長時間座っていると大変なことになります!腰のこわばり放っておくと大変です
急に始まる背中の痛みの原因
コロナ禍の中、在宅でお仕事をされる方が多くなりました。zoomやいろいろなリモート会議アプリのおかげで出社しなくてもスマホやタブレット、PCを使い自宅で業務や会議ができるようになりました。感染防止には大変良いことですが、通勤しないことから活動量が減って太ったとか、自宅での仕事特有のいろんな症状が起こっています。
会社で仕事をしていると部署内を移動したり営業などで外出する機会があってそれなりにからだを動かしているわけですから、疲労感はあっても倦怠感は少ないと思われます。
そんなことを続けているとからだがなまっていろいろな症状が起こります。出会いは突然にと歌にあるように、痛みは突然にやってきます。
今回紹介する背中の痛みはこんな状況が続くことで起こります。
1)筋疲労
PCでの作業が多いわりに活動量が少ないため、腕を動かす筋肉や腕を支える筋肉に常時負荷がかかり異変を起こします。腱鞘炎で手首が痛くなることもあるでしょうが、それより多いのが背中の痛みです。背中にある肩甲骨を支える筋肉が仕事中常に緊張を強いられることで疲労が蓄積します。
2)姿勢
会社ではちゃんとしたデスクにPCを設置して作業をするため姿勢の問題はあまりありませんが、自宅だとちゃぶ台や、食卓などで作業するため椅子と机の高屋や距離が合わないため姿勢が悪くなります。その状態で作業を続けて背中を痛めてしまいます。
3)ストレス
ご主人だけでなく奥様もストレスが溜まりますよね。いつもいないご主人がリビングにドンとかまえて仕事していては家事ができなくなります。ご主人もなれない在宅仕事で何かしら気が散って仕事に集中できずにストレスが溜まります。
4)運動不足
職場では仕事と休憩の時間配分は自身のペースでできるのが、家でリモートだとなんだかやりずらいようです。結果、散歩ができない、ジムも休みで運動不足による筋力低下を引き起こしてしまいます。
5)めったにないけど
すい臓がんや肝がん、肺がんなどで背中に痛みが出るとテレビでやってますが、めったにそんなことはありません。がんの末期や脊椎転移などで痛みが出る場合は尋常じゃない痛みですし、カラダの動きで痛くなるなんて言ってられないぐらいですので、普通じゃないとすぐにわかります。
6)そして寝違える
季節の変わり目に寝違えは起こります。寝違えといえばくびに起こるのが代表的ですが、背中にも起こります。これをギックリ背中といいます。
ギックリ背中の原因は菱形筋にあり
「菱形筋」という筋肉が左右の肩甲骨の間、背骨の両脇にあります。この筋肉がけいれんを起こすのがギックリ背中なんです。その原因はすでに述べたとおり、毎日の負荷の連続にもとづいて、寝違えて発生します。
1)菱形筋
読んで字のごとくひし形をしています。薄い筋肉です。小菱形筋と大菱形筋があります。左右の肩甲骨を背骨のほうに寄せて胸を張る筋肉です。肩甲骨を背骨に引き寄せるわけですから、腕が自由に動きやすくなります。菱形筋が頑張るとキーボードやマウス操作がしやすくなります。
2)菱形筋が疲れてくると
姿勢が悪くなります。猫背になります。呼吸が浅くなります。そうすると酸素不足?になって倦怠感が強くなります。もちろん肩こりくびこりの原因にもなります。
3)菱形筋はいつも頑張っている
姿勢を正しくして胸を張ります。キーボードやマウス操作だけでなく、カラダの前にあるもの、例えば引き出しをひいて開ける、ドアを引いて開ける、ものを取るなど日常生活で腕を使うときには必ず頑張っています。テニスやゴルフなどのスポーツで腕を使うときにもこの薄い筋肉は肩甲骨を支えようと頑張ります。
4)菱形筋に起こる筋・筋膜疼痛症候群(MPS)
いつも頑張っている菱形筋に持続的な負荷がかかると筋・筋膜疼痛症候群(MPS)が起こります。MPSは筋肉や筋膜にできたコリが原因で痛みを起こします。コリに力が加わると強い痛みを起こします。また、そのコリを指圧しても痛みを起こします。特徴的なのはその痛みがコリのある部分と違うところにも起こるということです。このコリのことをトリガーポイントと言います。
5)トリガーポイント
引き金点。痛みを引き起こす引き金になっているコリ・ポイントのことです。このコリは無理な力がかかった時に急にできることもあるし、徐々に出来上がることもあります。一度できるとなかなか治りません。最近筋膜リリースなるものが盛んに言われていますが、筋・筋膜にできたトリガーポイントはストレッチなど(器具を使ったものも含めて)では取り去ることは難しいと考えています。
6)寝違え
どうして寝違えが起こるのかはいまだはっきりしていませんが、朝起きてから首や肩、背中の筋肉を動かすと痛みが出ることから、そこに無理がかかって起こっていると考えられます。放っておくと筋肉に炎症が起こり治るまで数週間かかる場合もあります。つぼなかぢは長年の臨床経験から、寝違えは季節の変わり目や、疲労の蓄積や暴飲暴食をした後に起こりやすいと考えています。ですからギックリ背中も同様に起こると考えています。東洋医学では季節と体の関係を重視します。季節ごとに起こりやすい病気やひどくなる症状があり、その治療をどうするのかが、2000年前の『黄帝内経』に記載されています。
ギックリ背中とはいったい何?
