自筆証書遺言の「検認」とは?
自筆証書遺言の作成に当たっては、記載する文言にも注意が必要です。使用する文言が適切でないと、相続人や受遺者(遺言で財産を譲り受ける者)に、思わぬ苦労をかけてしまうこともありえます。その代表的な例が、「相続させる」と「遺贈する」の違いです。
通常、「相続させる」という文言は、財産を「推定相続人(現状のままで相続が開始した場合、直ちに相続人となるべき者)」に対して与える場合に使用します。これに対して、「遺贈する」という文言は、財産を「推定相続人以外の人」に対して与える場合に使用します。
ちなみに、「相続させる」という文言は、推定相続人以外の人に対しては使用できません。これに対して、「遺贈する」という文言は、単に「遺言で財産をタダで譲る」という意味合いですので、誰に対しても使用することができます。したがって、相続人に対して財産を「遺贈する」と記載しても、その遺贈自体が無効になるわけではありません。しかし、「相続させる」と「遺贈する」では、実際に遺言の効力が発生して(つまり、遺言を作成した人が亡くなって)からの財産の承継手続きに、大きな違いがあります。
《不動産の名義変更(所有権移転登記)手続き》
遺言に「自宅は妻○○に相続させる※」と書いてあった場合には、妻は単独で自宅の名義変更を行うことができます。これに対して、遺言に「自宅は妻○○に遺贈する※」と書いてあった場合には、「遺言執行者」の有無によって手続きが異なります。遺言執行者がいる場合には、遺言執行者と妻の共同で自宅の名義変更を行うことになります。しかし、遺言執行者がいない場合には、妻は自分以外の相続人全員と共同で、自宅の名義変更を行う必要があります。
したがって、相続人同士で遺産相続争いが起きているような場合には、妻はその揉めている相手から書類に実印を押してもらい、印鑑証明書を交付してもらわないと、自宅を自分名義にすることができないことになります。それで協力が得られない場合には、裁判によることになります。また、亡くなった夫に子がおらず、その父母や祖父母も亡くなっている場合には、妻は夫の兄弟姉妹(亡くなっている場合にはその甥姪)全員から書類への押印と印鑑証明書をもらわなければ、自宅の名義変更ができません。とりわけ、夫の兄弟の人数が多い場合や、認知症の方が含まれているような場合には、自宅の名義変更をするのにかなりの労力と時間、場合によっては費用もかかることになります。
なお、所有権移転登記に必要な登録免許税は、以前は「遺贈する」遺言では不動産の価額の2%、「相続させる」遺言では0.4%となっていましたが、現在では「遺贈する」遺言の場合でも、相続人であることを証する戸籍謄本等を添付して登記申請を行えば0.4%となっています。
《農地の相続手続き》
遺言に「田畑は長男○○に相続させる※」と書いてあった場合には、長男は農地法の許可を得ることなく、農地を相続することができます。これに対して、遺言に「田畑は長男○○に遺贈する※」と書いてあった場合は、長男が農地を取得して自分の名義にするには、農業委員会又は都道府県知事の許可が必要となります。この場合、長男が農業に従事していないと、許可が下りない可能性があります。(ただし、「全財産を長男に遺贈する※」ような「包括遺贈」の場合には、農地法の許可は不要です)
《賃借権の相続》
遺言に「借地権は長女○○に相続させる※」と書いてあった場合には、長女は賃貸人の承諾を得ることなく、借地権を相続することができますが、遺言に「借地権は長女○○に遺贈する※」と書いてあった場合には、長女が借地権を取得するには、賃貸人の承諾を得る必要があります。
この点で、公正証書遺言の場合には、遺言の文章は法律のプロである公証人が作成してくれるので、上記のような心配はありません。