遺言をする際に、利害関係者が立ち会っていたらどうなる?
前回は、妻や子に自宅などを相続させる場合の、遺言の書き方について取り上げました。また、自宅が夫名義(もしくは夫婦共同名義)の場合には、夫は妻のために、「自宅は妻に相続させる」という遺言を書いておくことの重要性についても解説しました。もちろん、妻が夫より先に死亡した場合にも、夫が妻名義の財産の名義変更などで同様の苦労をする可能性もありますので、妻の側でも「財産を夫に相続させる」遺言を作成しておくのが、より好ましいといえます。
しかし、夫婦がお互いのために遺言を作成するのが好ましいからといって、例えば一枚の紙に夫婦それぞれが遺言をしたため、連名で署名押印して作成することは絶対に避けるべきです。なぜなら、民法では、遺言は2人以上の者が同一の証書ですることはできないと定めているからです(共同遺言の禁止)。
したがって、夫婦がお互いに遺言を作成する場合でも、遺言そのものは、必ず独立して別々の用紙で作成する必要があります。
民法が共同遺言を禁止している理由はいくつかあります。まず、遺言は、各人の自由な意思に基づいて作成されるべきですが、共同遺言にしてしまうと、例えば夫は妻を恐れて(?)、あるいは妻は夫に遠慮して、それぞれが自由な意思で遺言を作成しにくくなる可能性があるためです。次に、遺言は、本人が生きているうちは、いつでも撤回したり作り直したりすることができますが、共同遺言にしてしまうと、こうした場合にも、相手の同意が必要になってしまうおそれがあるからです。また、遺言の効力についても、共同遺言をした人の死亡の前後や内容の関連性から、複雑な問題が生じる危険性があるためです。
このような理由から、単に遺言を書いた用紙が別であればいいと言うわけではなく、その内容が相互に不可分な関係になっている場合にも、共同遺言であるとして無効になることがあります。
例えば、夫婦が同一の証書で「夫の財産はすべて妻に相続させる。その後、妻が死亡した時には、財産のうち不動産は長男に、それ以外の財産は長女に、それぞれ相続させる」という内容の遺言を作成し、連名で署名押印を行ったような場合には、夫婦それぞれの意思表示が遺言の中に含まれているので、形式面でも内容面でも共同遺言となり、無効となります。
一方、夫は「私の財産は、すべて長男に相続させる」、妻は「私の財産は、すべて長女に相続させる」という内容の遺言を、夫婦が同一の用紙を用いて、連名で署名押印して作成したような場合には、やはり共同遺言として無効になりますが、それぞれが自分の意思で、別々の用紙を用いて作成する場合については、共同遺言にはあたりません(ただし、遺留分の問題はあります)。
なお、単に同じ用紙を用いているだけで、切り離せば、2通以上の独立した遺言になるような場合には、共同遺言とはならない場合もあります。判例では、夫名義の遺言書3枚と、妻名義の遺言書1枚が合わせて綴られていて、各ページに夫の契印が押されていたものの、遺言の内容的には独立しており、簡単に切り離すことができるような場合には、共同遺言にあたらず、有効な遺言であるとしています。
ただし、これはあくまで、そのようにして作成された遺言が発見された場合についての対処方法ですので、これから夫婦で遺言を作成される方については、共同遺言と疑われるような作成の仕方は避けるべきでしょう。
なお、公証人が作成する公正証書遺言では、共同遺言は問題となりませんので、共同遺言は、おもに自筆証書遺言で作成する場合の注意点となります。