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中田和宏

つらい痛みを軽減し、心身の健康を導く鍼灸のプロ

中田和宏(なかだかずひろ) / 鍼灸師

トキの森鍼灸院

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コラム

その痛み、椎間板ヘルニアのせい?痛み止めでよくならない坐骨神経痛、実は筋・筋膜痛かも!?

2021年12月21日 公開 / 2021年12月27日更新

テーマ:健康とはり

コラムカテゴリ:医療・病院

コラムキーワード: 坐骨神経痛 対策

腰椎椎間板ヘルニアで起こる坐骨神経痛


 腰椎椎間板ヘルニア(以下、ヘルニアと略します)は坐骨神経痛という臀部や足の痛みやしびれ、力が入らないという症状を起こします。上下の腰椎の間に椎間板があり、クッションの役目をしています。その中心にある髄核が周りの繊維輪を破って飛び出て神経にあたっている状態がヘルニアです。
 坐骨神経痛は腰と仙骨から出て足先にいたる長い神経の総称です。この神経にヘルニアなどの刺激が加わることで坐骨神経痛を起こします。
 ヘルニア以外に坐骨神経痛を起こす原因はあります。腰椎分離すべり症、腰部脊柱管狭窄症、がんの脊髄転移、腰椎圧迫骨折などです。



ヘルニアになったらどうなる?


 腰や足に痛みやしびれが出ます。坐骨神経痛の症状です。また、触っても感じがしない感覚異常や足に力が入らない筋力低下や運動障害も起こります。
 じっとしていても痛い、歩くと痛い、ひどいときには寝ていても痛い。感覚が鈍くなるとお風呂に入っても温かさが足に伝わりにくかったり、筋力が障害されるとスリッパが脱げにくくなったり、跛行(びっこ)を起こすことがあります。こうなると早急に手術をしないと筋力が戻らなくなる可能性があります。
 また、膀胱直腸障害と言って、排尿や排便に障害が起こる場合も早急に手術をします。
 鍼灸で対応できない症状があれば専門医に紹介して診断と治療をお願いしています。 

ほかにも原因が?!


 患者さんは坐骨神経痛になると病院に行ってMRI検査をし、ヘルニアと診断されます。



しかし研究と調査でMRIの所見と症状が一致しているかどうかに疑問があると言われるようになりました。それは60歳未満の約20%に、60歳以上では約40%の人に無症候性のヘルニアがあるといわれているからです。
 無症候性とは、原因があっても症状がないということです。検査でヘルニアが見つかっても症状がない人がいます。
 逆に坐骨神経痛があるにもかかわらずヘルニアが見つからない(ヘルニア以外の腰椎の病気もない)人もいます。
 そんな方の中に、筋・筋膜疼痛症候群と呼ばれる筋肉や筋膜の緊張、局所的なコリが痛みを引き起こす病気があります。そのコリが関連する場所に痛みを出し坐骨神経痛に似た症状を起こします。
 鍼灸や手技療法の世界では古くから知られていましたが、最近になって筋膜の研究が進みいろいろなところで語られるようになってきています。
 きっかけは1983年にアメリカで上梓された、ジョージワシントン大学医学部名誉教授のジャネット・トラベル, デイヴィッド・サイモンズ両先生が書いた『トリガーポイント・マニュアル』です。日本へは1992年に東京医科大学教授の川原群大先生が監訳し出版されました。



トリガーポイントと筋・筋膜疼痛症候群



 トラベルとサイモンズ両教授は腰のある筋肉に生理食塩水を注射で注入すると、足の対応する場所に痛みや異常感覚を起こすことを発見しました。そしていろいろな筋肉に対し実験を繰り返し、痛みが神経痛だけではなく、筋肉から起こることを証明しました。
 このポイントをトリガーポイント、引きがね点と呼びました。



 筋・筋膜疼痛症候群(Myofascial pain syndrome)という名称は両教授も書籍の中で語っている通り、筋肉や筋膜から起こる痛みについて古くから言われてきた名称の一つです。現在でも確定した名称ではなく通称として使っていますが、意味は筋肉や筋膜が原因で起こる痛みの総称です。
 最近では原因不明の痛みの中にこの病態があることに気づいた医師が学会を作って研究や治療にあたっています。

ヘルニアの痛みと筋・筋膜疼痛症候群の痛みの違い


 両者には痛みの性質に違いがあります。ヘルニアの痛みは激痛で電撃です。コトバでいうと「ビリビリ」。電撃様と言われます。ヘルニアを起こした急性期は神経の根元に炎症が起こるため少し動いただけでも激痛が走ります。



 筋・筋膜疼痛症候群の痛みは重いようなだるいような、鈍痛です。金沢弁でいうところの「やめる」です。「じわじわ」「じくじく」とした痛みです。
 痛みが出る場所は両者ともよく似ています。

どうやって判断する?


 ヘルニアのテストにSLRテストがあります。下肢伸展挙上テストといいます。仰向けに寝て両足を伸ばした状態で、痛みのある足を持ち上げていくと、股関節が70度ぐらいのところで足にズキーン、ビリビリと痛みが出ます。



 筋・筋膜疼痛症候群ではこの検査をしても痛みは出ません。筋・筋膜疼痛症候群の場合、筋肉にコリがあるのでその場所を圧迫すると足に痛みが再現されます。また、コリのある筋肉に力をかける運動をすると痛みが出ます。
 病院でMRI等の画像検査でヘルニアの診断が出てもこういった見分けをしたうえで治療を選択します。

治療法に違いはあるの?


