遺言をする際に、利害関係者が立ち会っていたらどうなる?
遺言を撤回する遺言が、さらに撤回された場合には、どうなるのでしょうか? 元に戻って最初の遺言が復活するのでしょうか?
この点、民法1025条では「前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。」と定めています。つまり、原則として、最初の遺言は復活しないということです。
ややこしいので、下記の例で考えてみます。
・第1遺言:平成21年4月1日作成
「X不動産(実際には地番等で特定)は、Aに遺贈する。」
・第2遺言:平成23年4月1日作成
「平成21年4月1日に作成した遺言の全部を撤回する。
X不動産はBに遺贈する。」
遺言の作成日からして嘘臭い(?)という話は別にして、ここで、何らかの理由によって第2遺言が撤回されたり取り消されたりした場合に、第1遺言が復活して、Aは不動産の遺贈を受けることができるかという問題です。
○第3遺言が新たに作成された場合
例えば、「平成23年4月1日に作成した遺言の全部を撤回する。X不動産はCに遺贈する」という内容の第3遺言が、平成25年4月1日に作成されている場合には、これは撤回の問題ではなく、新たな遺言がされたということですので、第1遺言が復活する余地はありません。
○第3遺言で第2遺言が撤回された場合
では、第3遺言で「平成23年4月1日に作成した遺言の全部を撤回する」とだけ書かれていた場合ですが、これは判断が難しいです。民法1025条を当てはめて考えるのであれば、第1遺言は復活しません。しかし、一般的な感覚からすると、「第1遺言を全面撤回する第2遺言を、さらに全面撤回したのだから、これは元に戻って第1遺言を復活させるのが遺言者の意思である」と考えることもできそうです。
判例では、遺言者が「遺産の大部分を長男に相続させる」旨の第1遺言をしてから1年半後に「遺産の配分を以下の通り変更する。第1遺言は撤回する」旨の第2遺言をし、さらにその8ヶ月後に「第2遺言はすべて無効とし、第1遺言を有効とする」旨の第3遺言をした事例では、遺言者の意思が第1遺言の復活を希望することが明らかであるとして、第1遺言の復活を認めています。
ただし、この事例は、第3遺言で「第1遺言を有効とする」と明記していた場合ですので、単に「第2遺言はすべて無効とする」とだけ書いてあった場合には、第1遺言は復活しないという判断を下していた可能性もあります。
○第2遺言を遺言者が故意に破棄した場合
学説上は、「第1遺言を撤回する第2遺言を破り捨てたということは、第1遺言を復活させたいのが遺言者の意思であろう」と考えて、第1遺言の復活を認めるという見方が有力です。しかし、実際は、第2遺言が破棄されたと言うことは、通常は第1遺言しか保存されていない訳ですから、事実上は第1遺言がそのまま有効になるといえます。
○第2遺言が詐欺又は脅迫により行われたことを理由に取り消された場合
例えば、遺言者が、X不動産がAのものになることが面白くないBに騙されて、あるいは脅されて第2遺言を作成したので、あとからそれを理由に第2遺言を取り消した場合には、民法1025条のただし書きの通り第1遺言が復活します(この場合、Bは「相続(遺贈)欠格」に該当して相続権を失う可能性があります)。
○第2遺言が無効である場合
第2遺言を作成した当時は認知症が進行していて、有効な遺言をする能力がなかった場合、あるいは、第2遺言が民法の方式に沿って行われていない場合には、第2遺言は無効であり、そもそも第1遺言が撤回されていないことになるので、第1遺言が「復活」するまでもなく、最初から有効です。
このように、遺言の「撤回の撤回」は、複雑な法律関係を生じる可能性がありますので、そのような場合は、撤回ではなく新たに遺言を作成し直す方が、後日の紛争を防ぐために望ましいと言えます。。