高齢者に寄り添う鍼灸治療:痛みの軽減と日常生活のサポート
はじめに
鍼は長い間病気の治療に用いられてきました。3世紀ごろの大和王権時代に大陸の唐王朝から遣唐使を通じて伝わったとされています。
美容鍼灸はいつから?
今から20年前ほどに北川毅先生(YojoSpa代表)が「経穴美顔術」「経絡痩身術」「美容鍼灸」などを創案し広めたことが美容鍼灸の始まりと私は考えています。健康と美容を提供する鍼灸のことを「健美鍼灸」といいます。北川先生はそれまで治療に用いられていた鍼灸の役割を美容と健康に担わせました。それだけ鍼灸のポテンシャルが高いことをご存じだったのです。
それが国内だけでなく海外に広がり、その効果の高さにハリウッドスターや著名人が施術を受けるようになって一般に広がりました。今では若い人がSNSに投稿しWebやテレビ、雑誌で紹介されるほどポピュラーになっています。
皆さんもご覧いただいたことがある、あの顔に鍼がいっぱい刺さっている、あれです!
どんなお悩みにいいのでしょうか
若い方の場合
むくみやリフトアップ、浅いしわ、特にほうれい線などに利用される傾向があります。
更年期以降の場合
むくみ、リフトアップ、しわ全般、しみなどに利用される傾向があります。
コスメでなくてなぜ鍼なのか
化粧品の効果はメイクとスキンケアに分かれます。コスメティックはスキンケアに比重を置いたものが多いようです。保湿して潤いを保つ、お肌に必要な成分を補充するなどです。メイクアップ化粧品は美白やくすみシミを隠すことが中心です。また医薬品、医薬部外品などの分類もあり、多岐にわたっています。
コスメ、メイクアップともに効果範囲は表皮の角質層までです。
表皮の基底層は皮膚の代謝をつかさどっている大事なところです。基底層が活発に活動することで潤いが保たれます。代謝が活発だということは老廃物が自然と体外に出されるということで、年齢を重ねるとしみやしわができるのはこの代謝が緩やかになるからです。また紫外線の影響も考えなくてはなりません。
水分と皮脂のバランスが取れていると乾燥を防いでしわができにくく潤いのある肌になります。そのためのコスメがいっぱい売られています。水分だけではすぐに蒸発してしまいます。水分をとどめておく成分をNMFといいます。アミノ酸、乳酸、尿素、クエン酸です。それに角質細胞間脂質と言われるコレステロール、脂肪酸などが水を閉じ込めます。皮脂は汚れとして嫌われることが多いですが皮膚表面を乾燥させないためのバリアを作ります。NMFが常に新鮮でいることが肌の潤いを保つのに欠かせないわけで、鍼はその代謝を活発にします。
さて、鍼を刺すとその先端は表皮の基底層に到達します。基底層に刺激を与えることで低下した代謝を活発に戻すことができます。表面から基底層までの距離(深さ)は約0.2mmです。
そしてもっとすごいことには、鍼は深さ2mmの真皮層にも届き、ひいてはその下の筋肉層まで届かすことが出来るのです。
皮膚は20歳をピークに老化していきます。これはからだのほかの部分と同じです。肌の保湿力低下による乾燥がすすむと表皮が薄く硬くなり小じわができます。もっと進むと深部の真皮層の水分も減って深いしわとなります。
美容鍼は若い方ならより早く効果が出ますし、お年を召した方でも効果はあります。コスメでは到達できない表皮の基底層、真皮、筋層に届き、その代謝を上げることができるのです。
鍼でなければならない理由
- 血行を良くし代謝を促進させることでバランスよく潤いを保つことが出来ます。
- お顔の筋肉の問題を解決するします。コスメで対応できないしわがあります。表情筋の筋力低下と過緊張が原因のしわです。腰や肩の筋肉のコリや血行障害と同じです。お顔は痛みではなくしわやむくみとしてあらわれます。
- 水の代謝を良くして浮きを減らしむくみをとります。コリや代謝の問題で起こったリンパの流れを解決します。
鍼をさすと何が起こるのか
鍼が効く理由。それは皮膚を傷つけているからです。「えっ!ほんとに?」と思われるでしょう。直径0.14mm長さ1cmの鍼を使ってお顔に2mm刺入します。そうすると皮膚には小さな目に見えない傷がつきます。皮膚はは傷を治そうと72時間の間に凝固因子や免疫細胞を放出し炎症と清浄化を行います。その後、4日から2週間の間でコラーゲン産生が活発となり皮膚に潤いとはりが出てきます。皮膚のターンオーバー(肌の細胞が一定の周期で生まれ変わる仕組み)は28日~40日周期です。
効果の持続
つまり、傷の修復過程で起こる回復シークエンスでお悩みを解決するのが美容鍼ですので施術後1週間から2週間で変化がマックスになります。速い人では施術翌日から変化が出ます。
2週間後に再度施術をすることで効果が持続します。
40歳以上は10回、40歳以下は6回を目安に施術を受けていただくと状態が安定します。その後は2カ月に1~2回のメンテナンスで良い状態を続けることが出来ます。月1回のフェイシャルエステに通うのと同じと考えてください。
鍼の副作用
- 刺鍼時の痛み:からだにする鍼と比べて痛みは少しあります。それはお顔の皮膚が薄いこと、生理や体調によって皮膚の感受性が変わるからです。刺入時の「チクッ」とした感じがありますが刺してしまえばなくなりますし、全部痛いわけではありません。気になるようでしたら鍼を抜きますが、効果を出すためには太めの鍼がよく、太いと痛みが出やすくなるというジレンマがあります。あなたに合った鍼の太さと求める効果を勘案してできるだけ痛みが出ないように施術します。
- 皮下出血:小さな毛細血管に鍼が当たると皮下出血もしくは出血を起こします。皮下出血をすると皮膚は膨隆(もりあがる)します。すぐに圧迫止血することで紫斑や膨隆を残さずにすみます。気になる場合は消えるまでの間コンシーラーやファンデーションを使うことをおススメします。皮下出血を手当てせずに放置した場合、完全に紫斑が消えるまで10日から2週間かかるといわれています。
- 倦怠感:おからだに鍼をする場合にもたまにあるのですが数時間でとれます。施術回数を重ねると怒らなくなってきます。お風呂で軽く湯あたりしたような状態とお考え下さい。
十分注意して施術することで、問題にならないことを経験していますので安心してください。
おわりに
美容鍼はしっかりとした根拠と効果あります。若い方に支持されていますが、私が特にお勧めするのは更年期以降の女性です。
更年期障害で起こる症状として、肩こり、足の冷え、腰痛、膝の痛み、腱鞘炎、テニス肘、手根管症候群、頻尿・尿失禁や膀胱炎があり、精神神経系では記憶力が減退して、不眠・いらいら、抑うつ気分などを訴えます。40代後半から50代にかけての女性が当院にいらっしゃいます。また皮膚の萎縮関係では肌につやがなくなり、うるおいも少なくなり「しわ」が出て来て、深くなり美容鍼の対象となります。
更年期障害の原因として女性ホルモン不足が指摘されています。通常の施術でおからだのバランスを整え、美容鍼を併用することで更年期以降も生き生きと過ごすことが出来ます。
参考文献:『医学的に正しい美容鍼ーコラーゲン誘発鍼の作用機序とエビデンスー』北川毅ほか、BABジャパン社