職能資格制度の効用と限界
バブル経済崩壊後、多くの企業で成果主義の導入が進んでいる。しかしその一方で、三井物産、資生堂などの先進的企業で成果主義を見直す動きも見受けられる。本コラムでは、成果主義の功罪を中心に、望ましい成果主義のあり方について解説をしていきたい。
成果主義には、組織の成果志向を高める「広義の成果主義」と、個人の成果や業績を賃金と連動させる「狭義の成果主義」すなわち、報酬主義とがある。わが国における成果主義は、人件費の削減を目的とした賃金変革の手段として導入されるケースが多い。つまり、狭義の成果主義としての色彩が極めて強い点に大きな特徴がある。
こうした狭義の成果主義のメリットは、業績と賃金の連動、経営意識の高揚、個人のモチベーション向上などが挙げられる。一方、デメリットとしては、リスクを取ることを恐れ、組織の開発力やイノベーションを弱体化させる、部門間・個人間の不公平感が強まる、個人主義を助長させて組織力やチームワークを弱体化させる、部下育成を軽視するなどが挙げられる。心理学者のコーンも、報酬主義の問題点として、①報酬は罰になる、➁報酬は人間関係を破壊する、③報酬は理屈を無視する、④報酬は冒険に水をさす、⑤報酬は興味を損なわせる-の5つを指摘している。
さらに、成果主義が適合しにくい条件や環境もある。仕事の性質上、測定困難な質や技術革新を重視する場合や、労働の投入と仕事の結果との関係性が弱い場合、労働力や技術が多様で互いに不公平感がある場合などである。加えて、チームワークや協力を重視する組織文化をもつ組織においても成果主義はなじみにくい。
このような成果主義の功罪を踏まえた上で、望ましい成果主義のあり方に言及したい。まず、必要なのは成果主義の段階的導入である。組織の成果志向を高める広義の成果主義を導入し、その後に狭義の成果主義を導入する。例えば、事業部制を導入して各事業部の貢献度を明らかにし、組織の成果志向を高めることが前提条件となる。当然、事業部長の報酬は事業部の業績で決定される。広義の成果主義を導入したうえで、狭義の成果主義、すなわち報酬主義へとつなげていくやり方が強く望まれる。
次に、労働の投入と結果を公平かつ公正に評価できる制度と、目標管理制櫃度が必要となる。単に、当初設定された目標に対する成果を一律的に評価するのではなく、目標の質や仕事内容により、成果を重視するのかあるいはプロセスや取り組み姿勢・行動を重視するのかを考慮にいれた制度設計と運用が望まれる。なお、事業部制の評価については、事業特性や事業のライフサイクルなども考慮に入れた制度運用が必要不可欠になることを付言しておきたい。
さらに、従業員の適性や意思に応じた配置・異動の実現が必要である。所属する事業部や組織の特性によって業績が左右される可能性が高いため、不公平感の抑制に向け、フリーエージェント(FA)制度や人材公募制度などを導入し、適材適所の環境を整備しておくことが望ましい。
最後は、外的報酬と「内的報酬」の融合である。賃金や賞与を中心とする外的報酬に拘泥することなく、技能習得や能力開発の機会提供、プロジェクトへの参加など、満足感を生み出す内的報酬もインセンティブプランに入れておくことが強く望まれる。特に、仕事指向やプロフェッショナル指向の若年層には有効と思われる。