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森欣史

遺産相続の手続きと遺言書作成をサポートするプロ

森欣史(もりよしふみ)

金沢みらい共同事務所(森司法書士・行政書士事務所)

コラム

「遺言信託」の費用は遺産から差し引けるか?

遺言の失敗編

2014年7月18日

 最近は、遺言信託(いごんしんたく)という用語を、新聞や雑誌などでよく見かけるようになりましたが、この「遺言信託」には2つの意味があります。法律用語としての遺言信託とは、遺言により信託を設定することで、信託法にその規定があります。一方、日常用語としての遺言信託は、銀行や信託銀行が提供している遺言の作成・執行に関するサービスのことで、こちらは「信託」という用語を使ってはいますが、法的な「信託」とは性質が異なるものです。今回は、日常用語としての遺言信託について説明します。

 遺言信託とは、信託銀行等の金融機関が、依頼者から遺産相続に関する相談を受け、公正証書遺言の作成を支援し、その正本を保管し、遺言者の死亡後は財産の名義変更や処分などの遺言執行手続きを代行するサービスです。手続きの流れは、おおむね以下の通りです。

1.依頼者が信託銀行等に、遺産相続に関する相談をする。
2.信託銀行等の助言を受け、依頼者が公正証書遺言を作成する。その際、遺言執行者として信託銀行等を指定する。
3.作成した遺言は信託銀行等が保管し、定期的に相続人や資産の現状と遺言の内容とを照らし合わせ、必要に応じ
  て遺言の内容を見直す。
4.遺言者が死亡した場合、事前に指定した人(遺言者の配偶者や子など)が信託銀行等に死亡の通知をする。
5.信託銀行等が遺言執行者に就任し、遺産整理業務(財産目録の作成など)や遺言の執行(財産の名義変更など)
  を行う。
6.相続税の申告や、不動産の相続登記が必要な場合には、信託銀行等が相続人に税理士や司法書士を紹介する。

 遺言信託を利用する際の費用は、金融機関や契約内容により異なりますが、一般的には、最初の契約時の手数料が5万円~30万円程度、遺言書の保管料が年間5千円~1万円程度です。また、遺言者の死亡後、遺言執行の際には、遺産総額の0.3%~2%(最低100万円)程度の報酬が必要となります。

 信託銀行等が行う遺言信託のメリットは、以下の通りです。
1.公正証書遺言の作成にあたり、相談や支援を受けることができる。
2.不動産の有効活用や資産の組換えなどについても相談が可能である。
3.遺言の保管や定期的な内容の見直しなどのサービスが受けられる。
4.面倒な遺言執行手続きを代行してもらえる。
5.遺言執行者が遺言者よりも先に死亡するなどのリスクを排除できる。
6.相続人が個別に税理士や司法書士などを探す負担を軽減できる。
7.個人である弁護士や税理士に比べ、永続性の点で安心感がある。

 信託銀行等が行う遺言信託のデメリットは、以下の通りです。
1.相続争いが起きると、遺言執行を引き受けてくれない事がある。
2.子の認知など身分に関する事項については、遺言執行を行えない。
3.信頼している担当者が転勤になることもありうる。
4.公正証書遺言の原本は公証役場に保管されるのに、保管料が別途必要。
5.遺産総額が多い場合は、遺言執行の報酬が相当高額になる場合もある。
6.相続税申告での税理士報酬や相続登記での司法書士報酬は別途必要。
7.遺言執行報酬は、相続税を計算するうえで相続財産から控除できない。

 6について、不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言については、遺言の執行をするまでもなく、当該不動産の所有権は指定された相続人に帰属するという判例があります。要するに、例えば「自宅は妻に相続させる」旨の遺言がある場合には、その妻本人が自ら、または司法書士に直接依頼して相続登記をすればいいので、特に遺言執行者は必要ないことになります。

 7について、遺言執行者の指定は遺言で行うことが必要ですが、その中で、遺言者が遺言執行者に一定の報酬を支払う旨の合意をしていたとしても、遺言は遺言者の死亡後に初めて効力が生じますので、遺言執行者に対して報酬支払債務を負うのは、遺言者ではなく相続人となります。そのため、遺言者(被相続人)の債務でない以上、相続財産から控除できません(裁決)。

 ちなみに、遺言信託を盛んに宣伝している信託銀行にとってのメリットは、遺言の作成支援・保管報酬や遺言執行報酬が稼げること以外に、依頼人の資産の内容や家族構成などの情報も手に入るために、生命保険や投資信託、不動産の有効活用などの提案営業も行いやすいことがあります。そのため、遺言信託を引受けた信託銀行等が、依頼人やその相続人の利益をきちんと考えた上で、こうした提案営業をするのであれば、依頼人としても資産の運用から承継までを総合的に相談できる頼もしい存在となりますが、信託銀行等が自社の利益を優先させて、依頼人にあれもこれもとサービスを押しつけるようでは、依頼人にとっては誠に迷惑な話となります。

 したがって、遺言信託を利用する際には、単に大手であるとか、費用が他行よりも安いと言った理由で決めるのではなく、その信託銀行等の企業としての姿勢やサービスの内容などをよく吟味した上で、契約することが重要です。
 

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