長引く肩の痛み、五十肩との付き合い方教えますー50肩と鍼灸治療ー
はじめに
昔、くびや肩のこりは農作業や室内での繰り返しの作業でおこっていました。それがいまではスマホやパソコンの使い過ぎで起きるようになってきています。時代を感じさせます。
こういった仕事や生活習慣、ストレス、姿勢でくび肩こりは慢性化して、いつもいつもつらい状態が続くようになります。痛みがあったり、うでがしびれたりすると病院にかかりますが、ガマンしていると思わぬことが起こって大変な事態になります。
病院へ行くほどではないとか、忙しくて対処できない、そもそもどこに行って治療したらよいかわからないなど、ガマンの理由はいろいろです。
ガマンし続けると不快に感じるだけでなく、自律神経障害を起こし、頭痛、耳鳴り、難聴、不眠、イライラなどの感情障害が出てきます。また動悸や胃腸障害につながることがあります。
自分で改善しようといろいろやりますがうわべだけの効果しかありませんし、そもそも楽になりません。テレビでやってた肩こり体操。どこどこの温泉がいいと聞けば入りに行く。どれも中途半端です。
ひどいんだったらスマホを見る時間を減らすとか、生活習慣を見直すとか、運動を始めるとか、根本的な解決に向けて進めばいいのですが、生活態度はいつも通りで変わることはありません。
何かきっかけが欲しいという方ははり治療をお勧めします。
こんな症状でお困りではありませんか?
- 朝起きてすぐにだるくて寝た気がしない
- やる気が出ない
- 背中に重りをしょってるようだ
- 今日一日のことを考えるとため息が出る
- 食欲がない
- いつもは食欲がないのに異常に食欲が強くなって爆食いすることがある
- たまに吐き気や頭痛がある
- 通勤時のクルマの運転がつらい
- 人に会いたくないときがある
- パソコンをしていると指がしびれてくる
- スマホを見続けるとくびが痛くなる
- ヒマさえあればスマホのゲームをしている
- ヒマさえあれば何かしらのスマホのアプリを立ち上げてみている
- ヒマでもないのにスマホを見ている
- スマホ中毒かもしれないと思っている
- 寝スマホはよくないとわかっているけど毎晩してしまう
これらは当院に来院した患者さんがくびや肩のこりと一緒にお話ししてくれたものの一部です。こりがひどくなるとこんなにからだの不調が出ます。
くび・肩こりの原因
一回限りの反復作業、例えば雪かきや畑仕事(畝作り)などでは風呂に入って一晩休めば数日でくびや肩のこりは治ります。問題なのは毎日続く反復作業です。それにストレスが加わるとくびや肩のこりはいっそうひどくなり、どうしようもなくなります。
注意が必要なくびや肩のこりは、追突事故や転落などで起こったもの、頸椎や脊髄に異常があるもの、まれに内臓に原因があるものです。何が原因で起こっているかわからない場合はご相談ください。
くびや肩のこりの多くは筋疲労とストレスです。生活習慣の改善とストレッチ、そして快方に向かうきっかけを作るはり治療でよくなります。
くび・肩にこりと痛みをおこす筋肉
「二本足で立って歩く動物は人間だけだから人間はくびや肩のこり、腰痛があるのです」なんてお話を聞いたことがありますが、にわとりも二本足で歩いてます。ティラノサウルスも二本足。くびや肩のこり、腰痛はあるのでしょうか。
それはさておき、こりや痛みは筋肉や筋膜が原因で起こります。代表的な筋肉は僧帽筋、肩甲挙筋、後頭下筋、大胸筋です。これらの筋肉は4~6kgある頭の重みを支え、片方3kgのうでを吊り下げています。立っているだけでこれだけの仕事をしていますから、それに作業が加わるとつらくなるのは当然です。
だったら筋トレして筋肉を強くすればいいのでは?その通りなんですが、くびや肩のこりを起こす人の多くは体質的に筋肉がつきにくい人なんです。特に女性は男性に比べて筋肉量が少ないといわれていますので筋トレすると逆にくびや肩がこってきます。
筋疲労を軽くするという意味で筋トレよりもストレッチの方が効果的です。ストレッチについては後半で紹介します。
くび・肩こりの鍼灸治療
くびや肩のこりの原因は筋疲労ですが東洋医学的に考えると筋疲労は直接的原因で、間接的・根本的原因の存在を見極めて治療するのが一般的です。
筋疲労:こりができる直接的原因で、デスクワーク、スマホ、肉体労働など
体質的要因:食べたものが有効に機能しない体質や冷えのぼせ体質
ストレスを感受する性格:性格は治りませんが過敏になっている感受性を軽減することはできます
