「遺言信託」の費用は遺産から差し引けるか?
通常よく行われる遺言としては、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。このうち、自筆証書遺言の方法や長所・欠点についてはいままで説明してきましたので、今回は公正証書遺言についての説明をしたいと思います。
公正証書遺言は、遺言者が自ら手書きしたりワープロ打ちしたりして作成するのではなく、「誰にどの財産を相続させる(遺贈する)」のかといった遺言の内容を、証人二人以上の立ち会いの下で公証人に口頭で述べ、公証人に代筆してもらう制度です。民法969条では、公正証書遺言の方式について、以下のように定めています。
1.証人二人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。
ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に
代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これ
に署名し、印を押すこと。
公証人とは、主に引退した裁判官や検察官などの法律実務家の中から法務大臣によって任命される公務員で、公正証書の作成や株式会社を設立する際に必要な定款の認証などの業務を、全国で約300か所ある公証役場で行っています。
ところで、公正証書遺言の作成は、民法上は、上記のように、遺言者が遺言の作成当日に、遺言の趣旨を口頭で公証人に告げ、公証人はそれを聞いてから筆記し、遺言者及び証人に読み聞かせるようなルールになっています。しかし実際には、あまりそのようには行われていません。
実務上は、公正証書遺言を作成する際には、遺言者本人や、遺言者から遺言の作成支援について依頼を受けた弁護士や行政書士が、あらかじめその内容を公証人と打ち合わせておいたり、ファックス等で送信しておいたりすることが通常となっています。この場合、遺言作成の当日には、まず公証人が、事前に打ち合わせた内容で作成された遺言の文面を遺言者に読み聞かせ、その後に、遺言者がその内容で間違いない旨を口頭で述べる形になります。
つまり、民法上は「口授」→「筆記」→「読み聞かせ」→「署名押印」の順序ですが、実務上は「筆記」→「読み聞かせ」→「口授」→「署名押印」となっています。そして、この点については判例で問題なしとされています。
ただし、「口授」そのものは必要とされています。「口授」とは口頭で述べることですので、たとえ遺言者に意思能力があったとしても、体が衰弱して言葉を発することができず、公証人からの読み聞かせに対して、単に首を縦に振ってうなずいたり、首を左右に振って反応したりしたような場合には、「口授」があったとはいえず、遺言は無効となります(判例)。また、口頭で返事は述べたものの、発音が不明瞭であったり、声が小さすぎて聞き取れなかったりしたような場合にも、「口授」があったとは認められない可能性があります。
なお、言語障碍などの理由により口がきけない者が公正証書遺言をする場合には、民法962条の2条に特別な規定が置かれています。この場合、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により(手話などで)申述するか、又は自書(筆談)をすることで、口授に代えなければならないとされています。また、聴覚障碍などの理由により遺言者や証人が耳の聞こえない者である場合には、公証人は、通訳人の通訳(手話など)により遺言者や証人に伝えて、読み聞かせに代えることができるとされています。そして、この方式に従って公正証書遺言を作ったときは、公証人は、その旨をその証書に付記しなければならないとされています。
したがって、意思能力はあるが「口授」が困難な方が遺言をする場合には、最初からこの制度を利用する方法もあります。もっとも、普段手話をしたことがない方が遺言を手話でするのは現実的ではありませんし、体が衰弱して口授が困難な状態のときには筆談も難しいことも考えられますので、やはり遺言は元気なうちにする方がいいといえます。