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遺言書が破られた状態で発見されたら?

森欣史

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テーマ:遺言の失敗編

 遺言書が破損した状態で発見された場合には、その遺言の形式や破損した程度、破損に至った経緯によって、扱いが異なってきます。

 まず、公正証書遺言の場合には、原本が公証役場に保管されていますので、遺言者が保管していた公正証書遺言の正本が破られようが、捨てられようが、遺言自体の効力に影響はなく、遺言書の正本を公証役場に再発行してもらい、その遺言の内容に沿って遺産相続の手続きを行うことができます。

 一方、自筆証書遺言の場合には、まず、どのくらい破損したのかが問題となります。遺言書が焼却されて跡形もなく灰になってしまったような場合には、現実問題として、そもそも遺言が存在していたかどうかが証明できませんし、まして、その内容や有効性を証明することは通常は不可能でしょう。ただし、例外的に、相続人の一人によって破棄又は隠匿されたために自筆証書遺言を裁判手続に提出できなかった事例で、遺言者から遺言の文案作成の相談を受けた弁護士の手元に、その遺言者が自ら作成して弁護士の添削指導を受けた遺言書の草稿および封書の見本が保管されていたため、遺言者はその内容をそのまま清書して有効な自筆証書遺言を作成したことが推認できるとして、遺言の効力を認めた判例があります。

 これに対し、遺言書が破かれてはいるが、パズルのように復元すれば内容は判読できるような場合には、その遺言書が破棄された経緯が問題となります。民法第1024条の前段では「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。」と定めています。したがって、遺言者が自らの意思で自筆証書遺言を破り捨てた場合には、遺言は撤回されたとみなされます。

 なお、この条文では単に「遺言書」となっていますが、公正証書遺言の場合には、前述のように原本が公証役場に保管されていますので、遺言者が手元にある公正証書遺言の正本を破棄しても遺言を撤回したことにはならないとするのが通説・判例です。ということは、遺言者が前に作成した遺言を撤回したいと思ったら、その遺言が自筆証書遺言で原本が手元にある場合には、単にそれを破り捨てるという方法でもいいのに対して、公正証書遺言の場合には、遺言を撤回もしくは変更する旨の遺言を、民法の定める形式で行わなければならないことになります。

 ただし、撤回とみなされるのは、あくまで「遺言者」が「故意」に遺言書を破棄した場合です。したがって、例えば、遺言者が遺言を書きかえた際に、古い方の遺言を破り捨てるべきところ、誤って新しく書いた方の遺言を破ってしまった場合や、他の書類と勘違いしてうっかり遺言書を破ってしまった場合、あるいは、遺言書が他人によって破り捨てられた場合には、遺言の撤回には当たりません(なお、相続人が遺言書を意図的に破棄した場合には、「相続欠格」といって、その遺言者の遺産を相続する権利を失うことがあります)。

 しかし、現実には、遺言書が誰によって破り捨てられたのかを証明することは、なかなか難しい問題です。また、遺言は遺言者の死後に効力を生じますので、仮に遺言者本人が破り捨てたと思われる場合でも、それが「わざと」なのか「うっかり」なのかを本人に確認することもできません。

 なお、遺言書が戦後の教科書のように、部分的に墨などで塗りつぶされている場合には、どうなるのでしょうか? この場合には、まずその行為が遺言の訂正なのか、破棄なのかが問題になります。抹消が民法の定める遺言の訂正方式に沿って行われた場合には、特に問題ありませんが、そうでない場合には、抹消の箇所や程度によって判断されるようです。例えば、遺言書全体に大きく×印や斜線が引かれていたり、遺言者の署名部分が二重線で消されていたりするような場合には、遺言全体が破棄されたと考えるべきでしょう。

 ただし、やはりこのような遺言は判断が難しいですので、発見した場合には、個別に法律家に相談することをお勧めいたします。

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森欣史
専門家

森欣史(司法書士)

金沢みらい共同事務所(森司法書士・行政書士事務所)

遺産相続は時として相続人の生活や人間関係を破壊してしまうため、細心の注意を払って対応。故人との思い出や相続人同士の絆を守るため、スムーズな相続手続きと、失敗を防ぐ生前からの相続対策を指導している。

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