これらが複雑にからみあってくびや肩のこりが起こります。初診時、はり治療が終わると皆さんすごくスッキリします。くびや肩のこりがウソのようになくなります。
しかし時間がたつと元に戻ってしまいます。それは生活習慣を見直していないから。よくないことはやめよいことをする。本当に治るということには、そういう努力が必要です。治っても再発を防ぐための努力は必要です。ずっとはり治療に通わなければならないの?違います。はり治療を卒業できます。そのためには今の安楽な生活(安楽だからこそくびや肩がこり、体の異常が起こります)をやめなければなりません。食っちゃ寝、食っちゃ寝してたら病気になります。
鍼灸では患者さんのこころとからだのかたよりを東洋医学的に調べて施術することで、くびや肩こりだけの治療に比べて効果を高めることが出来ます。
くびや肩にできるこりは、筋肉と筋膜に存在しています。こりがあるため筋肉や筋膜が十分動かなくなるためつっぱり感や痛み、つらさが出ます。
筋膜のことをfascia(ファシア)といい、最近テレビやネットで見られるようになりました。鍼灸では今から2000年前、筋膜についての記載が『黄帝内経霊枢(こうていだいけいれいすう)』という書物にあります。「経筋(けいきん)」といわれ、からだを縦に走る筋肉をつなげたラインのことです。筋肉はそれぞれ単独に存在しますが、動くときには連携して動きます。それをつないでいるのが筋膜です。経筋は筋膜のつながりをあらわしています。大きな経筋は12種類あり、例えば「足太陽膀胱経筋」、「手陽明大腸経筋」などと表現されています。これは経絡(けいらく)に準ずる表現の仕方で、手と足、陰と陽、内臓の3種類で構成・分類されています。
2001年に出版されたトーマス・W・マイヤース著『アナトミー・トレイン』は現代医学の知見から筋膜のつながりを説明した最初の書物です。その中で経絡との相似性を説明してますが経筋の考察はありません。
経筋は臨床的な効果を追求したもので(治療に役立つことを一番とした理論)、アナトミー・トレインは解剖学的な観察を追求したものです。
実際のはり治療は、このファシアに鍼先を当てて10~15分置鍼(鍼を刺したままにしておくこと)することでこりをとります。鍼は1~2mm刺入するだけです。皮膚の下の筋膜に鍼先が当たります。もんだりつまんだりする必要はありません。鍼を刺したまま寝ているだけ。まったく痛くありません。いびきをかいて寝ている方がいらっしゃるぐらい、リラックスして気持ちの良いものです。
鍼をとったあとはこりがなくなり、くびや肩を動かしたときの痛みがなくなり可動域が増え、すっきりした気分になります。交感神経の緊張が取れていると研究でわかっています。https://jsam.jp/pdflib/kiso_p1.pdf
こりをとって運動を始めて人生が変わった女性のはなし
42歳の女性。会社員です。主訴はくびから肩にかけてのこりと痛み、特に右がひどいそうです。
20歳ごろからくび肩こりが起こりました。それは仕事をするようになってからだそうです。そして結婚して出産。仕事のほかに家では家事・育児でお疲れ状態が続いています。時間があればごろごろしてテレビを見てたりスマホをみてたりしているそうです。就寝前には寝スマホ。そうこうしているうちに1週間前、枕の高さが合わずに寝違いを起こしてしまいました。以来、くび肩こりがひどくなったまま戻らなくなりました。
一日中続く痛みとだるさで、くびを動かすと痛みがあります。何かの拍子に「ビリッ」と痛みが走りますが、どんな動作をしたときになるのかわかりません。最近では背中や腰までつっぱってきた感じがするとのことでした。
睡眠や食欲、便通に異常はありません。既往歴は高血圧で内服治療中。診察時、140/91mHg、脈拍は97/分(整脈)でした。
くびを動かしてもらいましたが、どの位置で痛みが出るということはありませんでした。腱反射などの神経の異常を疑う検査に異常なし。くびや肩の筋肉は右が左よりかたくなっていました。
お話しをお伺いしているときに、しきりに右の上胸部を触ります。なのでそのを圧迫すると強く痛みを訴えました。そしてその奥にこりがありました。小胸筋の筋・筋膜疼痛症候群を疑いました。
くび肩周辺の筋肉のこりと合わせて小胸筋に鍼を刺して置鍼しました。はりの痛みはなく、抜鍼後はスッキリしたと喜んでいました。
2診目は3日後。この3日間、今日までくび肩こりはまったくありませんでした。今朝から少しこってきたとのこと。同様に治療してスッキリ!
