遺言をする際に、利害関係者が立ち会っていたらどうなる?
遺言は、作成した本人が生きているうち(遺言能力があるうち)は、何度でも作成し直すことができます。そして、本人の死後に、内容の矛盾する遺言が複数発見された場合には、最も新しい(死亡日に近い)遺言が優先します。
民法1023条では、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。」と定めています。したがって、例えば、前の遺言では「自宅は長男に相続させる」旨が書かれていて、後の遺言では「自宅は二男に相続させる」旨が書かれている場合には、双方の遺言の内容は明らかに両立しないので、後の遺言によって前の遺言は撤回されたことになり、自宅は二男が相続することになります。
では、前の遺言では「和倉温泉にある別荘はAに遺贈する」旨が書かれていたが、後の遺言では「山代温泉にある別荘はAに遺贈する」旨が書かれていたら、どうなるでしょうか? この2つの遺言は、内容的に両立できないことはありません。したがって、新旧両方の遺言を有効なものとして、その内容を実現、つまり、和倉温泉の別荘も山代温泉の別荘も、両方ともAさんに遺贈するのが、遺言を作成した人の意思であったと考えることも可能です。
しかし、遺言者の真意が、「最初は和倉温泉にある別荘を愛人のAちゃんに遺したいと思ったのだけれど、やっぱりそれはやめて、山代温泉にある別荘をあげることにしよう」ということだった場合には、問題があります。つまり、両方の別荘を与える気はなかったような場合ですね(なお、遺言が公序良俗違反でないかという問題は、ここでは無視します)。そうなると、前の遺言の内容は、後の遺言と抵触することになります。
では、前の遺言では「全財産を長男に相続させる」という内容であったところ、それから13年後に書かれた遺言では「自宅を二男に相続させる、また、自宅を除いたその他の財産については、二男は4分の1の権利を有する」というような内容の遺言を作成していた場合は、どうなるのでしょうか? この例では、文面だけを見れば、「自宅」+「その他の財産のうちの4分の1」は、後の遺言にしたがって二男が相続し、「残りの全財産」については、前の遺言がまだ有効であると考えて長男が相続するとも解釈できます。
しかし、そのように解釈することが、果たして遺言を書いた人の真意に沿っているのかという問題があります。この例では、普通に考えれば、遺言者が後の遺言を書いた時点で、前の遺言で書いた「長男に全財産を相続させる」気がすでになくなっているのは明らかです。また、仮に「残りの全財産」を長男に相続させる気がまだあるのなら、後の遺言でそのように書いておくはずです。それが書かれていない以上、前に書いた「長男に全財産を相続させる」という遺言は、後の遺言が書かれたことによって「二男に相続させる分を差し引いた『お釣りの分』はまだ生きている」と考えるよりは、「すべて撤回」されたと考える方が自然です。
このように、例えば同一の財産を、前の遺言では長男に、後の遺言では二男に相続させるというように、双方の遺言の内容を実現することが客観的に不可能な場合はもちろん、それ以外にも、遺言書の全体の趣旨や、後の遺言を作成するに至った経緯など諸般の事情を考慮して、後の遺言によって前の遺言はすべて撤回されたと判断される場合があります(判例・学説)。
したがって、すでに遺言を作成したことがある方が、新たに遺言を作成する場合には、前の遺言との関連性についても注意すべきです。もし、前の遺言が手元にある場合には、前の遺言を破棄して全面的に書きかえる方が無難です。また、すでに相続人のうちの一人に遺言を預けているなどの事情から、前の遺言を破棄できないような場合には、後の遺言の中で「平成○○年○月○日付で作成した遺言の全部を次のとおり変更する」「平成○○年○月○日付で作成した遺言のうちの一部を、次のとおり変更する。変更しない部分は、すべて原遺言書記載の通りとする」など、変更すべき内容を明記しておくことが、このような解釈の問題を生じさせないポイントです。