 ヘルニアの場合、急性ならお薬と鍼灸を併用した炎症を抑える治療、慢性なら鍼灸だけでも坐骨神経痛を軽減させるのに十分効果的です。
 筋・筋膜疼痛症候群なら鍼が一番です。原因となっているこりに鍼先を当てて15分そのままにしておいてから鍼を抜きます(置鍼術)。それでコリはやわらかくなり、痛みがなくなります。

ヘルニアがはり一回で治ったというのは、ホント?




 はりでヘルニアは治りません。脱出した髄核は6カ月程度で自然に消失します。しかし6カ月経過してもなお痛みが続く場合はヘルニアではなく筋・筋膜疼痛症候群の可能性があります。はりは炎症や痛みを軽減し、自然に治るまでの間を楽に過ごせるようします。
 もしもはりや整体で一回の施術で痛みが治ったとしたなら、それはヘルニアが原因ではなく筋・筋膜疼痛症候群だったのです。

楽しい旅行から一転最悪の痛みに




 同じような痛みでも原因が違うのですが、患者さんにはわかりません。
 50歳代、女性、会社員、主訴は左坐骨神経痛です。4か月前に旅行に行きました。たくさん歩いたあとから左足が痛くなりました。整形外科を受診しMRIなどの検査の結果、ヘルニアと診断されました。治療はブロック注射と鎮痛消炎剤の内服薬とシップです。ブロック注射は短時間しか効果が続かず、病院以外の整体などの施術を受けましたがよくなりせん。
 しつこい痛み。痛くなった当初に比べると若干よくなりましたが生活に支障があります。医師からは手術を勧められましたが、したくないと知り合いに相談したところ当院を紹介されました。

慢性期の痛み


 現在の状態をお聞きしました。
 安静時痛や夜間痛はありません。立っていると痛みが強くなり、歩くと痛い、クルマの運転席から後部座席のものを体をひねって取ろうとすると痛みが出ます。
 からだを診せてもらいました。体の前後屈では痛みは出ません。左に回旋すると鼠径部に痛みが出ます。SLRテストは陰性、左膝蓋腱反射消失、筋力は正常。 
 痛みの場所と腱反射などの所見から左第5腰神経のヘルニアが疑われましたが、SLRテストが陰性なので果たしてヘルニアのせいで痛みが起きているのか疑問に思いました。
 痛み出してから4か月経過しています。病院での検査の結果、ヘルニアは間違いなくあります。4カ月経過しているので病院での治療に効果があり、急性期の炎症は収まっていると思われます。

原因はヘルニアのあとに起こった筋・筋膜疼痛症候群


 お話と所見をもとに、小殿筋を中心とした殿筋の筋・筋膜疼痛症候群と判断しました。ヘルニアのせいで筋力低下を起こしその筋肉がうまく動かないためにコリができてヘルニアの時と同じような痛みを出していると考えました。
 ヘルニアで障害された神経がコントロールしている筋肉の緊張が低下し筋力ダウンします。ヘルニアの症状は痛みだけではありません。

はりで何をするの?




 そこで臀部筋や腰を支える筋肉に太さ0.16mm、長さ30mmのはりをコリのある部分に2~3mm刺入し、その状態ままで15分放置しておく置鍼術を行いました。
 はりの痛みはまったくありません。はりで何をしているかというと、コリをとっています。つまり筋膜をリリースしているのです。はりを刺してすぐに、固くてそれ以上入っていかない場所があります。それが2~3mmのところです。そこに硬いコリがあります。その状態で刺したままにして15分たつと、はりがすっと入っていくようになります。コリがとれました。
 こんなかんたんな施術で腰を左にねじる動作の痛みがなくなりました。患者さんは横になっているだけです。

中殿筋の関連痛


 2回目は1週間後に来てもらいました。歩くとすねの外側に痛みがあり、そ径部から臀部にかけての筋肉痛のようなだるい痛みがあるとのことでした。中殿筋のコリはすねの外側とそ径部に痛みを飛ばします(関連痛)。同様に治療してご自宅でストレッチや筋トレをしてもらうよう指導させてもらいました。





痛みとつきあう


 その後は良好に経過しているので治療を終了しました。しかし、痛みは残っています。生活に支障がない程度に落ち着いたということで当初の目的を果たしました。
 あとはご自身で運動やストレッチをしてもらい、何か起こったら治療院に来てもらうことになりました。
 まったく痛くなくなるのが理想ですが、そうならない理由がいくつもあってどうつきあっていくかを患者さんと治療者が一緒に考えなければなりません。
 うまいことを言って患者を集めている施術家がいる一方、まじめに痛みとつきあうことを考えている医師が中心となって慢性疼痛の研究が進められています。その中に鍼灸や漢方が果たす役割が期待されています。

医学の進歩と高齢社会でますます増える慢性疼痛


 神経痛だなんて簡単にすませていた慢性痛ですが、研究が進み慢性の痛みというのは体の異常だけでなく心理的社会的な要因が多くかかわっていることが分かりました。
 医学の進歩でがんでも助かる人が多くなりました。また、いろんな病気があることが分かりました。治らない病気が多いことが分かりました。病気とつきあっていくしかないのが現状です。
 平均寿命が延びて元気で長生きならいいのですが、どこかに痛みを持っている高齢者が増えています。老化は進みます。若返りの方法が見つかるまでは痛みや不調をかかえて生きていかなくてはなりません。
 何とかよくしてあげたいと思い、日々努力しています。

この記事を書いたプロ

中田和宏

つらい痛みを軽減し、心身の健康を導く鍼灸のプロ

中田和宏(トキの森鍼灸院)

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