3診目以降には仕事や家事の疲れがあるとくび肩こりは起こりますが以前ほどではなくなりました。
落ち着いてきたのでどうしたらくび肩こりが起こらなくなるかについて話し合いました。そして仕事が忙しくても、疲れていても風呂に入って一晩寝たら朝スッキリと目覚めて肩こりがない状態になる、この状態をゴールと決めました。
そのためには生活を見直すことにしました。
- ヒマなときにごろごろしてテレビやスマホを見ない、もしくはそんな時間を短くする
- 行き当たりばったりの肩こり解消法ではなく水泳などの全身運動をする
- お風呂上りや日中時間のある時にストレッチをする
- 体重を減らす
- 食べ過ぎない
- 仕事やお子さん、ご主人のことを心配しすぎない、放っておくぐらいにする
- 自分中心で生きる
いい悪いは別にして、いろんな意見を出し合いました。やるかやらないは本人次第。何をして何をやめるか、決めたら教えてくださいとお願いして、いったん鍼灸治療は卒業としました。もちろん、もしくび肩がこってきたらいつでも治療においでとお話しました。
あれから3年。肩こりで当院を受診されました。お話を伺うとジムに通うようになりくびや肩のこりはほとんどなくなったと言ってました。スポーツをすることで慢性のくび肩こりがなくなったのです。
そして翌年いらっしゃったときにはランニングに目覚めいろいろな大会に出たいと目を輝かせて言ってました。
人生が変わった瞬間でした。ごろごろしてテレビを見る生活からジムに通いランニングをする生活に変わり、楽しく毎日を過ごせるようになったそうです。
当院へは数年に一度施術を受けに来ます。目を輝かせてお話をしてくださいます。
自宅でできるくび・肩こり対策
この女性に自宅でするよう指導したストレッチと、リラクゼーションに利用できるサイトを紹介します。もちろん、ジムやスタジオに通ってヨガやピラティス、スイムをしたらもっといいです。まずはご自身のからだと対話をする意味で、ストレッチやマインドフルネスをしてみませんか?
肩や首のこりに関係する筋のストレッチです。
ストレッチ
【大胸筋ストレッチ】
大胸筋は胸の前にあって腕立て伏せをするときにがんばる筋肉です。呼吸をするときにも働きます。この筋肉は体の前でする作業でがんばります。パソコン、スマホ、新聞や本を読む、台所仕事にお掃除。車の運転でハンドルを持つときもがんばっている筋肉です。
やり方(右)
ドアわくを使います。Aは肩を90度にあげて肘も90度に曲げてドアわくに腕をかけます。その姿勢でからだを前に出すと(矢印の方向に)、胸の前にストレッチがかかります。気持ちのいい程度を心がけてください。BはAより肘を下げて同じように体を前に出します。そうするとAより上の胸にストレッチがかかります。
回数
10秒ストレッチして一度戻る、をA3回、B3回繰り返してください。右腕から始めて左もしてください。
【僧帽筋ストレッチ】
僧帽筋は背中から肩、首に広がっている大きい筋肉です。肩甲骨や首、肩の動きに関係しているので肩こりが強く出る筋肉です。中でも上の部分にこりがよく出ます。肩がこったと言って自分で押さえるところがそうです。ツボでいうと「肩井」にあたります。
やり方(右)
イスに座り、右手をうしろに回します。イスの座面をつかむといいでしょう。左手で右のアタマをつかみ、首を左に倒しつつ左手で軽く左に引っ張ってあげます。右肩から首にかけてストレッチがかかります。左手でアタマを強く引っ張らないようにしてください。首を痛めます。
回数
10秒ストレッチしてもどる、を3回繰り返してください。左はこの反対の動作でしてください。
【菱形筋ストレッチ】
菱形筋は背中(肩背部)にあり、背骨と肩甲骨をつないでいます。肩甲骨を背骨に固定することで腕の動きがスムーズになり、いろいろな作業がしやすくなります。掃除、洗濯、パソコン、運転など、この筋肉のがんばりで成り立っています。
やり方(右)
右うでを体の前に持ってきて、左手で右うでを下から引き下ろします。その時からだはねじらないでまっすぐにしておいてください。肩甲骨が外側に引っ張られるようにしてください。
