遺言の文言で、「相続させる」と「遺贈する」では大違い?
遺言は、遺言者に遺言をする能力があるうちは、いつでも自由に作成することができますし、すでに作成した遺言についても、何度でも変更することができます。これを「遺言自由の原則」といいます。これとは逆に、遺言者には、「遺言をしない自由」も認められています。したがって、いったん遺言を作成しても、遺言者はいつでも自由にその遺言を撤回することができます。これを「遺言撤回の自由」といいます。
これは、遺言者が遺言を作成してから死亡するまでの間に、不動産を売却したり預金を開設・解約したりするなど、その財産の中身が入れ替わることや、遺産を譲るつもりであった人が自分よりも先に死亡したり、自分と不和になったりすることもありえるためです。このような場合に、遺言を作成したら変更や撤回ができないとすれば、それは遺言者にとって酷なためです。さらに、遺言者の最終の意思を尊重するという考え方にも基づいています。
ただし、遺言が変更あるいは撤回されたかどうかは、相続人や受遺者などの利害関係者にとっては重大な問題なので、明確に判断されないといけません。そのため、遺言を変更する場合はもちろん、撤回する場合についても、単に「遺言を撤回する」と口頭で告げたり日記に書いたりするのではだめで、きちんと民法が定める遺言の方式によって行う必要があります。もっとも、すでに作成された遺言を撤回する際には、その撤回する遺言を作成時と同じ方式で行う必要はありません。例えば、すでに作成した公正証書遺言を、あとから自筆証書遺言で撤回することも可能です。
しかし、現実には、遺言で特定の人に特定の財産を譲ると書いた場合には、それを撤回したり、対象となる財産を処分したりすることは、もはやできなくなってしまうと誤解をされている方も、意外に多いようです。遺言は遺言者が死亡して初めて効力を生じるものなので、遺言者の生前には何人もいかなる権利も取得していません。したがって、新たに別の人に財産を譲る内容の遺言を作成することも、対象となる財産を売却することも、本人が自由にすることができます。
では、遺言者が遺言の中で「最終の遺言である」旨を記載していた場合や、「自宅をAに遺贈する」という遺言を作成後に、Aとの間で遺言を撤回しないという約束をしていた場合には、どうなるでしょうか?
民法1026条では、遺言の撤回について、「遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。」と定めています。したがって、遺言者が遺言の中で「これが私の最後の遺言であるので、今後は変更や撤回はしない。以降に書いた遺言はすべて無効である」と書いたとしても、これに縛られることなく、新たに遺言を作成することができます。遺言を撤回しない約束についても同様です。つまり、遺言に「ファイナル・アンサー」はないということです。
ということは、例えば、遺言者と愛人関係になっている女性が、遺言者に、「私が死んだらマンションを遺贈する、この遺言は撤回できない」旨の遺言を書いてもらっていて、さらに、その遺言は撤回しないという念書を取付けていたとしても、その遺言は、少なくとも法律的には、いつでも撤回できるということになります。
また、遺言者の死後に遺言書が発見された場合に、それが果たして最終の遺言書であるかを確認する方法がないという実務上の問題があります。公正証書遺言であれば、公証役場に遺言の有無を確認することができますが、それ以降に作成された有効な自筆証書遺言が発見されれば、そちらの方が優先します。まして、自筆証書遺言が発見された場合には、それが本当に最終の遺言書であるかどうかを確認することは、難しいのが現実です。
したがって、特に自筆証書遺言を作成する場合は、最終の遺言がどこに保管されているかを、きちんと誰かに伝えておくなどの配慮が必要です。