冬の風物詩、こむら返りにはこのツボに効け!
鍼灸治療は慢性の痛みの病気によく用いられ効果を上げています。しかしそればかりではありません。急性の痛みにもよく効きます。ぎっくり腰や寝違え、スポーツ障害の中にも即効性のあるものがあります。今回のケースはそんな急性の痛みに対して鍼を行ったお話です。
2月の寒い日が続くある日、35歳の女性が右の首の痛みで受診されました。お話を伺うと3日前の朝、起きてしばらくして右の首が痛くなってきたそうです。湿布を貼っていましたがあまり良くなりません。
病院へ行こうかと思いましたが、授乳中の赤ちゃんがいるのでお薬が出ても飲めないと思い、家族に相談したところハリが良いと教えてもらい当院に来院されました。
お話を伺っている最中でも首を少し動かすと痛いようです。
首を前に倒すと一番痛くて後ろや左に倒すと右肩も痛くなります。最近では右腕が熱っぽくて指先がしびれるような感じがします。それは例えるなら正座して足がじわ~っとしびれる感じに似ているそうです。
動かさなければ痛みはなく、夜寝ていて痛みで目覚めるようなことはありません。ただし寝返りすると痛いとのこと。肩こりは以前からあるとのことですがあまり自覚することはなかったのですが育児疲れでの肩こりのようです。
痛くなってから現在まで、首の痛みはあまり変わりないのですが腕のしびれが悪くなっている気がします。
鍼灸治療を受けるのは初めて。過去に大きな病気や交通事故などのケガをしたことはありません。
見た目、スラッとして首が長くスタイルの良い女性ですが、その分ストレートネックと言われる頚椎の生理的カーブが少ない方でした。これは病気ではないのですが肩こりや首に問題を起こしやすいと言われています。しかし肩や首の筋肉はしっかりしているので日常的に問題を起こすことはなさそうです。
寝違えも今回が初めて。2月の寒冷と育児疲れで起こしたのかもしれません。
食欲・睡眠・便通に問題はなく他に異常を訴えていないので、ますは頸肩部の訴えから調べていって治療をし、様子を見ることにしました。
頚椎や頸髄(首の脊髄)・神経根(頸髄から別れて出てくる神経の付け根)などに障害があって痛みやしびれを出していることがあるのでまずそれを調べます。
もしこの検査で異常が見られた場合鍼灸治療はあまり効果がなく、将来手術適応の可能性があるため専門病院に紹介して適切な検査と治療を受けることを勧めます(確実な診断がついた後、医療と併用で鍼灸治療を行ない症状の軽減を目指します)。
検査法はゴムのハンマーで腕の腱を叩いたり、筆でさわって感覚の消失がないかを調べ、首を動かしたり軽く上から熱を加えて症状が出るかどうかを見ます。
患者さんは右の手や指の感覚が薄いことがわかりました。
他の検査では異常がないことからこの感覚の薄さは医療機関に紹介するような重大な病気の所見ではなく一時的な症状の可能性と考えて、今後治療しながらその様子を見ていくことにしました。
次に首や肩の筋肉の状態を調べました。緊張している筋肉は右肩甲挙筋と右大胸筋、その奥にある小胸筋。肩甲挙筋は肩甲骨を頭の方に引き上げる筋肉で肩をすくめる動作をします。大胸筋はいわゆる胸板の筋肉。呼吸や腕を体に引き付ける筋肉です。小胸筋は肩を丸める動作をする筋肉です。寒いと背中を丸めて肩をすぼめますね。そのときに頑張る筋肉です。
それぞれの筋肉を押さえると固くて痛みを訴えます。また、さわってみて熱や腫れ赤みなどの炎症を疑う所見はありませんでした。
右肩甲挙筋を押さえて首を動かしてもらうと首の痛みが軽減し、小胸筋を押さえると腕にしびれが出ます。つまりこのしびれは小胸筋が関与していることがわかりました。
このような筋肉の障害を筋筋膜性疼痛症候群(MPS)と呼びます。治療の目的はそれぞれの筋肉の緊張を取り痛みやしびれが改善させることです。
以上のことを患者さんにお話して、さっそく治療を開始しました。鍼は初めてということで、一番細い鍼を使って軽い刺激から行うことにしました。長さ30mm、太さ0.12mmの鍼です。
多くの人は鍼を怖がります。この細さの鍼だと刺したときの痛みはまったくありません。「えっ!もう刺したの?」よく言われます。
今回行ったやり方は浅刺切皮置鍼(せんしせっぴちしん)というやり方で、約1mm刺入して15分間そのままにしておくやり方です。鍼は30mmありますがその長さすべてを使うわけではありません。30mmは使いやすい長さです。
鍼を刺す痛みはありません。もし痛みを感じたらすぐ抜くことを最初にお話してあります。
そうやって最初うつ伏せで15分間、次に仰向けで15分間鍼を行いました。
治療後、首の痛みや腕のしびれはなくなりました。筋肉の緊張も取れて首を動かせるようになりました。
①障害のある筋肉が少数で特定できる、
②炎症がない、
③脊椎や脊髄、神経根の障害がないなど、
条件が揃えば一度の鍼灸治療で痛みやしびれはとれます。
最後に冷やさないこと、育児で疲れをためないようご家族と分担すること、もし何かあれば早めに受診することをお話して治療を終了しました。
そして寝違えたときにはこのツボ!
「肩貞(けんてい)」。
このツボはわきの後ろにあって手太陽小腸経という経絡に所属するツボです。貞とは付け根という意味です。腕を木の幹に例えています。肩や首の病気に効果があります。
気を付けの姿勢をしたときにわきの後ろ側に縦じわができます。そのしわの先端から上に3㎝あがったところにこのツボはあります。
押し方のポイントは肩甲骨の外側、硬い骨に向かってグイっと押し込んで10秒保持したまま首をゆっくり横に揺らします。右・左・右・左と。そうやって20秒。
けっこう痛いです、わきがw
それをガマンして合計30秒。首の痛みは減っているはずです。それでも楽にならなかったら
鍼灸しましょう!
首が痛くなったら「肩貞」を押せ!