回数
この姿勢のまま10秒ストレッチしてもどる、を3回繰り返してください。左はこの反対の動作でしてください。
【後頭下筋群ストレッチ(A両側とB右)】
後頭下筋群は頭がい骨と頸椎をつないでいる筋肉で、目の動きをスムーズにするためがんばる筋肉です。ものを見るとき首を固定しておく筋肉です。ですからスマホやパソコンなどを注視し続けるとこってきます。
やり方
Aはイスに座り姿勢をまっすぐにしてあごを引きます。そのままアタマを後ろに引くと、くびとあたまのつなぎ目のところがストレッチされます。上手にできるようになると、めがしらに痛た気持ちいい感じが出ます。Bは体をまっすぐにしあたまをできるだけ左に回します。左手であたまを軽く引っ張ってもいいです。後頭部にストレッチ感が出れば成功です。
回数
Aは10秒ストレッチしてもどる、を3回繰り返してください。Bも同様にして、右に振り向いて左のストレッチを同じ回数してください。
【注意点】
- けっして無理にやらないでください
- 気持ちの良くない痛みやしびれが出たら中止してください
- 毎日できなくても、できるだけするように心がけるだけでいいです
- 全部しなくても大丈夫です
- 自分が一番つらい部分のストレッチだけでもやりましょう
- お風呂上りにするのが効果的です
- やり方を覚えると空き時間にできるようになります
- わからない、うまくできないようであれば来院されたときにご相談ください
つらい症状から脱出するためのストレッチです
一日でも早く楽になるために頑張りましょう
マインドフルネス
瞑想のことです。意識を呼吸に集中し、自分の呼吸音を耳で聞きながら腹式呼吸をします。
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_699.html
ヨガ
さまざまなポーズをとりながら呼吸や瞑想を行ってこころとからだのつながりを確かめる健康法です。
https://www.npo-yoga.com/about_yoga/mokuteki.html
音楽
インターネットラジオを利用するとマインドフルネスやヨガなどに適した音楽が無料で聞くことが出来ます。パソコンで聞くリンクを紹介します。
Caim Radioはまさにマインドフルネスやヨガをテーマとしたサイトです。
https://calmradio.com/ja
AccuRadioはロックやクラッシック、ポップスやジャズなどいろいろな音楽が無料で聞けるサイトです。サイトに行くと左側にGENRES(ジャンル)がアルファベット順に並んでいて、New Age(Relaxing)をクリックすると右側にいろんなチャンネルが表示されます。適当に聞いて好きなものを覚えておいたらいいでしょう。
https://www.accuradio.com/
スマホの場合は上記以外にもアプリがあります。スマホのストアで「マインドフルネス」、「リラックス」や「瞑想」で検索してみてください。
まとめ
スマホやパソコンの使い過ぎはよくないとわかっていても、必要なものであり、今では生活の一部になっていてやめることはできません。そのため首や肩のこりが起こってしまうことは残念なことですが、起こってしまったらどうやって治すか、治ったら再発しないようにするにはどうしたらよいかを考えましょう。
いろんな施術を提供するお店が増えました。自分に合うのはどのお店か、ちゃんとよくなるのか、行く前に知りたいところです。
そうすると頼りになるのはネットです。昔は知り合いの紹介でしたが今ではスマホで検索。ググります。いつからかグーグルで検索することをググるというようになり定着しました。面白いですね。
ググってホームページやSNSを調べてどんな人がどんな場所でどんなことをして自分の症状を楽にしてくれるのか、しっかり見極めてください。
病院ならどこに行っても標準治療をしてくれますが、治療院や施術院は何をしているのかわかりません。悪くはないことはわかるのですが、自分に合うかどうかが問題です。
健康で毎日を過ごせるように、頑張りましょう。たまにはリラックスしながら。