう。

開業に際してまず問題になるのは、事業所をどこにするかです。利用者が見込める住宅地から離れた場所は家賃が安くなりますが、スタッフの移動に時間がかかります。移動に時間をとられると訪問の効率が悪くなり、それは事務所の収入に直接結びつきます。事業所の場所については、家賃だけではなく、訪問効率を併せて考える必要があります。

また、開業に際し重要になるのが、介護報酬が入るまでをどうするかということです。訪問介護で提供したサービスの対価は、1割が利用者負担、残り9割は国保連合会に請求することになりますが、国保連合会から介護報酬を受け取るまでには約2カ月かかります。その間の人件費(スタッフへの給料分)を用意しておかなければなりません。

もちろん、開業前にスタッフを確保しておかなければなりません。インターネットの求人サイトに募集広告を出すなど、求人費用も考えておく必要があります。

また、事業所を開いたことを知らせるチラシなど広告費用も考えておきましょう。訪問介護は多くの方が求めるものですが、黙っていても利用者が集まるということはありません。事業所の広告は開業にあたってとても大切なことです。

さらに、移動に車を使うのであれば、事務所の近くに駐車場を確保することも考える必要があるでしょう。
ただ、フランチャイズのデイサービスの開業資金を見ると、開業資金が少ないケースで750万円~、一般的には1000万円~1500万円という提示が多く見られます。

これに比べ、訪問介護サービスは初期投資が少なくてすむ事業と言うことができます。

<開業資金と人件費率>
事業を始め、安定的に運営していくために考えなければならないのが「人件費率」です。事業所の収入に対し人件費が何%であるかということです。計算式は「人件費率=人件費÷売上」で求めることができます。

介護事業においての人件費率は、一般的に訪問系で74%、デイサービスなど通所系で57%、老人ホームなど施設系で58%と言われています。通所系、施設系では設備にお金がかかる分、人件費率が低くなるということです。

飲食業界には「FLR比率」というものがあります。FはFood(材料費)、LはLabour(人件費)、RはRental(家賃)です。そしてF(材料費)30%、L(人件費)30%、R(家賃)10%が経営を安定させる目安と言われています。

こうしたことは飲食業界では常識的なことですが、介護業界では利用者にいかに質の良いサービスを提供するかということが優先され、経営のための指標が後回しにされる傾向があります。

しかし、事業所を安定的に運営するためは必要なことですから、開業資金の調達とともにこの点についても十分検討しましょう。特に人件費率の高い訪問介護サービスにおいては重要になります。


介護それぞれ

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猪野由紀夫
専門家

猪野由紀夫(税理士)

DCC株式会社

長年の税理士と人事の経験を基に、障害者福祉事業の起業から指定申請、採用教育まで一貫した経営コンサルティングを提供しています。融資や介護ロボットの導入に関する補助金等の申請代行も積極的に行っています。

猪野由紀夫プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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