このようにいろいろな原因で背中、特に菱形筋にできたトリガーポイントによる筋・筋膜疼痛症候群のことを、ギックリ背中と呼びます。そもそも、このコトバを言い出したのはある患者さんでした。
56歳、男性、会社員のギックリ背中
1)主訴
右の背中の痛み
2)現病歴
今朝起きて出勤しようと身支度を整えていたらなんだか右の背中が痛いと気がつきました。昨日まではなんともなく、そのうち治るだろうと仕事に行き、業務作業をしていたらどんどん痛くなってきました。そこでいつも腰痛で治療をしている当院へ急遽いらっしゃいました。
3)状態
どんなときに痛いかと伺うと、椅子に腰掛けて背もたれに寄りかかろうとするとズキンと右の背中(肩背部)に痛みがでます。寄りかかってしまえば痛くありません。また、右手をで何かをしようとすると痛みを感じます。ずっと痛いわけではなく何かの動作をすると痛いので、すごく不自由というわけではなく、その瞬間の痛みがうっとうしくて気になるとのことでした。
4)ギックリ背中だね
いつもの腰痛は落ち着いていて痛みはないので背中をなんとかしてほしいとのこと。この方はぎっくり腰で当院を最初に受診されたのが数年前。それ以来、何かあるたびに施術を受けに来ていました。最近の状況をお聞きすると、接待や会社の同僚との飲み会が続いていて(コロナ前です)疲れがたまっていました。受診時はちょうど春先の季節の変わり目だったことを考えて急性の筋・筋膜疼痛症候群で、トリガーポイントは菱形筋にあるだろうと目星をつけました。すると患者さんが「先生、これはギックリ背中だろ?」と。何度もぎっくり腰をされている方だからそんな表現をされたんだと思います。二人で笑いながら「そうそうギックリ背中だね」なんて意気投合しました。
5)所見
からだを見せてもらいました。首や肩関節の動きに問題なく、動かしても背中に痛みはありません。右腕を前に伸ばすと背中に痛みが出ます。背中には炎症を疑わせるような腫れや熱はありません。ベッドに長座して両手をからだの後ろに置いて寄りかかる格好をする瞬間に痛みが出ます。腕に体重を全部のせて寄りかかれば痛くありません。そこで背中を触ってみると菱形筋にコリがあり指圧すると痛みを強く訴えました。
6)病状の検討
原因は春先という季節の変わり目と疲労と暴飲暴食による寝違えです。悪くしたのは菱形筋。この筋肉に圧痛とコリが認められました。幸い起こってから早期なのでコリが小さく肩の上やほかのところに痛みを飛ばしていません。軽症でした。
7)施術
そこで中斜角筋という首の横にある筋肉の隙間から背中の菱形筋に向かって走る肩甲背神経を刺激するやり方で菱形筋の緊張を取ることから始めました。菱形筋に直接はりをしてもいいのですが、痛いところを刺激すると余計悪くなることがあるので、間接的に周りから施術していくのが痛みの治療のセオリーです。
前頸部のはりは神経に当てるのではなく神経の周辺の筋肉、中斜角筋にはりをします。そこに低周波鍼通電療法を行ないます。そのあとに菱形筋にはりをしましたが、散鍼という1mmにも満たない深さで数か所手早く刺激をしました。背中の血行を良くする方法です。
8)低周波鍼通電療法
いわゆる電気ばりです。2本のはりを電極として低周波通電を行います。家庭用の低周波治療器と同じと考えてください。ただ、はりを電極として使うので刺激はピンポイントで目的の場所に届きます。その分効果が高いのです。上手に目的の筋肉にはりが当たり低周波刺激が入ると、緊張がほぐれ気持ちよくなります。中には寝てしまう人もいます。
刺激が背中の筋肉に伝わって収縮を起こし肩が振動します。1ヘルツの連続刺激、トントンという優しい刺激を15分間続けます。低周波鍼通電療法はやり方によって目的が2つあります。筋肉の緊張を軽減する効果と神経の興奮を沈めて痛みを軽くする効果です。ピンポイントで刺激をするので悪くない部分には刺激がいきません。治療効果がはっきりしています。治療後の疲労感はありません。よく使われる症状は坐骨神経痛やテニス肘などの慢性化したものです。高齢者に多い腰部脊柱管狭窄症では、すねに低周波鍼通電療法をします。
9)結果
治療後に痛みの出る動作をしてもらいました。痛みはありませんでした。最後に仕事中にできるかんたんな菱形筋のストレッチを教えて治療を終えました。
まとめ
1)ギックリ背中の原因は筋・筋膜疼痛症候群
2)ギックリ背中は急に起こるのではなく、不摂生や季節の変わり
3)筋・筋膜疼痛症候群にはトリガーポイントがある
4)はりはきもちいいい
5)低周波鍼通電療法で施術