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ウェルビーイング経営

谷内篤博

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 働き方改革の推進や医療費負担の削減に向けて、従業員の健康管理に積極的に取り組む企業が増えている。英語ではウェルビーイング。安寧や幸福などと訳されている。個人が身体的、精神的、社会的にも健全で良好な状態にあることを指す。
 こうしたウェルビーイングの向上に大きく貢献するものとして健康経営がある。日経新聞の「スマートワーク経営」に関する調査でも、健康経営を実践している企業の総資産利益率(ROA )は上昇する傾向にあることが指摘されている。
 健康経営はアメリカの経営心理学者であるロバート・ローゼン氏が提唱した概念で、企業の持続的成長を図る観点から、従業員の健康に配慮した経営手法を意味している。実際、欧米の企業では社内にCHO(最高健康管理責任者)などのポストを設ける例が目立つ。
 日本でも2017年に経産省が健康経営優良法人制度を設け、従業員の健康管理を経営的視点で捉えて実行している企業を顕彰している。病気の発症や重症化を予防する取り組みは医療費の削減につながるほか、先ほど紹介した日経新聞の調査のように、企業業績の向上にも寄与することが期待される。予防学的見地から健康維持や増進を図ることは、従業員のメンタルヘルス対策にもつながる。
 このような健康経営を探求していく中で、新たに生まれた概念に「ウェルビーイング経営」がある。いわば健康経営の発展型と位置付けられる。同分野の先駆的研究者である森永雄大氏によ れば、従来の健康経営とウェルビーイング経営には大きく3つの違いがあるという。
 1つ目は、従来の健康経営は喫緊の課題である疾病率の低下、増大する医療費の削減といった予防効果に重点が置かれてきた。それに対し、ウェルビーイング経営は健康のへの働きかけを通じて生産性の向上へ結びつける「促進効果の追求」に重点が置かれている。つまり、健康を維持・増進するだけでなく、それを組織としての成果、成長の手段と考えている。
 違いの2つ目は、対象者である。健康経営においては、企業は安全衛生配慮義務に基づいて従業員に定期的に健康診断を受けさせ、その結果に基づいて疾病のある従業員や発症リスクのある従業員を対象にマネジメント試みる。これに対しウェルビーイング経営は、健康経営に見られるような「健康面でリスクのある従業員に狭く関わっていく」のではなく、組織で働く従業員全体をマネジメントの対象としている。
 最後の3つ目は、主体者の違いである。健康経営においては、企業内診療所の設置や運動・健康増進のための施設の確保に象徴されるように、企業が自社の責任で従業員の健康に資する環境を整えることに主眼が置かれている。これに対し、ウェルビーイング経営は、組織が主体ではなく、個人のセルフマネジメントが原則である。従業員一人ひとりがウェルビーイングを向上させる生活習慣や働き方の実現に取り組むこととなる。マネジメントの視点に立てば、健康経営の中にウェルビーイング経営が含まれると考えがちであるが、実際には両者には明らかな違いがある。
 ウェルビーイング経営は、単に従業員の健康や安全・衛生のみを組織の成果指標とはしていない。ウェルビーングの向上を通じて、個人の成長と組織の発展を探求するマネジメント手法である点に大きな特徴がある。

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専門家

谷内篤博(大学名誉教授)

 

上場企業の人事部や大手シンクタンクで人材育成や人事制度設計に従事。人的資源管理・組織行動論を専門に大学教員として30年間研究を重ねました。理論と実践を融合させて、人と組織の活性化をサポートします。

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